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投稿日:2025年4月18日

装甲戦闘車両用潜望鏡や観測システムの調達および共同開発のノウハウ

はじめに

陸上戦闘の主力である装甲戦闘車両において、潜望鏡や観測システムは「車両の目」とも呼ばれる重要ユニットです。
前線での視認距離の差はそのまま生存性とミッション成功率に直結します。
一方、光学と電子機器が融合する複合製品の調達は難易度が高く、調達担当者とサプライヤーの間で情報ギャップが生じがちです。
本記事では、20年以上製造業に従事してきた筆者が、装甲戦闘車両用潜望鏡・観測システムの調達および共同開発に必要なノウハウを、現場目線で整理します。

装甲戦闘車両用観測システムの基礎知識

主な構成要素

潜望鏡本体、可視光カメラ、熱赤外カメラ、レーザー測距機、方位センサ、画像処理装置などで構成されます。
これらは機械、光学、電子、ソフトウェアの技術が高度に絡み合い、単独の専門領域だけでは仕様を定義できません。

戦車と装甲車で異なる要求事項

戦車は主砲発射時の衝撃が大きく、耐衝撃性と安定化機構の精度が重視されます。
装甲車は隊員観測用の広視野と低電力化が求められるため、筐体レイアウトの自由度が鍵となります。

防衛調達に特有の課題

ITAR・安全保障輸出管理

米国からコンポーネントを調達する際はITAR規制が必ず絡みます。
輸入品含有率が一定比率を超える場合、最終製品にもITARが適用されるため、生産移転計画や海外展開の余地が制限されます。

長期部品供給義務

車両ライフサイクルは20年以上と長く、メーカー撤退やEOLリスクを抑えるため、二次調達ルートの確立が必要です。
昭和的な「紙図面保管」の文化が今なお残っており、3Dデータ連携が進まず再設計に長期を要する事例が後を絶ちません。

仕様策定フェーズの勘所

STANAG・MIL-STDを起点にする

北大西洋条約機構のSTANAGや米軍MIL-STDで定義された環境・光学性能をベースラインに設定すると、共同開発先との共通言語が生まれやすくなります。

デザイン・トゥ・コスト発想

潜望鏡ユニットは小ロット生産になることが多く、コスト跳ね上がりがちです。
初期段階からサプライヤーとコストテーブルを共有し、設計簡素化や部品共通化を盛り込むことで、総調達コストを30%削減できた例もあります。

環境試験の前倒し

高湿度、砂塵、衝撃、電磁環境適合性などの試験は後工程で失敗すると再設計が発生します。
要求仕様の境界値付近でモックアップを試験し、設計遊び代を事前に可視化することで、量産移行時の手戻りリスクを大幅に削減できます。

サプライヤー評価の最新トレンド

従来型査察からデジタルツインへ

昭和型の書類審査と現地監査では、隠れた工程能力を見逃す恐れがあります。
近年はサプライヤーが社内で運用するデジタルツインやSPCデータを共有し、リアルタイム監視するスキームが導入されています。
調達側はモデルデータを要求図書に含めることで、量産後の品質流動も予測可能になります。

製造装置の二重監査

高度光学部品はサプライヤー自身が外注しているケースが多いです。
装置メーカーに対する間接監査を行い設備保守体制を把握することで、歩留まり低下の原因を迅速に特定できます。

共同開発契約の設計

IPR(知的財産権)の取り扱い

後工程で改修が必要になる製品特性上、ソースコードや設計データのアクセス権は将来世代まで確保しておくべきです。
完全譲渡が難しい場合はエスクロー契約により、万一の破産時にもデータを保全できる条項を盛り込みます。

性能保証型 vs 成果保証型

性能保証型は各サプライヤーが自社技術範囲のみ責任を負う方式、成果保証型は統合性能を一括で保証する方式です。
プロジェクトリスクと企業規模に応じてハイブリッド型を選択し、支払いマイルストーンを細分化することでキャッシュフローを安定させられます。

品質管理の現場ノウハウ

衝撃・振動試験の“お作法”

砲撃時の衝撃波は周波数帯が複雑で、単純な正弦波試験だけでは不十分です。
現場では、実車両の爆圧波形をレコーダで採取し、サーボアクチュエータ式振動台に入力することで、実環境を再現しています。

光軸ズレのフィードバックループ

日中の温度サイクルで光軸が数ミリ変化するだけで測距誤差が致命傷になります。
量産では各ロットから抜き取りで光軸安定性を測定し、結果を設計部門へ即日フィードバックする仕組みを構築します。
この閉ループがないと、ズレが発覚した時にはすでに納入品が数百台に達している、という事態になりがちです。

コストダウンとサステナビリティ

モジュラー化戦略

レンズユニット、センサーモジュール、処理基板を独立モジュール化することで、故障時の交換コストを70%削減した事例があります。
また旧型車両へのアップグレードを容易にし、全寿命コストの圧縮にも寄与します。

リサイクル素材の活用

防衛品でも環境配慮要求が厳格化しています。
光学筐体にリサイクルアルミを使用し、カーボンフットプリントを3割削減した実績が欧州で広がっています。
調達仕様書に「環境影響報告書」を明示的に求めることで、サプライヤーの取り組みレベルを競争軸にできます。

DXへ舵を切るためのステップ

PLMとERPの連携

設計変更が頻発する観測システムでは、PLMとERPをAPIで連携し、BOM差分をリアルタイム更新する基盤が必須です。
昭和的なExcel手打ち転記は転記ミスと版数混乱を招き、大規模リコールの火種になります。

拡張現実(AR)を用いた組立指示

光学部品は埃の混入を嫌い、クリーンルーム作業が多いため、ペーパーマニュアルの持ち込みが制限されます。
ARグラスを用いて手元に組立指示を投影する方式は、作業時間を15%短縮するとともに、紙資材の削減にも直結します。

サプライヤー側の視点:バイヤーの“本音”を読む

交渉ではなく“共闘”

防衛案件は政治要因で突然キャンセルされるリスクがあるため、バイヤーはサプライヤーを価格だけで選定しません。
共に長期リスクを背負ってくれるパートナーかを最重視しています。

情報開示の度合いが選考ポイント

コストブレークダウン(CBD)や工程能力指数(Cpk)を開示できる企業は、過度なマージンを乗せていないという安心材料になります。
逆に「企業秘密」を盾に情報を閉ざすと、不確実コストを見積もられ総額が上がり、失注するケースが多いです。

ケーススタディ:日独共同開発プロジェクト

日本企業A社とドイツ企業B社が新型歩兵戦闘車用の360度観測システムを共同開発した事例を紹介します。
A社は筐体とレンズ研磨、B社は赤外センサとソフトウェアを担当しました。
双方の設計プラットフォームが異なり、初期はデータ交換に2週間を要していましたが、国際標準STEP AP242で統合することで、設計サイクルを30日に短縮。
また、複数通貨での精算リスクをヘッジするため、契約時に為替バスケットを設定し、調達コスト変動を5%以内に抑制しました。
結果、予定より4か月短縮して試作車に搭載でき、防衛省から追加発注を獲得しました。

まとめ

装甲戦闘車両用潜望鏡や観測システムの調達は、光学・電子・ソフトウェアが交差する高度なマネジメントが求められます。
防衛調達特有の規制、長期供給義務、昭和型プロセスの残滓を踏まえつつ、デジタルツインやAR活用でDXを推進することが競争優位となります。
サプライヤーはバイヤーの長期リスク共有という本音を理解し、透明性と共同開発志向を示すことで信頼を勝ち取れます。
本記事のノウハウを活用し、次世代装甲戦闘車両の「目」を支える調達・開発プロジェクトを成功に導いてください。

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