投稿日:2025年12月5日

部品点数削減とメンテナンス性が両立しない悩ましい現実

はじめに――製造業に根強く残る「部品点数削減」と「メンテナンス性向上」のジレンマ

製造業の現場に身を置く方、あるいはサプライヤーとして多くのメーカーと関わる方なら、一度は「部品点数削減」と「メンテナンス性の向上」という二つの課題の狭間で頭を悩ませた経験があるはずです。

これは昭和の時代から現代まで、業界の動向や事業環境がどれほど変わろうとも、決して消えることのない論争テーマです。

「コストダウン」「省人化」「作業の標準化」「生産性向上」など、さまざまな経営改善の施策が登場する中で、この二つはしばしば相反する要求として現場の現実に立ちはだかります。

今回は、私自身が20年以上にわたり経験してきた現場目線で、このジレンマにどのように向き合うべきかを深掘りします。

調達やバイヤーの方はもちろん、サプライヤーの立場からバイヤーが何を重視しているか知りたい方にとっても、参考となる実践的な知見をお届けします。

部品点数削減はなぜ叫ばれるのか?

コスト競争力強化の王道施策

製造業において部品点数削減が叫ばれるのは、何よりもコスト競争力を高められるからです。

使用部品が少なければ、当然ながら組立工数が減ります。

調達・在庫管理の煩雑さも大幅に低減します。

さらに、部品発注先の統廃合や資材発注のロット縮小によるスケールメリットも享受できます。

現場作業や工程管理においても、取り扱う部品の種類が減ればミスも減少し、工程の標準化・省力化へとつながるのです。

品質安定と標準化への効果

部品点数が多いほど、不良発生やトラブルの可能性も高まります。

品質管理や保全活動においても、できるだけ使う部品を減らすことは、品質のバラツキ抑制や工程不良の未然防止につながります。

「シンプル イズ ベスト」という設計思想は、多くの現場で根強く支持されているのです。

メンテナンス性が重視される理由

設備の稼働率・ライフサイクルの最大化

一方、現場で求められるのが「メンテナンス性の高い設計」です。

工場設備や各種装置においては、稼働を止めず持続的に生産性を発揮し続けることが最重要課題です。

突発故障・不具合に対して、現場の保全担当者が迅速かつ容易に原因部品を特定し、手早く交換できる仕組みが必須となります。

メンテンス性が低い設計の場合、ごく小さな部品1点のために筐体全体を分解する、複数の部品を同時に外さなければならない、再組立に時間やスキルが要求される――こうした事態は現場にとって甚大な生産ロス要因となってしまうのです。

日本特有の「現場守備力」と自主保全文化

日本の製造業が歴史的に重視してきた現場の「守備力」、すなわち自分たちで機械・設備をメンテナンスする自主保全文化の存在も見逃せません。

緊急時に現地で即応対応ができること、必要部品の調達のしやすさ、交換・調整の容易さ――こうした価値観の上に、日本の製造現場の強さは築かれてきました。

実際にどこで両立に課題が生じるのか?

モジュール化の功罪

代表的なのが、部品点数削減のために各種機能・要素を一体化した「モジュール化設計」です。

例えばギヤボックスや制御基板など、複数要素を組み合わせユニット化することで、設計や管理が格段にシンプルになります。

しかし万一トラブルが発生すると、全交換が必要となり、部品交換のコストが跳ね上がる、あるいは一部分の不良にもかかわらず全体交換対応となってしまう、といったメンテナンス性低下の問題が生じます。

設計思想に潜む「現場の声」の軽視

部品点数削減を主導するのは、多くの場合、設計・開発や調達・原価管理部門です。

一方で現場の保守担当者やオペレーターからは、分解工数や修理難易度など、実際の作業負担に根差すリアルな声が上がります。

この「机上と現場」の乖離こそ、部品点数削減とメンテ性の両立が難しい“根源的な課題”と言えるでしょう。

時代に取り残されたアナログな流儀

仕様変更・図面改定の“責任回避文化”

日本の製造業、とりわけ昭和から続く大手メーカーでは、「過去の成功体験」に縛られやすい体質が根強く残っています。

設計部門が安易な部品点数削減を志向したり、メンテナンス部門が社内政治や責任回避観点から旧態依然の複雑な設計を「現状踏襲」したり。

また、下流工程で不都合が起きた際の「たらい回し」や「自己防衛」意識もまだ蔓延しています。

その結果、顧客にとって本当の意味で価値ある仕様変更や、図面改定が進まないという現実があります。

メーカーとサプライヤーの対立構造

部品点数削減は調達や設計側のコストダウン意図が根強く、サプライヤーにはしばしば「多品種少量生産への対応」や「QCD(品質・コスト・納期)の厳守」という追加負担を強いる形となりがちです。

一方、サプライヤー側も自社品の導入メリットだけを強調し、本質的な課題共有やメンテ性向上については及び腰となる“自分本位なコミュニケーション”が起きやすい点も課題です。

未来志向――ジレンマ解消に向けた現場目線のアプローチ

現場巻き込み型チームの重要性

設計、調達、製造、品質、保全の各部門が連携し、現場のリアルな知見をうまく設計思想・調達方針に反映させる「現場巻き込み型のチーム作り」が重要です。

現場で想定されるメンテナンス作業を事前シミュレーションした上で部品点数削減案を検証したり、実機レビューにて課題洗い出し・合意形成する、といった運用例が求められます。

また、メンテ性を財務的な指標(ダウンタイム損失や交換工数のコスト化)として評価する仕組みを導入することで、感覚論や部門最適に陥るのを防げます。

IoT・デジタル化の活用

近年では、IoTやAI技術の進展により、設備異常の予兆診断や遠隔メンテナンス指示が実現しつつあります。

これにより、現場での「手順の可視化」や、「必要部品の自動手配」「点検・交換履歴の一元管理」が可能となり、メンテ性向上と部品点数削減の両立が図れる新たな地平線が開けています。

グローバルベストプラクティスから学ぶ

欧米のグローバルメーカーでは、早くから「モジュール交換」と「リファービッシュ(再生保守)」の組み合わせや、サービスインターバルの延長を視野に入れた設計思想が浸透しています。

これらの海外事例やサプライチェーン戦略の導入・応用により、日本型の過剰メンテナンスや重層的体制をスリム化するヒントが得られるはずです。

バイヤー・サプライヤー双方が目指すべき未来

「無理のない最適化」思考を共有する

部品点数削減も、メンテ性も、どちらかだけを極端に優先すれば、現場に混乱や実利益の低下をもたらします。

両立が難しい現実を十分に認識したうえで、「業務全体の最適化」「トータルコスト最小化」という共通目標に立ち返ったコミュニケーションが重要です。

バイヤーもサプライヤーも、単なるコスト削減や提案型営業にとどまらず、現場目線の価値提案を通じてWin-Winの関係を築こうとする姿勢が求められます。

現場へのリスペクトと傾聴力

現実には、工場のど真ん中にいるオペレーターや整備員こそ、「部品点数削減」と「メンテナンス性」の両立がいかに難しいかを日々体感しています。

その前線の声に真正面から耳を傾け、実際の困りごとや工夫、蓄積されたノウハウを設計やバイイングの意思決定プロセスに生かすことが、今後の日本製造業の底力につながるのです。

まとめ

「部品点数削減」と「メンテナンス性」との両立は、現場で働くわれわれ製造業の全員にとって、永遠の課題です。

このジレンマを安易に片付けることなく、時代の変化と現場知見、デジタル活用、そして何より人間同士の真摯な対話を通じて、「自社の現実に根ざした最適解」を探り続けていくことが大切です。

次なるブレークスルーは、あなたの現場の声、ひらめき、実践から必ず生まれると信じています。

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