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品質保証が最も恐れるのは“想定外ではなく想定漏れ”

目次
はじめに 〜想定漏れがもたらす製造業の危機〜
品質保証の現場で耳にする「想定外」という言葉。
しかし、私たち製造業のプロフェッショナルが本当に恐れなければならないのは“想定外”ではなく“想定漏れ”です。
長年、調達購買や生産管理、品質管理、そして工場の現場で働く中で、「想定漏れ」こそが大きなトラブルや品質不良、ひいてはサプライチェーン全体の信頼毀損へとつながることを痛感してきました。
今回は、昭和の名残が色濃く残る日本のものづくり現場において、いかにして“想定漏れ”を防ぎ、バイヤー・サプライヤー双方が品質保証を高めていけるのか。
業界に根付く“常識”や過去の成功体験にとらわれず、新たな地平を目指すヒントをお伝えしていきます。
なぜ“想定漏れ”は怖いのか?
想定外と想定漏れの違い
よく「そんなトラブルは想定外だった」と言い訳しがちですが、本質的には“想定漏れ”であることがほとんどです。
つまり、もともと発生する可能性があったリスクや不良を「思い込んで」見落としてしまうこと、もしくは情報収集やコミュニケーション不足によって把握できていなかったことが真相なのです。
一流の品質保証は、未知の脅威(真の想定外)ではなく、「分かっていたはずのこと」「本来ならリストアップできたはずのこと」の漏れ、つまり“人的ミスによる見逃し”や“業界慣習への過信”こそ最も怖いと認識しています。
現場あるある:想定漏れがもたらす実例
私がかつて経験したあるラインでの話です。
外観検査工程で「この色ムラは今まで一度も発生したことがないから大丈夫」と皆が思い込んでいました。
それが、ある時ロット切り替え時に新しいロットの材料で起きてしまい、市場に流出。
原因は、「材料ロット切替時の特性変動点のチェック」という基本ルールの“想定漏れ”でした。
誰もが「起きない」と思い込んだまま、その検証自体をルール化していなかったのです。
このように、経験や慣れは現場の強みですが、ときに危険な“抜け”を生み出します。
想定漏れが発生する理由
属人化と暗黙知の壁
品質保証の最大の壁、それは“職人芸”や“ベテランだから分かる暗黙知”です。
これは日本型ものづくりの功績でもあり、実はブラックボックスによるリスクの温床でもあります。
人材の高齢化、若手不足の現代において、ノウハウが“伝言ゲーム”化しやすく、「誰がどこまで分かっているか?」が可視化しにくくなります。
改善活動・QCサークルの形骸化
昭和から続く「QCサークル活動」を今も多くの企業で導入していますが、形骸化して目新しい視点や本質的な原因分析がなされなくなっていませんか?
本来の価値は「なぜ?なぜ?」と新しい可能性を深掘りし、想定漏れの芽を摘むこと。
目的意識が薄れると「過去の帳尻合わせ」だけとなり、想定漏れリスクが増大します。
サプライチェーン構造の複雑化
グローバルサプライチェーン化や、半導体不足など調達の目まぐるしい変化。
「安定調達・コスト重視」ばかりに目を奪われ、新規取引先や新規素材選定時のリスク洗い出しが甘くなりがちです。
バイヤー側とサプライヤー側で「できて当たり前」「言われていないから納期優先」と思い込むことで、小さな想定漏れが大事故につながります。
想定漏れを防ぐためにすべきこと
チェックリストの“深化”と“進化”
チェックリスト運用は品質マネジメントの基本ですが、一度作ったら終わりではありません。
必ず“なぜその項目なのか”“最近のトラブル傾向は含まれているか”を定期的に全員で見直しましょう。
毎年現場に3回は現れる“新人目線”を最大限活用し、「ベテランには当たり前、でも実は抜けやすい箇所」の洗い出しが極めて効果的です。
ヒヤリハット報告・FMEAの徹底
ヒヤリハット(いわゆる小さな異常や違和感)を「なかったこと」にしがちな風土が一部あります。
小さな芽を拾うことで“想定漏れのタネ”を芽吹かせずに済みます。
また、FMEA(故障モード影響解析)を形式だけで終わらせず、
・どこが想定漏れしそうか?
・今まで気付かなかったパターンは何か?
と“ラテラルシンキング”をチーム内で徹底してください。
現場とバイヤー、サプライヤーの壁を越えるコミュニケーション
バイヤーとサプライヤー、調達と現場、それぞれ「相手は分かっているだろう」という“思い込みバイアス”が発生します。
「新素材導入には何が想定されるか」「工程変更時にどんなQAが必要か」を座組で事前に洗い出すワークショップ形式がおすすめです。
特にDX時代は、オンラインミーティングをフル活用し、現場現物現認の精神をデジタルでも忘れずに。
アナログ業界でもできる“攻め”の想定漏れ対策
昭和型職人文化のリスペクトとアップデート
アナログと言われる製造業の現場にも“攻め”の知恵があります。
例えば、昔からの職人が使う小道具や裏技は、1つ1つ「なぜそれが有効なのか?」を言語化・可視化することで現代流のルールやマニュアルに落とし込めます。
1on1やOJTで「このやり方の裏にはこういう理由があるんだよ」と共有し、“習慣”を“標準化”する土壌づくりが最強の想定漏れ対策です。
データ×現場の融合
IoTやAIで大量のデータが取得できる時代だからこそ、「数値で異常が見えない時でも現場感覚で違和感を察知する」人材の育成が命です。
データ分析チームと現場リーダーが定期的に意見交換を行い、数字だけでは拾いきれない“勘所”をロジカルに吸い上げましょう。
想定漏れゼロを目指すためのシステム・組織作り
バイヤーにこそ求められる“想定漏れ感度”
バイヤーは、「QCD(品質・コスト・納期)」のいずれも重視しますが、どれかの視点が抜けがちです。
特に、サプライヤー任せにせず「この調達品、想定漏れ発生ポイントは?」を必ず確認・質問し、自部署の工場や品証チームと密に連携してください。
バイヤーの“先回りリスク予測力”こそが、サプライヤーの信頼獲得と自社のブランド価値向上に直結します。
想定漏れを恐れない“心理的安全性”
失敗事案やヒヤリハットを「内部告発」のように扱う風土では、誰も声をあげなくなります。
チーム全員で「自分のミスから学ぶ風土」「成功体験の裏にあるギリギリの改善事例」をオープンに語る場をつくりましょう。
心理的安全性が浸透することで、現場の小さな声や気付きが将来の大トラブルを未然に防ぎます。
まとめ 〜“想定外”より“想定漏れ”を恐れよ〜
品質問題の多くは、「想定外」ではなく「想定漏れ」から始まります。
ルール・マニュアル・チェックリストを“生きたもの”に保つこと。
新人や外部の“素人目線”を積極的に活用すること。
現場の経験則とデジタル化の両面から抜け漏れを徹底的に潰すこと。
そしてバイヤー・サプライヤー問わず、どんな立場でも「自分の考えるべき範囲はどこか?」を再定義し続けること。
こうした地道な積み重ねこそが、アナログが根強い製造業の現場であっても、世界に誇れる品質保証の強みを生み出します。
想定漏れゼロを目指して、共に新しい時代の製造業を創っていきましょう。
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