投稿日:2025年9月8日

トランジットビザ・通行許可不足で国境越えできない陸送の予防策

トランジットビザ・通行許可不足はなぜ起きるのか

製造業において、国境を越える陸送は避けて通れない業務です。
特にアジア圏、ヨーロッパ圏、南米など複数の国をまたぐサプライチェーンの場合、トランジットビザや通行許可の管理は極めて重要です。
それにもかかわらず、現場では「うっかり忘れ」「思い違い」「制度改正の見落とし」などによる不足や申請ミスが後を絶ちません。
本章では、その根本要因を掘り下げます。

知識と情報のアップデート不足

トランジットビザや通行許可は、国ごとに要件・運用が異なります。
さらに法改正や国際情勢の変化で、急に必要書類や審査基準が変わることも珍しくありません。
「これまで通れたから大丈夫」という“昭和的思考”が、最新事情への感度を鈍らせ、思わぬトラブルに発展しています。

業務の属人化と分業のほころび

長年同じ職員に任せきり、ノウハウが個人に依存している状態はありませんか。
分業化の中で「誰かがやるだろう」「連携しているはず」という思い込みによって、チェック漏れや申請ミスが発生しています。

コスト意識の偏り

一見無駄に見える書類準備や事前確認は、「コスト削減」の掛け声のもと軽視されがちです。
しかし、トランジットビザや許可証の不足が、配送遅延や罰金・損害賠償など、後で大きなコストをもたらす現実も直視しなければなりません。

通行許可不足が製造業にもたらす致命的なリスク

トランジットビザや通行許可不足は、単なる“現場の手間”にとどまりません。
サプライチェーン全体や企業の信用を大きく揺るがす深刻なリスクが存在します。

納期遅延と供給不安

部品や原材料が国境で足止めされれば、ライン停止・納期遅延をもたらします。
特に自動車業界やエレクトロニクス産業など、ジャストインタイム生産を採用している現場では、1つの遅延が雪崩のように生産全体へ悪影響を及ぼします。

顧客とサプライヤーの信頼失墜

数日間の遅れでも、BtoBビジネスでは取り返しのつかない信頼損失につながることがあります。
一度「信頼できない会社」の烙印を押されると、新しい案件を受注するハードルは跳ね上がります。

法的トラブルや課徴金リスク

トランジットビザや許可証の不備によって違法越境が発覚すると、現地当局から罰金やペナルティ、最悪の場合は出荷停止処分を受ける可能性もあります。
これは会社の対外的イメージ低下、業績悪化に直結します。

昭和から抜け出せないアナログ管理の限界

今なお多くの中小製造業の現場では、通行許可やビザ管理をExcelや書類ベースの手作業で運用しています。

“つい漏れる”リスクの温床

紙帳簿の記入漏れや、連絡ミスによるヒューマンエラーが慢性的に生じています。
また担当者の属人化、引き継ぎ不足によって、不測の異動や退職時にはブラックボックスが発生し、リスク管理が難しくなっています。

急激な変化や多様な経路に対応できない

例えば、感染症による国境管理強化や、政情不安によるルート変更には、アナログ管理では即応できません。
結果として「お客様への連絡が遅れた」「トラックが現地で立ち往生」といった致命的事故に繋がります。

DX導入が進みにくい心理的抵抗

長年のやり方で慣れてしまった現場では、「今さらIT化しても大して変わらない」「皆に教育し直すのが大変」といった心理的障壁が根深く残っています。

現場視点で実践できる予防策

こうした背景を踏まえ、製造業現場で本当に有効な“予防策”を、私自身の20年以上の経験から、現実的に実践できるものに絞ってご紹介します。

トランジットビザ・通行許可チェック表の導入

各国の必要書類・許可証一覧、発効日と有効期限、担当者名、申請状況などを一覧で管理するチェックシートを作成します。
この表は紙でも簡易ITツール(ExcelやGoogleスプレッドシート)でも構いません。
必須項目を「赤字」「太字」などで視覚的に強調し、担当者全員と共有することが大切です。

申請業務の“ダブルチェック”体制

1名任せにせず、少なくとも2人体制で、相互に申請・許可管理を確認し合います。
急な休暇や異動、退職にも柔軟に対応でき、ミスの抑止力となります。

最新動向のウォッチとアップデート体制構築

対象国の大使館HPや物流会社事務局など、公式情報源を最低月1回はチェックする仕組みを作ります。
情報収集は担当者だけに頼らず、全社で声がけできるオープン掲示板や社内チャットなどを活用するのもおすすめです。

「トラブル事例集」と「ルールの見える化」

過去に発生したビザ・通行許可関連トラブル事例をまとめ、現場の誰でも参照できる形で共有しましょう。
同じミスを二度と繰り返させない教育ツールになるとともに、新人教育にも有効です。

外部パートナー(フォワーダー・専門業者)との連携強化

自社対応が難しいケースでは、国際物流に精通したパートナー(フォワーダー、運送会社等)と定期的にミーティングを持ち、最新ルールや避けるべき落とし穴の情報交換を行うことも有効です。

「現場×管理×情報システム」の三位一体推進

紙やエクセルのリスト管理が限界なら、業界向けのクラウド型通行許可管理ソリューションの活用も視野に入れましょう。
小規模な導入から始め、現場担当者の声を吸い上げながら、柔軟なカスタマイズや運用ルール改善を進めることが成功のコツです。

バイヤー・サプライヤー双方の視点を持つ重要性

本テーマはバイヤー(調達側)だけでなく、サプライヤー(供給側)にとっても無縁ではありません。

バイヤーが考えていること

バイヤーは「調達先(サプライヤー)がどれだけリスク管理を徹底しているか」を常に注視しています。
一度でも許可証不足による納品遅延を起こせば、今後の契約更新が危うくなる懸念があるため、厳しい目線で管理体制や再発防止策を確認しています。

サプライヤーが知っておくべきこと

サプライヤー側でも自社の見える化・情報共有体制を確立し、トラブル発生時には速やかにバイヤーへ事情説明・再発防止策を提示できることが信頼構築において不可欠です。
また「現地法制度改正情報」「物流パートナー選定基準」なども、質の高いサプライヤーとして評価されるポイントになります。

双方が“情報のキャッチボール”を意識する

バイヤーから「この書類は大丈夫か?」「最新の手続きは?」といった照会があれば、内容を正確に復唱・説明できる体制を作りましょう。
一方で、サプライヤーからバイヤーへ積極的に“気づき”や“改善提案”を投げかけることで、価値あるビジネスパートナーとして認めてもらえます。

まとめ:最前線の意識改革が突破口となる

トランジットビザ・通行許可の管理は、単なる“物流の一要素”に留まらず、企業ブランドとサプライチェーンを守る最前線の砦です。

「アナログでも地道にチェック」「ルールを人任せにしない」「最新情報を全員でキャッチアップ」「トラブルを恐れずオープンに共有」――
これらの地道な取り組みが、予防策として最大の効果を生み出します。

自動化やDX、クラウド管理への一歩も、現場の声を吸い上げることで“使える”仕組みになります。
バイヤー、サプライヤーどちらの立場でも、率直なコミュニケーションと実践的なリスク予防が、国境を越えて成長し続ける製造業を支えるのです。

あなたの現場なら、どの取り組みから始めますか?
今こそ、次の一歩を。

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