投稿日:2025年9月23日

工場改善のシナリオを図解できないコンサルの問題点

はじめに:工場改善の本質とは何か

製造業に勤める多くの方が直面する「工場改善」という課題は、日本のものづくり企業にとって永遠のテーマです。

数多くのコンサルタントが現場に入り、「改善案」を提示するものの、“本質的な変化”が現場へ根付かないという現象をよく耳にします。

では、なぜ改善のシナリオを「図解」できないコンサルタントが現場で壁にぶつかってしまうのでしょうか。

本記事では、現場の目線に立ちつつ、「図解」「シナリオ構築」など核心に触れながら、コンサルタントと現場、そして未来の製造業の発展へのヒントを追求していきます。

なぜ“図解”ができないと現場は動かないのか

図解力の有無が現場改善の分かれ目

工場改善の現場では、「理屈はわかった。でも結局どう変えればいいの?」という声が頻繁に上がります。

頭の中の改善イメージや提案が、現場のスタッフや各階層のメンバーに正確に伝達されなければ、行動は生まれません。

その意思疎通の「潤滑油」となり得るのが“図解”です。

図解は、バリューストリームマップ、ラインバランスチャート、工程フロー、供給網全体のロジックツリーなど多彩な形で現れます。

もしコンサルタントが、これらを「図解」して示せない場合、現場は
「本当に分かっているのか?」
「今ここで何を直せば次にどうつながるのか?」
という根本的な信頼や納得を得られません。

言葉だけのコンサルはなぜ信頼されないのか

昭和から続く多くの製造業現場には、「現場と本社/現場と現場外部の人材」に明確な壁があります。

「机上の空論では現場は変わらない」
「美辞麗句よりも現物・現場・現実だ」
この“現場原理主義”の文化が、コンサルタントの机上論を跳ね返します。

図解とは、言葉や概念を「現場で目に見える可視化」に落とし込む作業です。

それによって、理論が論理性をもち、納得感と動機付けを現場にもたらすのです。

工場改善のコンサルにありがちな失策例

ケース1:抽象的なフレームワークの押し付け

一般論ですが、工場改善コンサルタントが「5Sを徹底しましょう」「自働化を進めましょう」「カンバン方式を導入しましょう」と提案することは多いです。

しかし、その全体像が「どこからどこへ」変わるかが図解で示されないまま現場に落とし込まれると、「何をどう変えるのか」が現場スタッフに伝わりません。

例えば、5S活動のビフォー・アフター、工程のボトルネック部分と改善後の期待値、定量的な作業時間短縮シナリオなどを実際の現場写真、作業フロー図、数値チャートなどで“見える化”しなければ、響きません。

ケース2:「改善あるある」を並べて終わる

「棚卸在庫が多いですね」「仕掛かり在庫が滞留してますね」といった指摘はベテラン現場作業者でも気づいています。

しかし、「なぜこうなっているのか」「どうやって減らすのか」「減らした後に何が起こるか」を工程レベル・部門レベルで「図解」し、「現状の全体像→理想の全体像」まで一貫して見せること。

これがコンサルタントの役割であり、図解できなければ、ただの指摘屋で終わってしまいます。

ケース3:図解しても抽象度が高すぎる

図解ができても、バリューチェーンのイメージ図や概念ピクト図などフワッとした抽象論だけになってしまうケースも見受けられます。

大事なのは、“現場写真”や“作業現場レイアウト”、“工程ごとの作業手順”まで踏み込んだ上で、誰がどう変えるとどの数字(リードタイム、稼働率、歩留まり、原価、在庫回転率)がどう動くかを紐づけることです。

これにより現場の納得と主体的な改善アクションが生まれます。

なぜ昭和的アナログ現場では図解が根付かないのか

口頭依存、帳票文化の強さ

日本の昭和型製造業では、「勘・コツ・経験」で語り継いだ知見が尊重され、現場のタイプ別帳票、チェックリストがそこに根付いてきました。

その結果、「図解」によるシナリオ共有やビジュアル思考が定着しづらい土壌が形成されています。

しかし、IoTやデジタルダッシュボード時代の今、図解やデータ可視化の重要性は格段に増しています。

現場の合意形成手法が変わりつつある

若手社員や技能系以外の多様な人材が現場に増えており、視覚に訴えるマニュアルやビジュアルコミュニケーションが有効になっています。

しかも働き方改革や多能工化、外国人技能実習生の増加など、言語や文化の壁を越えた「見て分かる」共通言語が必要になっています。

図解にも「現場力」と「サプライチェーン全体」が必要

点ではなく線、面、立体で描くシナリオ

現場改善の「図解」は、単に一工程の改善だけに留まりません。

購買・調達、生産計画、物流、品質、原価、そして最終顧客まで一貫したバリューチェーン全体を「面」で捉え、その中でどこを動かせばどの波及効果があるか、「立体的」にシナリオを組み立てる発想が重要です。

購買バイヤーの目線では、「調達先での納期遅延→工程遅延→出荷遅延→現金回収の遅れ」という一連のフロー全体を図解し、どこでどう対策するかを“見える化”します。

一方、サプライヤー目線で見ると、「バイヤーがどこで困っているか」「現場で何が詰まっているか」を図解で俯瞰することで、的確な提案やコミュニケーションが可能になります。

「なぜそうなるのか」「どう変えるのか」プロセス指向で図解

大切なのは「工程のどこに、どんな課題(無駄・ムリ・ムラ)があるのか」を
・現状把握の“見える化”
・理想状態の“明確化”
・現状→理想への“移行プロセスの見える化”
まで3段階でカバーすることです。

場合によってはIE(インダストリアルエンジニアリング)の手法を活用し、ストップウォッチ&ビデオ解析による作業調査、動線分析、工程フローのタイムライン化など、
定量的な「ビフォー・アフターシナリオ」が欠かせません。

図解を駆使するコンサル・現場スタッフのためのアクションプラン

図解化スキルの磨き方

現場で図解力を高めるためには、次のステップが有効です。

1. 現場を撮影・観察する。
2. 作業フローを簡潔な流れ図、工程マップ、あるいは手書きスケッチでまとめてみる。
3. “どこ”に“何のロス”があるかを洗い出す。
4. 改善案を図にして“ビフォー・アフター”で並べる。
5. KPI(リードタイム、在庫回転率など)との関係性を矢印や注釈で明記する。
6. 各部署ごと・サプライチェーン全体との関係までも、俯瞰マップで示す。

こうした積み重ねにより、改善活動の全員参加、納得感の高い現場改善サイクルが回り出します。

バイヤーやサプライヤーこそ図解で「見える」関係構築を

調達購買のバイヤーは、サプライヤーとの打合せや価格交渉の際、要求事項や納入後工程を図解(納入プロセスフローなど)で提示するだけで、サプライヤーの理解度が格段に高まります。

逆にサプライヤー側も、自工程や納入可能な工程キャパ、品質管理項目などを「図解」にしてバイヤーへ見せることで、透明性や信頼感をアップできます。

いずれも「図で見せてこそ、共通言語としての信頼関係が構築される」ことが肝要です。

結論:工場改善の成果は“図解力”に宿る

“図解で語れないコンサルは信頼されない。”

これは極論ですが、現場の「腹落ち」と「継続的な改善」、「サプライチェーン全体での最適化」を実現するには、全体シナリオを図解して共有できることが欠かせません。

工場改善の時代は、「勘・コツ」や「口頭指示」の時代から、「データ×図解×現場力」の時代へ急速に移行しつつあります。

購買・生産・物流・品質、さまざまな立場でも“図解で見せて、全体をつなぐこと”こそがこれからの製造業競争力の源泉となるでしょう。

ぜひ現場で図解力を磨き、新たな付加価値創造へチャレンジしてください。

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