投稿日:2025年6月18日

設計ミス・手戻り防止と設計品質向上策

はじめに:現場から見た「設計品質」の本質

「設計ミスによる手戻り」ほど、現場や工場に負荷をもたらす要因はありません。

製造業の最前線では、たった一つの小さなミスや仕様の食い違いが、何週間もの再設計・検証作業につながり、時には顧客の信頼すら失います。

現場経験を生かして強調したいのは、設計上流での品質確保こそが、全体最適への第一歩である、ということです。

昭和の時代から続くアナログな業務フローが色濃く残っている現場も多いですが、近年は設計プロセス改革が進み、DX(デジタルトランスフォーメーション)の導入も加速しています。

この記事では、20年以上の大手メーカー現場経験から、設計ミス・手戻り防止策、そして設計品質を根本から高める実践的方法を徹底解説します。

設計ミス・手戻りの典型パターンとその本質

なぜ設計ミスは繰り返されるのか

設計ミスや手戻りは、設計部門だけの問題ではありません。

バイヤーや生産管理、品質管理、さらには各サプライヤーも含めたチーム全体の「認識のズレ」や「情報不足」が根本原因となるケースが多いです。

特にアナログな業界では、設計図面や仕様変更が紙やExcelでやり取りされることが多いため、手作業による転記ミスや、工程間の情報伝達ロスが発生しやすくなります。

また、現場部門と設計部門のコミュニケーション不足、コストや納期重視による設計検証工程の省略なども、リスクを高める要素です。

設計ミスの主なパターン

– 顧客要求・仕様の読み違い
– 設計と製造現場の「つくりやすさ」や工程制約の認識ズレ
– 設計変更や追加仕様が現場へ適切に伝わらない
– 過去の設計「使い回し」よる不整合
– サプライヤーからの技術提案や、部品仕様の最新情報の反映漏れ

これらのパターンは、一方向の情報伝達・属人的なノウハウ管理に頼りがちな現場で特に目立ちます。

現場で実践してきた設計品質向上の王道アプローチ

1. 設計レビュー体制の強化

昭和には設計部門が「一人のエースエンジニア」に頼りきって進んでいた現場も少なくありませんでした。

しかし現在は、設計レビュー(DR: Design Review)を形式的に実施するのではなく、関連部門(生産技術、調達購買、品質管理、場合によっては主要サプライヤー)を巻き込むことで、「つくりやすさ」やQCD(品質・コスト・納期)の観点で立体的に検証することが不可欠です。

私が工場長時代に導入したのは以下のプロセスです。

– 設計初期段階でのマルチファンクショナルチーム(MFT)の編成
– PO(ペーパーレスオペレーション)による一次DR、二次DRの厳格な運用
– 「似た設計」の流用時も、必ず現状確認と変更点洗い出しを義務化

これによって、手戻り率・設計不良発生率が劇的に低減しました。

2. サプライヤーとのコミュニケーション深化

調達購買やバイヤーにとっても、自社設計部門が考えていること、苦しんでいるポイントを知ることは大切です。

逆に、サプライヤーの最先端技術やコストダウンの提案を設計に迅速に取り入れる仕組みがなければ、陳腐化リスクやコストパフォーマンス低下が避けられません。

そこで以下のような仕組みを推進しました。

– QCD・技術課題を設計とサプライヤーが定期的に「オープン」で議論する場を設定
– 設計・バイヤー・サプライヤーの三者会議をプロセス毎に設け、情報非対称性を排除
– SDP(Supplier Design Proposal:サプライヤー技術提案)データベースを構築し、設計基準にフィードバック

このような「共創型」コミュニケーションにより、最新技術の早期採用や、問題の未然防止が促進されます。

3. デジタル活用による設計データ・工程管理

従来の「紙図面やExcel管理」から脱却し、PDM(Product Data Management)、PLM(Product Lifecycle Management)といった設計情報統合基盤の構築が不可欠です。

例えば、

– 各部門が同じ設計データベースを参照する
– 設計変更履歴や承認フローを電子化し、変更経緯・影響範囲を明確化
– 設計予定と実績、進捗をリアルタイムで可視化

することで、情報の分断や見落としが激減します。

アナログに強く根付く現場であっても、DXの一歩めは「情報共有基盤の電子化」から始めるのが効果的です。

昭和・平成型のアナログ現場にこそ求められる「ラテラルシンキング」

製造業では、「これまでこうやってきたからこれでいい」という思考停止が根付きやすい傾向にあります。

ラテラルシンキング(水平思考)は、既存の枠組みから一度離れ、多角的アプローチをとる考え方です。

設計ミスや手戻り防止にも応用できるこの発想で、現場目線から以下のような展開をぜひチャレンジしていただきたいと思います。

冗長な「チェック」から脱却して「Why」を掘る

設計フローでは「ダブルチェック」「トリプルチェック」が定番ですが、それでもミスはなくなりません。

なぜなら、「なぜこのチェックをしているのか?」を深掘りせず、形だけの作業になっていることが多いからです。

例えば、「図面寸法の転記ミスを毎回チェックしている場合」、そもそも手入力をやめ、自動連携できないかを洗い直すことこそが抜本対策です。

若手・第三者の意見を積極取り入れる

ベテラン設計者ほど「暗黙知」に頼りがちですが、まったく別フローを経験した若手や、調達・生産技術からの「素人質問」にこそ思わぬ盲点が隠されています。

MFTやレビュー会議には、若手や一線部門をあえて「レビュアー」として参画させることで、新たな視点から問題点が顕在化しやすくなります。

現物・現場・現実主義(3現主義)の徹底

図面だけではなく「実物を作ってみる」ことでようやく見えてくる設計上の落とし穴も数多いです。

3Dプリンタなど新技術を活用すれば、試作・検証コストの壁も乗り越えやすくなっています。

現場の声に耳を傾け、「作業者目線でのレビュー」を取り入れることが設計品質の本質的な底上げとなります。

設計品質向上のための、これからのキャリア・身に付けるべきスキル

設計者は「現場・調達・品質」横断力を高める

設計部門の方は、「設計者=図面を書く人」という狭い枠から脱却しましょう。

製造現場やサプライヤーの制約を理解し、品質管理やコスト管理の知識も獲得することで、「設計の経験値」が飛躍的に高まります。

現場や調達購買部門への短期出向など、人材ローテーションを積極的に経験すると幅広い視点が身に付きます。

バイヤー・サプライヤーこそ「設計理解」が武器になる

バイヤーを目指す方、サプライヤーとして顧客に価値を訴求したい方は、設計図面の読み方、設計部門が重視するポイントを深く理解しましょう。

要求仕様と実現案のギャップを「設計工程でどのように埋めていくのか」を理解しておくことで、バイヤーとサプライヤーのコミュニケーションも円滑になり、単なる価格交渉ではなく、価値提案型のカスタマーリレーションを築けます。

まとめ:設計品質向上は「全員経営」の精神で

本記事で強調したいのは、「設計品質=設計者だけの責任」ではないということです。

設計品質の向上は、設計、現場、生産管理、品質管理、調達購買、さらにはサプライヤーも含めたチーム全体で継続的に取り組むものです。

昭和型の「個人技」やアナログな情報伝達に頼るだけでは、今後のグローバル競争に勝ち残ることはできません。

設計部門は現場目線・調達購買目線・サプライヤー目線を取り入れ、バイヤーやサプライヤーも設計理解を深め、「全員経営」の精神で設計品質を高めていくことが、製造業発展の鍵となるのです。

一人ひとりがラテラルシンキングで改革の主体者となり、未来へ向けた新たな製造業の地平線を共につくっていきましょう。

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