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機械設計と製図の基礎を押さえた設計力向上のための実務ポイント

目次
はじめに ― 機械設計の基礎が未来を拓く
製造業の現場では、最新のデジタル技術や自動化が注目される一方、いまだに“現場力”が重視されています。
特に、機械設計や製図の分野では、昭和時代から受け継がれてきたアナログ的な知見や、図面によるコミュニケーションの力がいまなお必須です。
必要なのは単なる情報の置き換えやデジタル化だけでなく、「基礎に根ざした実務力」の追求です。
この記事では、製造現場の第一線で数々の設計・調達・量産立上げなどを経験してきた立場から、これからの設計者や購買担当者に求められる実践的なポイントや、現場目線の考え方を解説します。
また、サプライヤー側の方にも、バイヤーが設計や図面で何を重視しているか・どんな視点で設計者とやり取りしているかがイメージできる内容になっています。
設計力とは何か ― 単なる図面作成のスキルではない
機械設計において「設計力」とは、たんにCADソフトを使いこなすことでも、綺麗な図面を描くための手先の器用さでもありません。
設計力の本質は、以下の要素の積み重ねだと言えます。
- ものづくり全体の流れの理解(工場のプロセス、購買・調達、保守まで)
- 設計図面を通じた正確で誤解のない伝達力
- 現場や加工現場の経験知に基づいた判断力
- 法規(安全・強度計算・規格)や企業ルールの知識
- コストと品質、納期・現場事情をバランスさせる調整力
昭和から現在まで通底する文化のなかで、ベテラン技術者が口癖のように言ってきた、「設計図面は現場や他部署のバトンであり、そこから誤解が生まれる余地を極限まで減らさなければいけない」という意識。
これが設計力向上の第一歩です。
現場目線の設計がもたらす効果
現場を理解した設計は、単なる作業効率化にとどまりません。
部品点数の削減、加工難易度の低減、ミス防止、納期短縮、そしてコスト低減にも寄与します。
調達や品質管理、生産管理との摩擦も減り、企業全体に大きなメリットをもたらします。
設計力向上のための“基礎” ― 押さえておきたい実務ポイント
1. 製図作法と図面の読みやすさにこだわる
図面は設計者自身のためだけに描くものではありません。
加工現場、調達部門、場合によってはサプライヤー(外注先)、または顧客がその図面を精査します。
そこで重要になるのが、
- 公差表記の適切さ
- 寸法のまとめ方(重複や曖昧さの排除)
- 投影法や断面図の正しい使い分け
- 材料・表面処理の明示
- JIS規格や社内基準に沿った記載
これらを守ることです。
また、「業界あるある」として、古い図面をそのまま流用し続けて規格違反や加工現場からのクレームが絶えないパターンが多く見受けられます。
自部門内に“設計レビュー会”や“図面品質監査”の仕組みを持つことが、トラブル防止には不可欠です。
2. 加工プロセスの理解と“作りやすさ”への配慮
設計者の図面によって、工場現場ではどんな加工フローが必要になるか、どこで難易度や手間が跳ね上がるかをイメージできているでしょうか。
旋盤、フライス、溶接、板金、鍛造、樹脂成形、熱処理など主な加工方法ごとに「どうしたら簡単に作れるか」「加工コストを下げられるか」を理解できているかが鍵です。
デジタル化やIoTは進展していますが、実際のライン現場では、工程不可や手戻りが“人の目”や“手作業”の部分で発生することが多々あります。
工場見学や現場へのヒアリングを積極的に活用し、「製図は現場の負担を減らすための武器」という考え方で取り組むことが重要です。
3. 調達・購買視点を取り入れた設計
設計図面が実際の調達・購買活動にどのような影響を及ぼしているのか。
ここを意識できる設計者は極めて貴重です。
図面上の“決めすぎ”はサプライヤーの選択肢を狭め、材料や加工方法のコストを無用に押し上げてしまうことがあります。
逆に、“決めなさすぎ”では品質ブレや不良の原因となり、後工程でのトラブルを誘発します。
理想は、主要寸法や品質に直結する部分は厳格に指定しつつ、非重要箇所はコストダウンや購買担当からの提案を受け入れられるよう裁量を残すことです。
バイヤーの考えるコスト分解マインドや納期リスク、リードタイム短縮要求などを設計現場にフィードバックし、図面への反映を考えてください。
4. サプライヤーとのコミュニケーション
サプライヤー・外注先も、図面に基づいて現場を動かしています。
設計図面がもたらす曖昧さや誤解、または“現場慣習”とのズレが、生産不良や遅延の原因になることも少なくありません。
現場目線での打合せ(立ち会い評価、品質プロセスレビュー、見積り精査)を通じ、「なぜそこまで決めなければいけないのか」「どこまで調整可能か」といった本質的な摺り合わせを徹底しましょう。
実際にはサプライヤーからの“現場アイデア”を設計反映したことで大幅な工数削減や品質安定につながった現場事例も多くあります。
“下請けだから言われた通り作る”という昭和的な発想から、“ビジネスパートナーとして品質とコストをつくり込む”マインドへの転換が重要です。
5. 安全・法規・標準化 ― 見落としがちな“前提”を固める
設計者は、構造強度計算や安全ガイドライン、製品規格(JIS、ISOなど)をおろそかにしがちですが、これは設計責任の根幹部分です。
実務では、設計・品質・法務部門と協議しながら、法的観点・標準化観点からの設計審査をクリアすることが不可欠です。
「後追いで規格適合させる」ではなく、設計段階の最初から「法規・標準・リスク」を強く意識することで、設計の“手戻り”を防げます。
設計力を磨くための具体的なアクションプラン
1. 毎年1回は現場(加工・組立・検査)の“生の声”を聞く
設計部門から現場への異動や短期研修、小グループでの現場巡回、フィードバックヒアリングの場を積極的に持ちましょう。
技術の進化でCADやシミュレーションが進歩したとはいえ、“リアル現場”の本質には常に触れ続けるべきです。
2. ブループリントレビューの習慣化
完成した設計図面は、経験豊富なベテラン、加工現場担当、購買・品質管理など他部署と一緒に「レビュー会」を行いましょう。
「自分以外の人が見てどう感じるか」「現場の気持ちで読めているか」を毎回意識することが、図面レベルを一段階上げます。
3. サプライヤーからの提案を設計に活かす
サプライヤーとの商談・面談で、「うちならこうした加工が簡単にできます」「この表記が曖昧では?」といった現場提案を積極的に活用しましょう。
すべてを設計側が“指示”する古いスタイルから、協働の発想へアップデートしてください。
4. 失敗・トラブル事例から学ぶ“リスク設計”
図面ミスや加工不可、現場クレーム、納期遅れなど“失敗事例”をチームで話し合い、なぜ起きたのか、どこに設計上のリスクがあったのかを徹底的に掘り下げましょう。
自分だけでなく「他チームの失敗」も共有する風土が、組織全体の設計品質向上につながります。
よくある現場の悩みと“ベテラン技術者の知恵”
製造業の現場では、設計と現場、購買、サプライヤー間の“意識のズレ”や“思い込み”がトラブルの温床になっています。
例えば、
- 「こんな図面、どうやって加工すればいいんだ?」(加工現場)
- 「なぜこの材料指定?市場在庫が無いけど…」(調達部門)
- 「設計変更の伝達が遅れた結果、不良が量産された」(現場マネージャー)
といった事例です。
ベテラン技術者は、こうしたトラブルを“起こさない設計”、
つまり
- 余裕のある公差設定
- 標準品への積極的な置換え
- 設計変更のトレーサビリティ管理
などに知恵を絞ってきました。
自部門・社内のみならず、バイヤー・サプライヤーを含めた“全体最適”を志向するのが、プロフェッショナル設計者の到達点です。
おわりに ― 昭和の現場力 × 令和のデジタル力 = これからの設計力
機械設計と製図は、その基礎をおろそかにすれば、どれほど高度なデジタル技術を駆使しても“砂上の楼閣”になりかねません。
昭和から続くアナログの知恵を深めつつ、令和ならではのDX推進や協働マインドを融合させることで、設計力は次のステージに進化します。
設計者もサプライヤーも、現場の悩みや摩擦を減らし、「成果としての製品」「企業連携による価値創造」に向き合うために、ぜひ“基礎に立ち返る設計”から取り組んでください。
一人ひとりの「設計の原点」に向き合う姿勢こそが、これからの製造業で最も求められる“力”になるはずです。
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