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化粧品開発における共同研究の提案

目次
はじめに:化粧品開発の現場で広がる共同研究の潮流
近年、化粧品業界では競争が激化し、消費者ニーズも多様化しています。
製品に求められるのは、単なる美しさや機能性だけでなく、安心・安全、環境への配慮、独自性など、より深みを増した価値です。
こうした状況を背景に、メーカー単独の開発力に頼るだけではなく、異分野との共同研究によるイノベーションが加速しています。
筆者自身、長年に渡り製造現場で調達・生産管理・品質管理などの要職を経験してきました。
だからこそ、現場目線を通じて、アナログな昭和的体質も色濃く残る化粧品業界における「共同研究」のリアルと、その成功に向けた本質をご提案したいと思います。
本稿では、バイヤー・サプライヤー双方の視点を交えつつ、現場で本当に活用できる共同研究のヒントを紐解きます。
なぜ今、化粧品開発で共同研究が求められるのか?
1. 多様化・複雑化する消費者ニーズへの対応
かつての化粧品は「美白」「保湿」など機能訴求が主流でした。
しかし現代では、オーガニック・ヴィーガン対応・SDGs配慮・エビデンス重視など、ニーズは驚くほど多岐にわたり、技術も化学・生物・情報分野を横断するようになっています。
メーカー単独で全てを網羅することは実質的に不可能であり、他領域の知見を有する研究機関や企業、大学との共同研究が不可欠となりました。
2. レギュレーション対応とグローバル展開
化粧品は法律改正や各国の規制変化にも常に対応する必要があります。
例えば「動物実験禁止」に代表されるグローバル規制や、原材料規制への対応には、法務・検査機関・原材料メーカーなどとの連携が極めて有効です。
共同研究により、各分野の専門家ネットワークを活用しながら、スムーズに規制リスクへの高品質な適合を図ることができます。
3. オープンイノベーションと生産性向上
今や技術革新はメーカー内のみならず、外部のスタートアップや大学シーズを取り込む「オープンイノベーション」によって加速しています。
独自素材の共同開発、生産現場の自動化・DX(デジタル変革)、創薬のサンプルリング・品質保証手法など、共同研究は生産性や品質レベルを一段引き上げる強力な武器になります。
昭和的な「自前主義」の課題とブレイクスルーの必要性
1. 現場に根付く「内製志向」とその限界
多くの大手製造業と同じく、化粧品業界にも「すべて自社で完結したい」という昭和的な自前主義が根づいています。
たしかに、ノウハウ流出や情報漏洩のリスク管理は重要です。
しかし、この内向き志向が結果的に変化への機動力を低下させ、新しい市場や技術への対応を難しくしている例が散見されます。
「自社技術で限界まで背伸びしても目の前の課題が越えられない」という壁に、多くの現場責任者が直面しているのです。
2. 共同研究による「越境力」が未来を切り拓く
実際に現場で目にした成功例では、大学のバイオ領域研究室と共同研究を行い、他社が真似できない「新規微生物発酵エキス」を開発し商品化に成功したケースがありました。
これは自前主義だけでは絶対に成し得なかった成果です。
共同研究の本質は「自社の常識を打ち破る第三者の視点を導入すること」にあります。
柔軟なパートナー選定と、リスク分散・相互補完を意識したプロジェクト設計こそ、これからの化粧品開発の生存戦略となるのです。
バイヤーが求める「パートナー像」とサプライヤーの戦略
1. バイヤーは「専門性と柔軟性」の両立を重視している
バイヤーは、単に原料や技術を提供するだけのサプライヤーを求めているわけではありません。
「自社開発陣の懸念や課題を自分事として捉え、共に試行錯誤してくれる伴走型パートナー」を求める傾向が強まっています。
たとえば、開発途中で予想外の問題(原料の分散性、安全性評価など)が生じた時、幅広い知見から解決策を探し合える「技術と共感力」の両立された人材や企業が強く評価されます。
2. サプライヤーは「提案力」と「巻き込み力」を磨くことが重要
昭和的な「言われたものを納品する」サプライヤー像から脱却し、「こんな最新技術が応用できるのでは」「他業界で成功している新素材を一緒に検証してみませんか」といった能動的な働きかけが求められます。
また、専門の機器メーカや大学、スタートアップなど、自社ではリソースが足りない分野を第三者と連携した「巻き込み型」の提案も、バイヤーからの信頼を得るポイントです。
共同研究を成功に導く実践的なプロセスと落とし穴
1. 目的とアウトプットの明確化
まず最初に、共同研究の「狙い」と「ゴール(何をどう実現したいか)」を双方でとことんまで合意し、誤解を排除しておくことが肝心です。
この段階を曖昧にすると、後々になって「求めていたレベルとのギャップ」が顕在化し、関係が崩れるリスクがあります。
また、目標は技術面だけでなく、コスト面やスケジュール、知的財産の取り扱いなども事前に洗い出しておくことが不可欠です。
2. 適切なパートナー選定とアサイン人材の意識改革
現場感覚で言えば「社内全員が今すぐ変われる」ことはまずありません。
その場合、まずは意識の高い担当者・部門を中心に、小さく始めて実績を積む――これが定石です。
パートナー選定でも、単なる技術者同士のやり取りではなく、プロジェクト・マネージャーや調達、品質保証も巻き込んだチーム体制が成功の鍵となります。
3. 日常的なコミュニケーションと「現場」に根ざした意思疎通
共同研究は「やって終わり」ではありません。
定期的なミーティングや進捗共有の場を設け、些細な懸念やトラブルも都度オープンに話し合う習慣が、関係性強化には不可欠です。
さらに、現場での原材料や工程変動、社内決裁プロセスの遅延など、アナログな業界特有の小さな問題も見逃さず「今ここで何が起きているか?」という現場感覚を重視しましょう。
これにより、小さな火種を大きな問題に発展させるリスクを回避できます。
4. 成果の共有とリスク分担、知的財産管理
最終的な成果(特許や製品化)に至るまでのリスクを明確に分担し、役割分担と成果報酬の条件も、契約書ベースで合意しておくことが大切です。
特に知的財産の帰属や将来的な2次利用、成果物の事業化の際の権利範囲などは、後トラブルの種となるため、法務部門を巻き込んだ慎重な設計・合意形成を怠らないようにしましょう。
現場で実践されている化粧品共同研究の最新事例
1. 天然素材メーカーとの産学連携
ある化粧品メーカーでは、大学の農学部と連携し、国内在来種のハーブから有効成分を抽出し、新規スキンケア素材として上市することに成功しました。
パイロットプラントでの生産・品質評価も「現場同士の直接対話」によって多くのトラブルが事前解決できました。
これは「製造現場視点の共有」と「実験ベースの迅速なフィードバック」が共同研究を加速させた好例です。
2. IT×化粧品:AIによる処方最適化プロジェクト
処方設計の現場では、AIやビッグデータを活用した配合最適化の動きも盛んです。
IT企業との共同で過去の処方情報や試験データを活用し「設計段階でのNG配合パターンの予測」や「数値根拠ある提案型開発」が可能となり、開発スピードとコスト競争力を大幅に高めています。
まとめ:現場から始める“小さな共同研究”のススメ
化粧品開発における共同研究は、単なる流行りではなく「ものづくり業界が生き残るための戦略的手段」です。
昭和的な自前主義にこだわらず、異分野や社外の力を柔軟に取り入れ、「共に壁を乗り越える仲間づくり」がこれからの現場を変えます。
バイヤーを目指す方は、単なるコスト削減・調達力だけでなく「どれだけ現場の創造力を引き出せるか」にこだわりましょう。
サプライヤーも、受け身の提案から「業界を変えるブレイクスルー」を目指し、一歩踏み込んだ提案型企業へと進化することが重要です。
まずは身近なプロジェクト、日々の課題解決から“小さな共同研究”を始めてみてはいかがでしょうか。
それがやがて、大きなイノベーションの一歩となるはずです。
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