投稿日:2025年8月17日

部品の役割を機能で再定義して不要性能を削る設計思考

はじめに ― 製造業の未来を切り拓く「機能再定義」の重要性

日本の製造業は、高度経済成長期に象徴される「モノづくり大国」として、世界中から高品質で細部まで行き届いた製品作りを讃えられてきました。
しかし、2024年の現在においても、昭和時代のやり方や慣習に縛られ、設計や調達で本質的な改革を進められずにいる企業も少なくありません。

特に注目したいのが、「部品の役割を“機能”で再定義する」という設計思考です。
これは現場の合理化を進め、コストダウンやリードタイム短縮、安全性の向上、サプライチェーン全体の最適化にまで波及する強力なアプローチです。

本記事では、ものづくり現場の実践に根ざし、属人的な勘や過剰品質から脱却するための「部品機能の再定義」について掘り下げます。
調達・購買担当、現場設計者、サプライヤー、はたまた業界でキャリアアップを目指す皆さんの視野拡大に役立つ内容となるよう、深く具体的にご紹介します。

「部品=機能」から始まる設計思考のパラダイムシフト

なぜ「過剰性能」が生まれるのか

多くの日本メーカーでは、過去の成功体験や前例主義、品質神話によって「もしかしたら必要かもしれない」「顧客からのクレームを防ぎたい」という理由で、必要以上の安全率や性能を設計に盛り込む傾向が根強くあります。

「このネジは念のため強度2倍」「この部品は将来のオプションも考慮」といった、現場の声は時に安心感をもたらしますが、一方でコストアップや納期遅延、設計リードタイムの長期化といった課題を生みます。
これが進むと、部品点数増加、組立難易度の上昇、不良率の増加、在庫圧迫、さらには調達先との無用な交渉コストが膨らむ悪循環へとつながってしまいます。

「最小限」の追究が競争力をもたらす

グローバル競争が激化する中、本当に必要な部品機能は何か、どこまでの性能が絶対条件か――。
この問いに正面から向き合うことが、いま業界に求められています。

部品の役割を「機能」で再定義し、不要な性能や仕様を削ぎ落とすことで、「同等機能なら他の部品やサブシステムに変更可能」「廉価な市販品へのリプレース」「そもそも無くしてしまう」など、新たな選択肢が広がります。

結果として、
・設計工数の削減
・調達コスト低減
・サプライヤー選定の自由度向上
・在庫管理の簡素化
・トラブル発生時のメンテナンス効率化
など、多面的なメリットを享受できる可能性が高まります。

実務に落とし込める“機能再定義”のプロセス

1. 製品の「要求機能」を抽出する

まずやるべきは、顧客・最終製品が求める機能を徹底的に棚卸しすることです。
目標性能と必須スペックは何か、どこまでが顧客価値に該当し、どこからが単なる自己満足や慣習なのか、冷静に仕分けていきます。

例:
・必要な遮熱性能は○○℃まででよい
・安全性基準を満たせば、他は軽量化や低コストを優先
・外観の意匠性はこの範囲のみ重視
こうした「ここだけは外せないゴール」を明確化します。

2. 現行設計を“目的別”に分解する

次に現行品や既存設計の部品を、用途・役割・目的ベースで分解します。
チェックするポイントは「なぜこの部品がついているのか?」「他の機能で代替できないか?」という設問です。

現場ヒアリングや実装現場の観察、設計者と操業者の対話など、縦割り分断を意識的に越えることも大切です。
現場では「昔からこれでやっている」「前任者の設計を引き継いだだけ」といった固定観念が根強く、意外な不要部品が潜んでいます。

3. 「不要性能リスト」の作成と優先順位付け

整理した部品や機能毎に、「本来の要求性能を満たすために本当に必要か?」を問い、不必要な性能や余計な強度・仕様をひとつひとつ“削る”リスト化を進めます。
優先順位をつけて「代替品で対応可能」「仕様ダウン可能」「廃止検討」と区分するのが効果的です。

一例として
・特殊な表面処理→実は不要(立ち上げ時の一時措置だった)
・高精度仕上げ→全体機能には貢献していない(組立やすさのみ)
などのケースがよく見つかります。

4. バイヤー/サプライヤー観点からの最適化

調達・購買担当の視点で見ると、部品に過剰な性能が乗っているために「リスクヘッジで高コスト化している」「サプライヤーが見つからず同じ系列に頼り続けている」といった状況は市場競争力の低下を招きます。

サプライヤーの立場でも「なぜその性能が要るのか分からない」「無理な仕様で歩留まりが悪化している」など、顧客設計からの要求の真意を知れば、より安定供給とコスト削減提案ができるようになります。

よって、設計・調達・サプライヤー間で「なぜこの部品が、なぜこの機能が必要か」という対話を日常的に行い、現場ニーズと最終顧客価値を一体で考える土壌づくりが不可欠です。

現場で実践するための具体的なポイント

部品共通化・標準化の推進

「機能で部品を定義」するアプローチと、部品共通化や標準化を並行して進めることで、設計効率と調達力を大きく引き上げることができます。

・他のラインやモデルでも汎用的に使える部品設計
・エンジニアリングチェーンへの部品情報一元管理
・標準部品への切替提案を促すインセンティブ設計
これらを組み合わせれば個別対症療法にならず、組織の知見として再利用可能です。

逆ベンチマークとコストブレークダウンの活用

どうしても「自社基準」や「従来方式」に目が向きがちですが、他社製品の分解調査(リバースエンジニアリング)やサプライヤーからの技術提案会など、現場を超えて知見を広げることも有力です。

また、ボトムアップで部品コストを積み上げる「コストブレークダウン」手法を、設計初期段階で適用することで、「どの機能のためにどれだけコストが掛かっているか」の見える化が進みます。

デジタル化・AI活用で“見える化”を促進

従来はエクセル管理や手作業での部品管理が主流でしたが、設計BOM/調達BOM/品質BOMのデジタル一元化、AIによる部品選定・仕様最適化支援など、新たなツールを導入することで「不要性能の可視化」「代替提案の自動生成」も実現可能です。

昭和の“ものづくり観”からの脱却と、未来への提言

「部品=経験値」から「部品=機能価値」へ

昭和モノづくりの根底には、「長年の勘・経験こそ正義」という価値観が色濃く残っています。
しかし、グローバル化による市販品の質向上、オープンイノベーション、サスティナビリティ(持続可能性)の潮流のなかで、単なる“こだわり”は競争力になりません。

「何のための部品か」「本当に必要な機能と性能は?」という視点で、設計から調達、組立、アフターサービスまで一気通貫で見直し、現場・バイヤー・サプライヤーの全員が「価値」を再定義する。
その繰り返しによって、強靭なサプライチェーンと持続可能なビジネスモデルが築けるのです。

これからのバイヤー・サプライヤー・設計職に求められること

バイヤーは、顧客(設計部門や最終顧客)が本当に必要としている「機能」に目を向け、時には設計見直し提案も辞さない攻めの姿勢が求められます。
サプライヤーも、顧客との積極的な対話や技術提案により「余計な要求はありませんか?」「最新の市販品に置き換えませんか?」と価値創造サイクルの一員となるべきです。

設計職も「目的は何か、どの機能がどこに影響するか」の論理的把握力と、調達や現場オペレーションまでを考慮した「全体最適」の視点を培うことが、これからの時代にますます重要になってきます。

まとめ ― 「当たり前」を問い直し、機能で差をつける

部品の役割を「機能で再定義」する設計思考は、単なるコストダウンのテクニックにとどまらず、調達力・現場力・顧客価値の三位一体での競争力強化につながります。

昭和から続く“過剰安心”や“前例踏襲”を、未来志向の「必要十分主義」「全体最適」「サプライチェーン連携」に書き換える。
一歩一歩の見直しと実践こそが、ものづくり現場の新しい地平線を切り拓くのです。

今こそ、日常業務の“当たり前”を大胆に問い直してみてください。
それが日本の製造業を変革する第一歩になります。

読者の皆様の現場に、「機能で再定義する設計思考」の視点が広がり、より強い競争力と変革力が芽生えることを願っています。

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