投稿日:2025年6月18日

ソフトウェア開発の実践的品質検証と定量的マネジメント

はじめに:製造業におけるソフトウェア開発の品質の重要性

ソフトウェアが組み込まれた製品やIoTの普及により、製造業においてもソフトウェア品質の確保は避けて通れない課題となりました。

従来は「ものづくり」といえば部品精度や組み立て技術がイメージされがちでしたが、今や生産装置、製品、品質管理システム、調達管理など、ありとあらゆる領域でソフトウェアが大きなウエイトを占めています。

ですがまだ「昭和」の現場感が根強く、ソフトウェア品質についても担当者任せで見過ごされるケースが少なからずあります。

本記事では、現場目線で実践的なソフトウェア品質検証の進め方と、定量的マネジメント手法について詳しく解説します。

バイヤーやサプライヤー、現場技術者として知っておきたいポイントを網羅し、今後の業務改善やリスクマネジメントのヒントにしていただける内容を目指します。

ソフトウェア品質の「見えにくさ」とリスク

部品の不良は見えても、ソフトウェアの不良は見えない

部品や機械なら、目で見て手で触れて“不良”を検知できます。

一方でソフトウェア不良(バグ、要件漏れ、仕様過誤、セキュリティホール等)は、使ってみないと、あるいは運用してみないと判明しないものがほとんどです。

特にBtoBや工場系のシステムでは、現場が妥協して「現状動くからいいだろう」となるケースが散見されます。

この「なんとなく動いている」のが危険な落とし穴となります。

品質不良が及ぼす製造業へのダメージ

ソフトウェア品質不良は、リコールや生産ライン停止といった甚大なコスト損失、顧客からの信頼失墜、最悪の場合は命に関わる事故にもつながりかねません。

また、昨今のサイバー攻撃リスク増大により、ソフトウェア脆弱性の放置は工場全体の稼働停止というリスクを潜在的に抱えています。

これが「リアルなものづくり」現場に直結する時代背景を、調達サイド・供給サイド双方が明確に認識することが重要です。

製造業現場で実践できるソフトウェア品質検証手法

要件定義段階での「現場解像度」を上げる

失敗の8割は上流工程(要件定義)で生まれます。

昭和的現場では「言わなくても伝わるだろう」「システム担当に任せきり」という風潮が根強いですが、これが致命的な品質低下を生みます。

プロの目線でお勧めしたいのは、「現場業務フロー × ソフトウェア仕様」のダブルチェックです。

現場の作業者目線で、実際の動作や情報の流れを業務フローとして明文化し、それを基にソフトウェア仕様との齟齬が無いかチェックします。

また、想定外の利用ケース(イレギュラー操作、障害発生時対応)も徹底的に洗い出しましょう。

レビュー文化の醸成とドキュメントの活用

製造現場では図面や仕様書レビューが日常ですが、ソフトウェア設計やテスト計画書のレビューはおざなりにされがちです。

現場・調達・システムベンダーが定期的に集まり、設計書・コード・テストケース・手順書の「現場レビュー」を実施しましょう。

この場で、現場特有の業務知識を活かして「動作の落とし穴」「想定外の不具合」が炙り出せます。

レビューチェックリストやドキュメント共有サイトも活用し、情報の透明化・ノウハウの蓄積を図ることが肝心です。

妥協しないテスト計画と現場実機テストの徹底

製造業で本当に必要なのは、「理想仕様」ではなく「現場稼働」での堅牢性です。

テスト計画は必ず現場担当者のインプットを取り入れて作成し、サプライヤー頼りの独自テストではなく、自社の現場実機(生産設備・端末・センサ等)での検証を必須化します。

テストケースは「正常系」「異常系(エラー発生時)」「復旧パターン」「サイバー攻撃系」を網羅し、不具合は些細でも全件記録、放置せず必ず次回改善につなげます。

また出荷前に第三者によるテストを組み合わせるダブルチェック方式も強く推奨します。

品質の「定量的」マネジメントとは

品質指標(KPI)の設定で現場品質を“見える化”する

「品質の定量的マネジメント」とは、感覚値でなく、数字で品質水準や改善活動の成果を評価・コントロールすることです。

代表的なソフトウェア品質指標は以下のようなものがあります。

  • バグ発生密度(バグ件数/開発工数・テスト件数)
  • レビューフィードバック率(レビューで発見された問題件数 / 提出ドキュメント数)
  • リリース後のお客様からのクレーム/障害報告件数
  • テストカバレッジ率(実施テストケース数 / 必要テストケース総数)
  • セキュリティ脆弱性検知数

現場目線で特に有用なのは「実機障害再現率」(開発環境と現場で障害が再現した割合)や、「現場要望反映率」(現場からのフィードバックがソフトウェア改善に活かされたか)など、現場フィードバックを組み込んだ指標です。

PDCAサイクルとKPIマネジメント

一度作ったソフトウェアも、運用中に必ず改善ポイントが出てきます。

開発 → リリース → 運用 → フィードバック → 改善 というPDCAサイクルの中で上記KPIを毎月/四半期で定点観測し、「どこで不具合が多発するのか」「どんな工程で情報伝達ミスが起きやすいか」を見える化しましょう。

品質KPIは月次会議で必ず報告し、改善活動を現場全体でシェアできる文化が理想です。

これによって現場の“暗黙知”が“形式知”となり、サプライヤーや協力会社とも共通認識が深まります。

カイゼン文化でソフトウェア品質を継続的に高める

現場・調達の「カイゼン」をソフトウェアにも適用する

ものづくり日本の現場力は「小さな気付きの積み重ね(カイゼン)」にあります。

ソフトウェア品質にも同じアプローチが有効です。

たとえば、障害発生時の作業日報記録、現場レビューの改善点一覧、トラブル再発防止策マニュアルの更新など、現場に根ざしたカイゼン活動を定例化しましょう。

特に「失敗(障害や致命的バグ)」のオープンな情報共有と、その後の対策立案・水平展開はソフトウェア品質カイゼンの大きな原動力となります。

サプライヤー・バイヤーが知っておくべき交渉・連携ポイント

バイヤー視点では、「見積項目に品質検証・第三者レビュー・現場実機テストを明記」「品質KPIや障害対応時間を契約条件に加える」といった具体的依頼が有効です。

サプライヤー側も、自社の品質マネジメント体制や改善実績をKPIとともに見える化し、顧客への説明材料としましょう。

バイヤー・サプライヤー双方の目線が「単なるコスト」から「全体最適なリスク低減(トータル品質コスト)」にシフトできると、長期的な信頼関係と共創が生まれます。

まとめ:昭和から令和へ、ものづくりとソフトウェア品質検証の新常識

製造業の現場では、いまだ「目の前の動作が最優先」「システムは疎いから専門家任せ」というスタンスが残っています。

しかしこれからのものづくり競争力は、ソフトウェア品質の「見えないリスク」としっかり向き合い、現場改善ノウハウを生かしつつ、定量的なマネジメントと透明性ある連携を築くことが不可欠です。

バイヤー、サプライヤー、現場技術者が一体となって、「品質は結果」ではなく「日々の小さな改善活動の積み重ね」の上に成り立っていることを、今一度見直してみてはいかがでしょうか。

ソフトウェア品質検証・マネジメントは、「完成品チェック」から「開発工程全体の見える化・定量管理・カイゼン」に発想を転換することが、製造業の未来を支える道となるはずです。

You cannot copy content of this page