- お役立ち記事
- 靴のアッパーとソールの剥がれを防ぐプライマー処理の技術
靴のアッパーとソールの剥がれを防ぐプライマー処理の技術

目次
はじめに:製造業の現場で直面する「剥がれ」の課題
靴づくりに携わる現場では、アッパーとソールの剥がれに頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。
何気ない一足にも、見えない接合技術と蓄積されたノウハウが詰まっています。
特に、アッパー(甲部分)とソール(底材)の接着は、靴の品質や安全性、長期的な信頼に直結する極めて重要な工程です。
しかしながら、古くからのアナログな製法や、現場独自の慣習、コスト優先の短期的判断、設備の老朽化などが影響し、未だに「剥がれ」は多くの現場で課題となっています。
いかに優れた材料や接着剤を用いても、下地処理、すなわちプライマー処理を疎かにすると、数か月後、数年後に不具合が発生しかねません。
本記事では、製造現場での実践的な視点から、靴のアッパーとソールの剥がれを防ぐプライマー処理の基礎知識と最新動向、そして今後求められる工夫やマインドセットまでを、徹底的に掘り下げて解説します。
靴のアッパー・ソール剥がれの本質を知る
なぜ「剥がれ」は起きるのか?
まず「剥がれ」の現象は、単なる接着剤の不良ではありません。
現場で発生する主な原因には、下記のような要素があります。
– アッパーやソール表面の残留油脂、ホコリ、薬剤などの汚染
– 素材が持つ化学的特性(疎水性/親水性、極性/非極性)
– プライマーや接着剤の選定ミス
– 施工工程の不均一(乾燥時間や温度、圧着条件のばらつき)
– 作業員のスキル差、現場教育の不足
この中でも、とくに「素材同士の本質的な接合性」を高める下地処理、いわゆるプライマー処理の出来が「剥がれ」撲滅に大きなウエイトを占めています。
アナログ製法に根差す“勘”と現代技術のギャップ
製造現場では、「このやり方で昔から大丈夫だった」「職人の経験が頼り」という慣習が色濃く残ることが多々あります。
しかし、素材の多様化や市場グローバル化が進む現代では、過去の経験値だけでは対応しきれない場面が増えています。
現場志向を活かしつつも、科学的根拠に基づく可視化や標準化、そして最新技術のキャッチアップが求められる時代です。
プライマー処理の基礎:役割とメカニズム
プライマーとは何か?
プライマーとは、接合する素材表面に塗布することで、接着剤との密着性を高める「橋渡し剤」です。
アッパーやソールがもつ表面エネルギーの違いや、表面層の構造的な障壁を補い、安定した接着を可能にします。
例えば、ポリウレタン系やTPR(サーモプラスチックラバー)など、もともと接着剤がなじみにくい素材でも、適切なプライマー処理によって剥がれリスクを大幅に軽減できます。
プライマー処理が担う4つの役割
1. 表面汚染物質の除去
2. 表面エネルギーの増大化(親水化や極性化に寄与)
3. 接着剤との化学的結合の強化
4. 凸凹への追従性を高める
この4つが揃うことで、初めて長期間にわたり剥がれにくい接合が実現できるのです。
素材別・靴製造のプライマー処理ポイント
アッパー(甲材)の下地処理
アッパーに使用される素材は、天然皮革・合成皮革・ナイロン・ポリエステル・キャンバスなど多彩です。
それぞれの素材で必要なプライマー処理の種類や手順が異なります。
たとえば、
– 天然皮革:油脂、タンニンなどが残りやすい。表面脱脂と専用プライマーが必須
– 合成皮革:塩ビやPUコーティング層の状態を見極める。サンドペーパーや溶剤拭き併用が効果的
– ナイロン系:親水化処理(フレーム処理やプラズマ処理)+プライマー選定がカギ
– メッシュ素材:必ずしも全体塗布は不要、要点着けが有効
下地準備一つで、製品寿命が大きく左右されます。
ソール(底材)の下地処理
ソール素材も、ゴム・EVA・PU・TPRなど多様化しています。
素材ごとに「剥がれやすい部分」が異なるため、適切な洗浄・サンディング・プライマー塗布の工程が肝心です。
– ラバー(ゴム):硫黄成分や可塑剤の除去と専用プライマーが定番
– EVA:サンディング後、界面活性剤系プライマーを推奨
– PU(ポリウレタン):ブロッキング劣化(黄変)対策のチェック必須
– TPR:シリコン残渣が多いため、表面の徹底脱脂とプライマー選定が命
いずれにしても、「現物の状態」に合わせて工程管理を緻密に行うことが、不良削減への近道です。
技術革新と現場のDX化が引き起こす変化
従来の「手作業頼り」からの脱却
日本の靴メーカーやサプライヤー現場では、今なお手作業が幅広く残っています。
ですが、ラミネーター(自動塗布機)やプラズマ処理装置の導入、AI検査によるプライマーの塗布量可視化など、現場のデジタル化が急速に進みつつあります。
これにより、
– 作業者のスキル差による品質のばらつき低減
– 作業記録のトレーサビリティ確保
– 廃棄プライマーやVOC(揮発性有機化合物)の削減
といった効果が期待できます。
今後は「勘」と「データ」のアジャイルな融合こそが強い現場の新常識となります。
サプライヤーとバイヤーの視点から見るDX
バイヤーを目指したい方、およびサプライヤーの方も、技術進化の波はスルーできない時代です。
どんなにコストメリットを訴えても、アッパーやソールの剥がれトラブルが表面化すれば「信頼」を一瞬で失います。
「プライマー処理は現場任せ」から、「エビデンスを提出できる確実な処理」へと、工程の根拠や記録が無視できない取引基準へと変わっています。
「定量的指標の提示」や「工程の再現性」をどう仕組み化するかが、今後の提案営業や競争力のカギになるでしょう。
QCD(品質・コスト・納期)意識と剥がれリスクの本質的対策
現場としては「剥がれを防ぐ」ことが目標の根幹ですが、追求するほどコストやリードタイムとのバランスが悩みどころになります。
– 品質重視でコスト上昇
– コスト重視で剥がれリスク増
– 納期短縮で処理が疎かになる
工程のどこにどのリソースを割くかはQCDトレードオフの典型例です。
ですが、剥がれトラブルの多発は結局、再作業や回収、取引停止という高コストに帰結します。
「目先ではなくライフサイクル全体最適での判断」が管理職や工場長に求められます。
プライマー処理の未来:“ラテラルシンキング”で実践力を高める
プライマー処理ひとつ取っても、その奥には「素材」「化学」「プロセス」「設備」「人材教育」「顧客視点」とさまざまな要素が複雑に絡みます。
だからこそ、固定観念に縛られず、他業界のノウハウや新技術、化学的なアプローチの応用など、幅広い発想が現場を進化させます。
– 医療品の無菌工程管理から作業標準化を学ぶ
– 自動車業界の塗装前処理データ管理との連携を検討
– データサイエンスで塗布量変動を解析、最適化
こうした「ラテラルシンキング(水平思考)」が、昭和的現場文化を超え、グローバル競争に耐える靴製造現場への第一歩となります。
まとめ:現場とともに進化するプライマー技術
靴のアッパーとソールの剥がれ防止策は、単なる作業の一工程ではなく、現場全体のマインドセットや価値観の写し鏡です。
職人技と検証データ、そして最新技術の導入が三位一体となったとき、本当の“高品質”が実現します。
現場を支える技術者も、バイヤーも、サプライヤーも、ひとつ上の視座から「剥がれ撲滅の本質」に向き合い、新たな付加価値創出にチャレンジし続けましょう。
付加価値ある靴づくりは、現場発の徹底したプライマー処理から始まります。
それが、製造業の未来と信頼を守る最前線です。
資料ダウンロード
QCD管理受発注クラウド「newji」は、受発注部門で必要なQCD管理全てを備えた、現場特化型兼クラウド型の今世紀最高の受発注管理システムとなります。
NEWJI DX
製造業に特化したデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を目指す請負開発型のコンサルティングサービスです。AI、iPaaS、および先端の技術を駆使して、製造プロセスの効率化、業務効率化、チームワーク強化、コスト削減、品質向上を実現します。このサービスは、製造業の課題を深く理解し、それに対する最適なデジタルソリューションを提供することで、企業が持続的な成長とイノベーションを達成できるようサポートします。
製造業ニュース解説
製造業、主に購買・調達部門にお勤めの方々に向けた情報を配信しております。
新任の方やベテランの方、管理職を対象とした幅広いコンテンツをご用意しております。
お問い合わせ
コストダウンが利益に直結する術だと理解していても、なかなか前に進めることができない状況。そんな時は、newjiのコストダウン自動化機能で大きく利益貢献しよう!
(β版非公開)