ユーザビリティ評価で操作性を向上させる製品設計ポイント

はじめに：ユーザビリティ評価が製品設計にもたらすインパクト

製造業における競争は激化し、顧客の目もどんどん厳しくなっています。

一昔前なら「機能さえ満たせば売れる」という時代もありましたが、現在では製品そのものの使いやすさ、いわゆるユーザビリティ（Usability）が、商品価値を語る上で欠かせない要素となりました。

中でも、ユーザビリティ評価を正しく行い、設計へフィードバックする仕組みが業界全体で急速に広がっています。

しかし、日本の製造業、特に長年の慣習やアナログ文化が根強い工場現場では「ユーザビリティ評価って、ウチには関係ない」「現場感覚で十分だ」という雰囲気もまだ残っているのが実情です。

この記事では、ユーザビリティ評価の重要性と具体的な製品設計ポイントについて、現場経験を踏まえて深掘りし、これからの製造業に関わる皆さんが一歩先を行くヒントをお伝えします。

ユーザビリティ評価とは何か？工場現場目線の基本理解

ユーザビリティの定義とその意義

ユーザビリティとは、製品・システム・サービスをユーザーが「どれだけ効率的に・快適に・間違いなく」使えるかという指標です。

業務用機械や生産設備から、現場で使われる各種治具、管理システムまで、現代のモノづくりには避けて通れないテーマとなっています。

一見専門的な用語のようですが、その本質は「操作した人が迷わず正しく使えるか」「余計な手間やイライラが減らせるか」という、極めて現場に直結した考え方です。

現場を悩ます“使いづらさ”のリアル

例えば工場のラインで新型装置を導入した時、「最初の立ち上げにものすごく時間がかかった」「操作パネルが分かりづらいので間違いが多発した」という声をよく耳にします。

これは操作性やユーザビリティが十分に考慮されていない典型的な例です。

ユーザビリティを無視した設計は、現場作業員の負荷増大や、品質不良、果ては人身事故にまで繋がるリスクを孕んでいます。

ユーザビリティ評価の具体的な方法

ユーザビリティ評価と言うと、専門家やコンサルタントだけが使う特別な手法と思われがちです。

しかし、現場の声を活かした「ヒューリスティック評価」や、実際の作業者に行ってもらう「ユーザーテスト」「現場観察」など、現場主導で手軽に始められるやり方も豊富に存在します。

近年はデジタル技術によって操作ログを自動収集し、客観的なデータで評価できる環境も増えています。

昭和から現代へのパラダイム転換：なぜ今ユーザー目線の設計が重視されるのか

時代遅れの「職人頼み」を乗り越えて

昭和型モノづくりの現場では「ベテランしか扱えない複雑な装置」や「マニュアルを暗記して一発合格」といった考え方が根強く残っていました。

ところが少子高齢化、即戦力人材の不足、そして多能工化の要求により、「誰でも・すぐに・直感的に」使える製品設計へのニーズが急速に高まっています。

蓄積したノウハウや感覚を問わず、マニュアルレスで使いこなせる設計こそ、今や競争力の源泉です。

サプライヤーにとってのチャンスと危機

サプライヤー側にとっても、ユーザビリティを重視しない製品は「後出しの改修コスト」「バイヤーからの信用低下」という大きな損失に繋がります。

逆に、ユーザー目線で「現場に優しい」製品を提案できる企業には、差別化と新規受注のチャンスが広がります。

バイヤーを目指す方も、ユーザビリティの理解と評価軸を持つことが新時代のスキルと言えるでしょう。

業界全体を動かす最新トレンド

近年では、製造業のIT化・DX化が加速し、操作パネルや各種システムが一層複雑化しています。

一方で、簡単なアイコン操作や直感的なワークフローなど、消費者製品に求められていた利便性が、工業製品にも当たり前のように求められる時代に突入しました。

建設機械、工場機器、検査装置、IoTデバイスなど幅広い分野で、ユーザービリティを確保することが標準になりつつあります。

実践！操作性を向上させる製品設計の5つのポイント

1. 初見操作を意識したレイアウト設計

操作パネル、表示ディスプレイ、ボタンなど、表示や入力デバイスの配置は作業者の直感的な操作を最優先すべきです。

「どのボタンがどの動作に対応するか」「警告やエラーがどこで見えるか」など、初めて触る人が迷わず使えるかを重視しましょう。

現場テストで「初めて触る人」にあえて説明せず操作してもらうことが、設計の正しさを検証するうえでとても効果的です。

2. 状態の“見える化”とフィードバック設計

装置やシステムの動作状態、異常時のアラート、操作受付の有無を作業者が即座に把握できる“見える化”も非常に重要です。

例えば、機械の状態表示をLEDやアイコンだけでなく、「今、安全に作業して良い」「メンテナンスが必要」など、直観的に判断しやすいフィードバックを盛り込むことが求められます。

現場で「分かりづらい！」と感じる理由の多くが、この「見える化」不足に起因しています。

3. “ヒューマンエラーの芽”を摘むインターフェース設計

誤操作によるトラブルや事故を防ぐ設計は、安全・品質面でも避けては通れないテーマです。

例えば、重要な操作は2段階以上の確認や、物理的に切り替えスイッチを隔離する、エラー時に詳細な説明を必ず表示するなど、組み合わせることでヒューマンエラーの発生率を大幅に下げることができます。

現場作業者の「うっかり」を設計で根絶することが、現代の“攻めの安全対策”と言えます。

4. メンテナンス性と保守の“当たり前”を見直す

「操作性」とは何も日常の使いやすさに限った話ではありません。

珍しいトラブル時や定期メンテナンス時に、どれだけ作業が簡単に、安全に行えるかも極めて重要なポイントです。

カバーやパネルの着脱がしやすい、内部配線にタグがついていて識別しやすい、交換部品の場所が一目瞭然――こうした一つひとつが、現場スタッフの作業性・モチベーション向上に直結します。

5. 実際の現場と密着した“巻き込み型”設計プロセス

最後に大切なのが、設計プロセス自体に“現場ユーザー”の声を積極的に組み込む体制づくりです。

設計・開発部門が机上だけで設計を進めてしまうと、どうしても「現場とかけ離れた操作性」になりがちです。

現場作業者やメンテナンス担当、さらにはエンドユーザーも参加させた「巻き込み型」のプロセスを意識してください。

実際に使う人のフィードバックをリアルタイムで盛り込み、PDCAを高速で回す。

これが真のユーザビリティ設計です。

ユーザビリティ評価、自社導入の現実的な進め方

小さく始めて、大きく育てる

全社的な評価体制や専門部署の立ち上げはハードルが高くても、まずは部署単位・現場単位で試行的にスタートすることが現実的です。

初回は「現場観察」や「操作時のアンケート」など、予算・リソース不要な方法から始めても充分に効果があります。

小さく始めて、得られた成功体験を社内で水平展開することで、徐々に職場文化として根付かせるのが成功の近道です。

外部視点の活用とベンチマーク調査

同業他社、あるいは異業種で進んでいる成功事例は積極的にリサーチし、社内勉強会や視察ツアーなどで共有しましょう。

外部のデザイナーやユーザビリティの専門家、場合によっては顧客そのものを巻き込んだ評価も有効な手段です。

既存製品とベンチマーク比較を行い、差分を客観的に分析することも成長のきっかけになります。

DX化への布石としてのユーザビリティ評価

ユーザビリティ評価のノウハウと体制づくりは、今後進むデジタル化やスマートファクトリー導入の土台にもなります。

操作の履歴や現場の声をデジタル記録→可視化→設計改善へとつなげるフローを構築しておくと、トラブルの“見える化”や将来のAI化・自動化にも役立ちます。

おわりに：これからの製造業をリードする「操作性の良い製品」とは

ユーザビリティ評価による操作性向上は、単なる「現場の声を聞く」取り組みではありません。

それは、今後ますます競争の厳しくなる日本の製造業が、アナログから一歩抜け出し、グローバルで戦える付加価値を持った「一歩先のものづくり」を実現する強力な武器です。

サプライヤーもバイヤーも、現場目線から生まれた分かりやすい製品設計で互いに高め合う時代。

ユーザー主導のプロダクトデザインが、共に製造業を進化させる――そんな未来を、一緒に作り上げていきましょう。