投稿日:2025年6月13日

問題解決力とカイゼン未然防止力向上実践講座

はじめに:製造業における「問題解決力」と「未然防止力」の本当の意味

現代の製造業では、単に与えられた課題を解決するだけでなく、トラブルの「芽」を未然に摘む力が求められています。

高度成長期から脈々と引き継がれた現場主義や現物主義は、平成、令和と時代を経ても根強く存在しています。

しかし、急速なデジタル化やグローバル化が製造業を取り巻く中、「問題解決」と「未然防止」の考え方もアップデートが不可欠です。

本稿では、現場目線の実践的なノウハウと、本質的なカイゼン力育成に寄与するラテラルシンキング的アプローチを紹介します。

問題解決力とは何か?現場が求める真の「問題」とは

「問題」とはギャップである

多くの現場では「トラブル=問題」と捉えがちですが、本質的な問題とは「あるべき姿」と「現状」のギャップです。

一見、目立たない小さな不具合や、数字に表れないムダも、問題の芽です。

現場に根付く“鶴の一声”や“前例踏襲”の文化は、問題を形式的に片づけ、根本原因を見失いやすくしています。

問題解決の第一歩は、現場の声やデータを多角的に捉え、「本当に解決すべきギャップ」を見極めることです。

なぜ問題が繰り返されるのか?三現主義だけでは足りない時代

昭和の現場力を支えた「現場・現物・現実(3現主義)」は、今もなお価値があります。

しかし、複雑化したサプライチェーン、多品種少量生産、働き方改革など、環境の変化に応じた「ラテラルな観点」の導入が必要です。

「なぜなぜ分析」「なぜ5回」の徹底も、視点の広がりがなければ表面的な原因追及で終わります。

広い視野で多様な要因を捉えるラテラルシンキングこそ、「真の問題解決力」につながります。

未然防止力とは?異常の兆候を掴む組織文化

未然防止の重要性:「顕在化」への備えから「潜在的」な対策へ

従来の品質管理や生産管理では、不良やトラブル発生後の対策が主流でした。

一方、近年は「ゼロディフェクト」や「レジリエンス(回復力)」がキーワードとなり、発生前の“兆候”をつかむ力が問われています。

兆候に気づける現場力、組織でノウハウを共有する仕組み、そしてエスカレーションをためらわない心理的安全性。

これを「未然防止文化」と呼びます。

事例:ヒヤリハットを活かす現場づくり

昭和の製造現場では「ヒヤリハット」の体験を個人の経験値として蓄積する傾向が強くありました。

しかし、これを「暗黙知」から「形式知」へと転換し、組織全体でナレッジとして活用することが重要です。

例えば、日々の朝礼や小集団活動で、「直近の気づき」や「小さな異常」「違和感」を共有する仕組みを運用します。

さらに、それらを予兆管理シートやデジタルツールでデータ化。

属人的な“カンと経験”から脱却し、定量的・俯瞰的にリスクを可視化することが、再発防止・未然防止の決め手になります。

現場で使える!問題解決・未然防止のカイゼン手法と成功事例

なぜなぜ分析の本質活用:『人』ではなく『仕組み』に着目する

多くの現場で「誰が間違ったのか?」に終始する傾向があります。

しかし、問題解決の鉄則は「人を責めない」こと。

例えば資材納期遅延が発生した場合、「担当者の伝達ミス」で済ませるのではなく、「どうしてミスが発生したのか」「なぜその仕組みが必要なのか」を徹底的に掘り下げます。

情報伝達の仕組み、システム運用ルール、外部との境界条件…と因果をどんどん遡っていくことで、再発を根本的に防げるカイゼンに繋がります。

FMEA、FTAの現場的活用:未然防止の最前線

FMEA(故障モード影響解析)やFTA(故障の木解析)は、大手自動車や電機メーカーで古くから使われてきたリスク分析手法です。

しかし、フォーマットに記入するだけで満足しがちなのが現場の実態。

実効性を高めるには、現場のライン作業員や設備保全担当者と一緒になって「実際にどこでどんな失敗が起こるか」を議論し、情報を掘り下げることが不可欠です。

また、最近ではIoTやAIとの連携も進み、過去の不具合データや設備ログを解析して「見逃されやすい異常の前兆」も抽出できるようになっています。

アナログ思考とデジタル技術の融合こそ、今後の未然防止の勝ち筋です。

現場負担ゼロの仕組みづくり:小さな仕掛けで大きなカイゼン

現場目線で大切なのは、「カイゼン活動自体が新たな負担やムダになっていないか?」という批判的視点です。

例えば、報告書フォーマットのシンプル化、バーコードやタブレットを活用した自動収集、デジタルサイネージによる目視確認の省人化など。

「現場に負荷をかけず、自然に未然防止情報が集まり続ける…」そんな“仕組みで回す現場カイゼン”を目指すことが、現代のスマート工場の本質です。

バイヤー・調達部門も「問題解決力」「未然防止力」が必須

調達・購買の現場:価格交渉力だけでは生き残れない

バイヤーを目指す方、サプライヤーの方にとっても、問題解決力・未然防止力は武器となります。

サプライヤー選定や部材調達では、コストダウン交渉ばかりに目が行きがちですが、トラブル予兆への感度、納期リスクのリスクヘッジが不可欠です。

現場や開発部門と密に連携し、サプライヤー情報や過去トラブルのナレッジを共有。

安さやスペックだけでなく、「一緒に未然防止・カイゼンに協力できるパートナーか?」を重視する視点が、新しい時代のバイヤー像です。

サプライヤー視点:顧客の本当のニーズを掴む

サプライヤーの立場でも、顧客(バイヤー)がどこにリスクを感じているか、どんな先回りを望んでいるかを察知することが“未然防止力”です。

例えば、納期遵守のためのバックアップ生産体制や、製品不良出荷前のセルフレビュー制度の導入、納入後のトラブルにも素早く対応できる仕組みづくり。

単なる「物の供給」から「問題解決・未然防止を担うパートナー」へと進化することで、顧客との信頼が生まれ、安定受注や新規商談のきっかけとなります。

「昭和から脱却」するためのラテラルシンキング的アプローチ

従来の延長線にはないカイゼンの種を拾う

これからの製造業が成長するカギは、「今まで通り」では触れられなかったボトルネックや、業界慣習の“バイアス”を打破することにあります。

ラテラルシンキング=横方向思考とは、従来の論理的思考では到達できなかった新しい解決策を模索するアプローチです。

たとえば、「現場に電子帳簿保存を義務付ける」という発想を転換し、「各工程で自然とデータが自動収集される仕掛け」を導入する。

あるいは、「設備停止を忌避」するのではなく、「小さな停止や段取り替えの頻度を逆手にとってライン柔軟化研修を行う」など。

慣れてしまった当たり前(アナログ現場の常識)を問い直し、「なぜそうしてきたのか?」「本当に最適か?」と深掘りすることが、次の変革を生み出します。

多様な人材の知見を融合:“未経験者の視点”を戦略的に取り入れる

ドメイン知識だけに頼らず、異業種出身者、若手、女性、ITエンジニア、外国人スタッフなど、多様な視点を積極的に議論に巻き込むことが大切です。

古参社員だけでは気付けなかった「気になる異音」や「不自然な作業動線」など、小さな気付きが大きなカイゼンに結びつく例は無数にあります。

現場力とは、「同質性の強いベテラン集団」ではなく、「違いを活かせる組織風土」から生まれるという視点が、これからの成長企業に不可欠です。

まとめ:これからの製造業に求められる「問題解決・未然防止力」

いま、製造業はかつてない変革期にあります。

古き良き現場力のDNAを引き継ぎながらも、アナログからの脱却・異分野の知見・デジタルの活用・多様化への対応が求められています。

「問題解決力」と「未然防止力」は、単なる個人の能力だけでなく、組織の文化やシステムと一体化して初めて本当の効力を発揮します。

今回紹介した実践ノウハウやラテラル思考法をヒントに、皆様が「新しい問題解決者」「未然防止の旗振り役」として、現場から業界全体の発展に貢献されることを願っています。

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