投稿日:2025年9月1日

返品・保証費の削減で実質単価を下げる品質施策

はじめに:製造業が取り組むべき「見えないコスト」への挑戦

製造業における「コストダウン」という言葉は、いまや永遠のテーマです。

多くの場合、原材料費の削減や調達先の見直し、生産効率アップなどで単価を下げることに注力しがちですが、これらの努力だけでは限界も生まれます。

一方で、見落とされがちなのが「返品・保証費」といった“見えないコスト”です。

これらのコストは、企業の利益をじわじわと侵食し、ひいては顧客からの信頼にも関わる重大な要素です。

本記事では、メーカー20年超の実務経験をもとに、現場目線で返品・保証費を削減し、実質単価を下げる品質施策について紹介します。

昭和から抜け出せないアナログな現場でも今日から実践できる内容を盛り込み、製造業に勤める方、バイヤーを目指す方、サプライヤー視点の方にも役立つ情報をお伝えします。

「返品・保証費」の正体とインパクトを知る

実質単価へじわりと効いてくる返品・保証費のメカニズム

まず把握しておきたいのが、「返品・保証費」が実質単価をどのように引き上げているかということです。

表面上は同じ販売単価でも、不良品による返品や顧客からの保証(無償交換や修理)があると、その都度コストが発生します。

結果的に、販売できる数量あたりの正味利益が減少し、事実上の単価アップとなってしまうのです。

具体的には以下のようなコストが隠れています。

– 回収・再出荷費用
– 検査・再作業費用
– 顧客対応(訪問や連絡)の人件費
– 保証期間中の部品代・サポート工数
– 信頼低下による商談損失(見逃しがちですが、これが最も痛手)

このように、返品・保証費の削減はダイレクトに企業の収益性を改善するだけでなく、顧客満足度やブランドイメージの向上にもつながります。

業界を取り巻く変化と、品質コストの捉えなおし

製造業の歴史を振り返ると、“多く作れば売れる”時代から、多品種少量やカスタム品、グローバルな調達など、品質リスクを増やす要素が増加しています。

特に、今も昭和的なアナログ管理が残る現場では、製品が顧客のもとで不良を起こす頻度が高く、返品や保証の予測すら困難です。

コスト競争は激化する一方で、不良発生=即顧客流出のリスクにも直面しています。

だからこそ、今改めて返品・保証費と真剣に向き合い、実態を見える化し、削減に向けて動き出す意義が大きいのです。

返品・保証費削減に効く実践的な品質施策

STEP1:現場データを「本音ベース」で可視化する

まず最重要となるのが、「現場から本当に正しいデータを吸い上げること」です。

アナログ管理の現場では、返品・保証案件の発生数や内容が曖昧なまま記録され、経営層へ正確に届かないことも珍しくありません。

そこで、おすすめなのが「YWT法」や「なぜなぜ分析(5Whys)」を用いた現場ヒアリングです。

返品や保証の発生情報は、製造・品質管理・営業・カスタマーサポートなど縦割りで管理されがちですが、部門横断で実案件の流れを可視化しましょう。

「どの製品で、いつ、どの程度、どんなクレームが出て、実際にどんなコストがかかったか」
これを一覧化するだけで現場の空気が一変します。

STEP2:返品要因の“構造”を掘り下げて特定する

返品や保証費を単なる“現象”として捉えては本質的な改善ができません。

重要なのは、それが
– 設計ミス
– 誤部品混入
– 検査漏れ
– ロット管理不備
– 外注工程・サプライチェーンでの不具合
– 使用環境不適合

など、どこに本質的要因があるのかを明確化し、グラフやパレート図で全体像を把握することです。

ここで力を発揮するのが「QC七つ道具」や「工程FMEA」、現品確認に基づく「GEMBA(現場)巡回」です。

現場感覚で見ると、同じ不良でも派手な「1件の大クレーム」より、日常の「小口返品」がチリツモで莫大なコストになるケースもあります。

STEP3:設計から現場プロセスまで“全体最適”の体制を作る

問題の大半は、設計と生産、調達(バイヤー)の“壁”による伝達ロスです。

近年では、生産技術や品質保証部門が初期設計段階から関わる「フロントローディング」の重要性が注目されています。

設計レビューを徹底し「品質は工程で作り込む」が合言葉。

例えば、
– 材料・部品の標準化(バイヤーと一体となって“不良が入り込まない調達先選定”を実現)
– 工程内検査・自動化の投入(AIカメラやIoTを活用したパトロールもコストパフォーマンス向上)
– サプライヤー教育や共同改善(現場担当レベルの双方向コミュニケーションを通じ品質意識を底上げ)
などが、返品・保証費の根本的な削減策となります。

番外編:アナログ現場でよくある“落とし穴”も要注意

昭和スタイルの現場でよくあるのが「記録は残るが、活用されていない」現象です。

手書き帳票や紙のクレーム票が棚に溜まりっぱなしで、データとして分析されないことも珍しくありません。

「デジタル化」が進まない場合は、まず「エクセル台帳」や「ホワイトボードまとめ」から始め、少しずつ現場にPDCAサイクルを根付かせることが有効です。

成功事例で見る現場発の品質改善とコストダウン

部品サプライヤーの「不良部品納入率」ゼロ化プロジェクト

ある大手自動車部品メーカーでは、サプライヤーが納入直前検査のみで済ませていたため、毎月数十件の部品不良による返品・保証が発生していました。

そこで、バイヤー(調達部門)が中心となり、サプライヤーの現場改善チームと連携。

以下の取り組みを実施しました。

– 工程内異常検知センサーの設置
– 継続的な工程監査(四半期ごとの合同GEMBAパトロール)
– 作業者向けなぜなぜ研修

その結果、わずか半年で「納入不良ゼロ」の達成。

保証・返品費用は年間で約90%削減、サプライヤー側の品質コストも低減し、むしろ単価交渉で有利になりました。

小規模板金工場:帳票デジタル化と“正直申告”によるトラブらない仕組み

地方の板金加工工場では、“職人任せ”の検査に依存し続け、顧客クレームが絶えない状況でした。

そこで、現場リーダー主導で簡易的なタブレットチェックリストを導入。

不具合発生時は誰でも“正直に打ち込む”ルールに変更し、毎週5分のミーティングで改善策を共有。

現場全体で「不良を隠さない」文化を築いたことで、不良率は3分の1に。

大手得意先の信頼も回復し、値下げ要求が減りました。

バイヤー・サプライヤー目線で考える「品質」と「価格競争」の本質

バイヤー(調達側)が知っておくべき“品質戦略”

単なる価格交渉だけではなく、
– サプライヤーの品質管理体制への理解
– クレーム未然防止策への積極的参加
– データ共有による「共創的コストダウン」

これらが、結果的に自社の実質単価低減、納期安定化に直結します。

目先の単価値引きより、返品・保証費込みの「トータルコスト」でサプライヤー評価を行いましょう。

その分、良いサプライヤーには適正利益を認め、悪い情報共有も「叱責」でなく「共通課題」として取り組みましょう。

サプライヤーが取り組むべき“バイヤーの本音”理解

サプライヤー側が陥りがちなのが「安く納めれば、それで良し」という発想です。

しかし、バイヤーは実際には
– 品質安定による返品減
– 品質管理レベルの見える化
– トラブル時の誠実・迅速な対応
これらで最終的な満足度やリピート契約を判断しています。

「ウチはコスト競争で負けてしまう」と悩んでいる中小サプライヤーこそ、現場品質力に強みを出し、バイヤーの“ホンネ評価”で他社と差をつけられます。

まとめ:現場の知恵と分析で、「返品・保証費ゼロ」を実現

返品・保証費の削減は、単なる「品質部門の仕事」でもなければ、「コストダウンを求める調達バイヤーの机上論」でもありません。

現場から生まれるリアルな情報、部門の壁を越えた連携、そしてサプライヤーと垣根のない対話がカギです。

昭和的な仕事習慣の中でも、見えないコストを見える化し、「本質的な品質施策」を一歩ずつ積み上げることで、実質単価は必ず下げられます。

本記事が、現場とバイヤー・サプライヤー双方に新たな気づきと“攻めの品質改善”推進の一助となれば幸いです。

You cannot copy content of this page