トレーナーの袖とボディの接合部に使われるラグラン縫製の構造

はじめに：ラグラン縫製とは何か

トレーナーやパーカーなど、日常でよく目にするアイテムに「ラグランスリーブ」が採用されているのを知っていますか。
このラグランスリーブに欠かせないのが、独特な縫製手法である「ラグラン縫製」です。
ファッションアイテムの象徴的な意匠として有名ですが、実はその構造には、製造現場ならではの“合理性”や“工夫”が詰まっています。

本記事ではラグラン縫製の基本構造や、その歴史的背景、現場視点で見たメリット・デメリットを徹底解説します。
また、日本の製造業がこの縫製にどのように向き合ってきたか、今なぜアナログ手法が根づき続けているのかも掘り下げます。
バイヤーやサプライヤーはもちろん、製造業界でキャリアアップを目指す方にも役立つ実践知をお届けします。

ラグラン縫製の基本構造と特徴

ラグランスリーブの仕組み

ラグランスリーブとは、袖と身頃（ボディ）の接合線が首元（襟ぐり）から脇下に向かって斜めに入るデザインのことを指します。
一般的な「セットインスリーブ」（肩で袖が切り替わるタイプ）とは異なり、肩のラインが滑らかに続くのが特徴です。
この斜めの接合部こそが、ラグラン縫製の核心部分です。

構造のポイント

ラグラン縫製は、以下のような構造上の特徴を持っています。

– 袖と身頃が縫い合わせられる線が、襟ぐりのあたりから脇下まで斜めに伸びる
– セットインに比べて縫製箇所が増える（パーツが多い）
– 肩から腕にかけての可動域が広がる
– 肩の丸みや筋肉の流れに沿いやすい形状

ファッション性だけでなく、機能性・快適性をも両立しやすい設計なのです。

スポーツ分野で進化したラグラン縫製

実はラグランスリーブは、19世紀の英国陸軍の軍服にルーツがあるとされ、戦場での「動きやすさ」が強く求められたことで誕生しました。
その後、野球・ラグビー・サッカーなど、スポーツウェアにも広がり、日本の学生用体操着やユニフォームにも定着しています。
現在では、カジュアルウェアや作業着にまでこのラグラン縫製が普及しました。

ラグラン縫製が現場にもたらすメリット

作業着・ユニフォームで生きる機能性

製造業や工場現場で扱われるラグラン縫製のウェアは、従来のセットイン袖の製品に比べて以下の実務的利点があります。

– 肩まわりの動きやすさが格段に向上
– 縫い目が肩に直接こないため、肩へのストレスが減る
– 機械メンテナンス作業など腕を上げる動作もスムーズ
– シルエットがゆったりとしており、インナーとの重ね着も容易

このように、着る人の作業効率向上と疲労軽減を実現するため、現場のユニフォームとして重宝されています。

意外な「品質管理」の側面

ラグラン縫製は、構造的にパーツ数が増えるため、縫い合わせ箇所が増加します。
この部分の縫製品質が、製品全体の耐久性や仕上がりに直結するため、現場では「縫製ラインの熟練度」が強く問われます。
結果として、ラグラン縫製を安定してこなせる縫製工場は、お客様への品質保証と信頼の証にもなります。
特にOEMや受託生産で取引先を探すとき、サプライヤー選定のアピールポイントとなります。

フィット性とサイズ展開の柔軟性

ラグランスリーブは肩幅にとらわれないため、着る人の体型差にもなじみやすい特性を持ちます。
「小柄な方～大柄な方まで同じサイズで着用できる許容範囲が広い」ため、サイズカバーが求められるワークウェアや大人数向けユニフォームでは、とても有利なのです。

ラグラン縫製の課題：現場の苦労とアナログ工程の壁

昭和から続く手法と現代的課題

ラグラン縫製はその合理性ゆえに、国内の多くのユニフォーム・アパレル製造でスタンダードになりました。
しかし、その一方で、いまだに“手作業工程”が色濃く残っている点も忘れてはいけません。

– 接合部分のズレや生地伸縮差に対応するため、ミシン作業者の熟練度が重要
– セットインに比べて工程数が増加（コストアップ要因）
– 各部位合わせの品質検査工程が複雑化

ベテラン職人は「クセ取り」や「縫い合わせのコツ」を身体で覚えていますが、少子高齢化・人材流出問題に直面する現在、人材育成や技能継承が大きな課題です。

自動化への難しさとラグラン縫製

工場の自動化・デジタル化が叫ばれる中、ラグラン縫製はパーツの立体合わせや縫いズレ補正など“目利き”作業が多く、ロボット縫製の導入が難しい分野です。
「機械は同じように縫えるけど、生地ごとに違うクセはベテランじゃないと微調整できない」
という現場の声も根強く、ここに日本の製造業らしい“こだわり”が見て取れます。

バイヤー・サプライヤー目線で考えるラグラン縫製の今後

バイヤー側から見る「コスト」と「品質」

大量生産・海外生産が進む今、バイヤー視点では「コスト競争力」も重要なテーマです。
– 工程数が多い＝単価が上がりがち
– 品質バラつきのリスク増加

これを克服するため、現場経験豊富なOEMパートナー選定が不可欠です。
また、「ラグラン縫製＝洗練された付加価値」であることを明確に伝え、ユニフォームの企画やスポーツブランドの販促企画等に積極的に活用するのも一つの戦略でしょう。

サプライヤーからのアピールポイント

– 熟練工による高水準な縫製技術
– 品質管理と納期遵守体制
– 柔軟なサイズ展開やカスタム対応力
これらをしっかりカタログやWEBページで発信し、バイヤー視線で事業価値を伝えることが重要です。
また、「持続可能な技能継承」や「多能工（マルチスキルワーカー）育成」の取り組み自体を、SDGsやESG経営の文脈で訴求するケースも増えています。