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IoT遠隔監視を導入した工場で予兆保全が機能しない原因

目次
はじめに:製造業界を変革するIoT遠隔監視の現状
IoT(Internet of Things)の登場により、製造現場では“いつでも・どこからでも”設備の状態監視や生産ラインの稼働データ取得が可能となりました。
とりわけ、予兆保全はIoT遠隔監視の導入の最大の目的の一つです。
正常な設備から収集される膨大なデータを元に、故障の兆候が現れた段階でアラームを発し、計画外停止を未然に防ぐーーこれが一般的な理想像とされています。
しかし、現場では「IoT化したはずなのに、結局予兆保全が機能していない」「現実的な成果が出ていない」という声も少なくありません。
なぜ、IoT遠隔監視を導入したにもかかわらず、予兆保全がうまく機能しないのでしょうか。
本記事では、現場目線でよくある失敗と根本原因、さらにその解決策について、昭和アナログ現場の習慣も交えながら詳しく解説します。
IoT遠隔監視の基礎と予兆保全の概要
IoT遠隔監視とは何か
IoT遠隔監視とは、工場設備やセンサー類をネットワーク化し、「現場の見える化」を可能にする仕組みです。
設備の振動・温度・電流・圧力・稼働状況など、多様なセンシングデータをリアルタイムで収集します。
これらのデータはクラウドやオンプレミスのサーバーで蓄積、分析され、オフィスやスマートフォンなど、遠隔地からでもモニタリングできるようになります。
予兆保全の目的とは
予兆保全とは、異常や故障が表面化する前――すなわち「予兆」の段階で、異常兆候を検知し、適切なメンテナンスにつなげる保全手法です。
従来型の「時間基準保全(定期点検)」や「事後保全(故障後に修理)」と比べ、設備稼働率・生産性向上、コスト削減に直結する先進的な取り組みと位置付けられています。
予兆保全が実際に“機能しない”よくある理由
IoTの導入自体は順調でも、「予兆保全」が現場で思うように機能しない原因は複数存在します。
その背景には、最新技術の“魔法”を期待するがゆえのギャップ、現場の暗黙知(経験値)頼み、システムと人の乖離など、現代と昭和アナログ文化が相まった独特の事情が根付いています。
【原因1】データの収集はできても、活用まで至っていない
多くの工場でIoT導入時にセンサーを多数設置し、思惑通り大量のデータがサーバーに蓄積されます。
しかし、それらの多くは「収集するために収集している」状態に留まり、「使いこなされていないデータの山」と化しています。
AIや高度な分析ツールがデータの自動解析を行うこともありますが、そもそも現場の“何を知りたいのか”が曖昧であるため、分析結果が業務に結びつかないのです。
このような「意思なきデータ収集」は、現場の負荷を増やすだけでなく、IoT投資の回収が進まない最大の要因となっています。
【原因2】閾値(しきい値)設定のミス・勘違い
予兆保全の肝となるのが「閾値」の設定です。
振動や温度の異常値を“何度以上”で警報を出すのか――これを誤ると、故障の前兆を的確に捉えられないケースが多発します。
たとえば新品と長年稼働した設備では「正常範囲」が異なります。
しかし、現場の実態を把握せずに、教科書的な“平均値プラスα”で一律に設定してしまい、結果的に重要な異常兆候を見逃します。
逆に、慎重を期して閾値を低く設定しすぎると、偽警報が頻発し「また誤報か」とスタッフの警戒心が緩む、といった事態も起こっています。
【原因3】“暗黙知”依存とデジタル化のギャップ
熟練者による「耳で聴く」「手で触る」「においを嗅ぐ」といった五感に頼るアナログ保全がまだまだ主流です。
現場のベテランは日々の微妙な違和感、動作音の変化などから、紙一重の故障を事前に察知する能力を持っています。
IoTはこの暗黙知を“数値化”し自動化しようとしますが、五感的な異常を完全に数値で置き換えるのは至難の業です。
結果、「数値では異常なし」でも、経験豊富な作業員は“なにかおかしい”と感じていた…というハレーションが現場に生じます。
【原因4】IoTデータと現場感覚の乖離
IoTによって得られた膨大なデータに対し、「それが現場でどう活かせるのか分からない」「現実的な作業改善につながっていない」といった声をよく耳にします。
また、分析やアラート通知があっても、現場作業員がその内容を理解できなければ、結局アナログ(現物現場)で再確認することになり、二度手間・三度手間が発生します。
デジタルデータが「現場力」と乖離してしまうと、“IoT導入は上層部の自己満足”で終わり、主体となる現場メンバーの納得や協力が得られなくなります。
【原因5】社内風土・業務プロセスがIoT変革に追いついていない
紙の日報や帳票に依存した社内体制、過去の慣習と保守的な社風も「予兆保全失敗」の根本原因です。
たとえば故障予兆がIoTアラートで通知されても、「これまで通り、定期保全までは触らない」という文化や、「前例がないから後回し」という決裁構造が優先されます。
せっかくのデータも、それを根拠に行動を変える判断とスピードがなければ効果は現れません。
現場に深く根付く“昭和的な価値観”と“新しいテクノロジー活用”との摩擦が、予兆保全の浸透を阻害しています。
具体的なケーススタディ:現場で起こっていること
ケース1:振動センサーによる故障検知の失敗
ある大手自動車部品メーカーのプレス工場では、初期投資1,000万円以上を投じ、主要設備のモータに振動センサーを取り付けました。
導入当初は「これで故障予兆の早期検知が可能になる」と期待されていましたが、半年後には「重要な異常を逃してラインが止まる」という事態が何度も発生しました。
原因は、初期設定通りの「平均振動値+10%」を一律で閾値としたことが主要因でした。
実際は経年劣化や作動条件ごとの違いが反映されておらず、「数値では正常」でも、オイル切れやベアリングの消耗など実際の故障には対応できませんでした。
最終的には、現場のベテラン作業員の「前触れとしての異音」によって故障が察知され、IoTアラートは“後追い”という皮肉な結果となりました。
ケース2:AI解析と現場作業員の戸惑い
食品工場では、IoTで温度・湿度・ラインスピード・振動・消費電力といった多数のデータをAIが自動解析しています。
ところが、AIの分析結果や警告メッセージが専門用語だらけで、現場作業員が内容を理解できず“結局何をすればよいのか?”がわからない、という状況に陥りました。
現場の反応は、「またAIの誤報だろう」「自分で現物を確認したほうが早い」というもの。
このように、デジタルツールと現場の“肌感”のギャップが、予兆保全を絵に描いた餅にしてしまっています。
業界あるある:IoTあるあるとアナログ現場のリアリティ
IoT導入は“現場の働き方や価値観”そのものを問う変革です。
例えばこんな「あるある」が、いまだに多くの日本の工場で見られます。
- 「現場にWi-Fiが届かない」「センサーが日本の高温多湿現場ではすぐ故障する」
- 「紙の日報の横に、IoT端末。二重管理が常態化」
- 「IoTのデータの解説は外部ベンダー任せ。社内に理解者がいない」
- 「IoTアラートの通知頻度が高すぎて、スヌーズ感覚で全員が黙殺」
- 「ベテラン作業員は端末よりも、自分の聴診棒(ドライバーの柄)を信頼」
こうした業界の“現場感覚”を理解したうえでIoTシステム設計・運用を考え直すことが、予兆保全の本質的な成功の鍵となります。
IoT予兆保全の導入を成功させるためのポイント
では、どうすれば「IoTによる予兆保全」は現場に根付くのでしょうか。
私自身が現場で経験した成功・失敗事例、および業界動向をもとに、5つのポイントを提案します。
1. IoT導入の目的と現場課題を明確化する
「どの工程・設備で、何が起きたときに困っているのか」を具体的に出すことが不可欠です。
現場の声を細かくヒアリングし、「ベテランが感じている“違和感”を数値としてどう捉えるか」を模索してください。
漠然と全設備に導入するのではなく、壊れる頻度・重要度・改善インパクトの高いプロセスに絞り、段階的に導入する方法が効果的です。
2. 閾値とアラーム設計を現場とすり合わせる
AIやシステム側で閾値を自動設定する場合も、最初は実際の故障履歴と付き合わせ、現場作業員の“勘所”と突き合わせて調整することが重要です。
アラート頻度と内容も現場での運用ストレスを考慮し、「本当に必要な時だけ確実に通知される」チューニングを心がけましょう。
3. 教育・現場体制作りによる“納得感”の醸成
どれだけ先端的なシステムを導入しても、現場スタッフが「なぜこのデータが必要か」を腑に落ちていなければ定着しません。
IoTや予兆保全の基本的な仕組みから、個々の設備での事例紹介、データと現物の突き合わせ訓練まで、段階的な教育投資が求められます。
「現場力×デジタル」による“ハイブリッドな保全力”こそが競争力です。
4. データ活用のサイクルを現場業務と一体化
データは蓄積するだけでなく、「毎週の保全会議で定量値を確認」「トラブル発生時の振り返りに必ず使う」など、既存の業務プロセスに組み込むことが大切です。
紙の帳票が残る現場では、IoTデータの要点を紙で見える化する「デジタル to アナログ」的工夫も有効です。
5. 現場リーダーが推進する“ボトムアップ”体制
IoTやAIの推進は本社主導になりがちですが、最終的には現場リーダーの「自分ごと化」が成功要因となります。
小さな成果や、IoT化で“助かった”“効率化できた”具体事例を都度フィードバックし、“やらされ感”から“自分たちで現場を変えていく”意識改革を促しましょう。
まとめ:製造現場におけるデジタルとアナログの真の統合をめざして
IoT遠隔監視と予兆保全は、単なるハイテク導入では終わりません。
現場で起こる事象・課題ひとつひとつを丁寧に洗い出し、それを数値や仕組みに落としこみつつ、ベテランの暗黙知や現場感覚と融合させてこそ、真の意味で機能するものです。
製造業が“昭和”という遺産と“令和”の最先端を融合させることで、強く持続可能な現場力を育む時代が始まっています。
IoT×現場力による予兆保全は、その大きな一歩となるでしょう。
この記事が、導入を検討中の皆さま・現場目線を知りたいバイヤーやサプライヤーの方に、「現場発想でのIoT活用」のヒントとなれば幸いです。