ジャージ生地のストレッチ性能と編み方の関係を理解する

はじめに：製造現場から見たジャージ生地の重要性

ジャージ生地は、スポーツウェアや作業着、医療用ユニフォームなど、多岐にわたり使われています。
その中でも、「ストレッチ性能」は使用者の快適性や機能性に直結する最重視ポイントです。
しかし、その優れた伸縮性がどのように実現されているか、現場の目線で深く理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。

本記事では、20年以上の製造現場経験をもつ筆者が、ジャージ生地のストレッチ性能と編み方の関係について、昭和から続くアナログ的な現場感覚に加え、最新の業界動向や実践的な知識も織り交ぜて解説します。
バイヤーやサプライヤー、サプライチェーンで品質や原価を左右する皆さまへ、「現場で即役立つ知恵」をお届けします。

ジャージ生地とは？─基本構造と主な特徴

ジャージ生地とは、もともと羊毛で編まれていた伸縮性の高いニット生地を指します。
現在ではポリエステルや綿、ナイロン、スパンデックス（ポリウレタン）など多様な素材が利用され、多様な分野に対応しています。

最大の特徴は、平織り生地と比べて「横方向への優れた伸縮性」と「復元力」です。
これは、製織（織り）ではなく、編みという構造上の違いから生まれます。

編み（ニット）と織り（ウーブン）の違い

編み生地は「ループ状」に糸を連続して絡めていくのに対し、織り生地は「縦糸と横糸を交差」させて作られます。
ループ構造は、ひっぱると糸が伸びて戻る『伸縮性』を生みやすいのが最大の利点です。

このため、ジャージ生地は身体の動きにしなやかにフィットし、作業着・スポーツウェア・下着など「可動域を重視する衣料」に多用されています。

ストレッチ性能を決める要素

「ジャージ」と一口に言っても、伸びやすいものから硬めで伸びにくいものまでさまざまです。
では、そのストレッチ性能はどのような要素で決まるのでしょうか。

一言でまとめると、「素材（糸）」と「編み方（組織設計）」、＋「仕上げ加工」のかけ合わせです。

素材：ストレッチ糸の進化と選定ポイント

ストレッチ性能を支える材料として
・ポリウレタン（スパンデックス/ライクラ/エラスタンなど）
・ストレッチポリエステル糸
・コットンやウール混の特殊糸
などが挙げられます。

近年はスパンデックス混率を数％加えるだけで格段にストレッチ性能が向上します。
「どこまで伸びて、どの程度元に戻るか」を決めるのは糸の種類と太さ（番手）、混紡率です。

また、サプライチェーン上で「ストレッチ糸は高価・ミルスペックがシビア」という調達課題があり、コストと性能のミスマッチが現場でよく起きます。
そのためバイヤーは「何にどれだけのストレッチ性が必要か」を前処理段階で明確にすることが、購買戦略上も重要です。

編み方（組織）：ジャージ生地の設計とストレッチ特性

編み方の違いが、そのままストレッチ性能の個性となります。
代表的なのは以下の2つです。

シングルジャージ（天竺編み）

最も基本的な構造。
表側が平ら、裏側が横筋になる編み方です。
横方向に非常によく伸び、Tシャツやスポーツシャツで多用されます。
縦方向はあまり伸びません。

注意すべきは、目が甘いと「型崩れ」しやすくなる点。
用途次第で編み密度（ゲージ、リンキング数）をコントロールします。

ダブルジャージ（リブ/両面編み/インターロック）

表裏の両面が均一で、厚みと安定感があり、縦横ともほどよい伸縮性をもちます。
型崩れしずらく、ジャージパンツなど耐久性を求める製品で重宝されています。

近年は、ゴム編み（リブ）やスパン糸を効果的に組み合わせる「複合組織」も増えており、ここにサプライヤー技術の独自性が現れます。

仕上げ（フィニッシュ加工）とストレッチ性

最後に、生地の仕上げ工程で「樹脂加工」「吸水速乾」「抗菌防臭」などを施すことで、柔軟性や着心地・耐久性が強化されます。
ただし、過度な樹脂加工はストレッチ性を損なうため、用途ごと最適バランスで設計されることが求められます。

ジャージ生地の“昭和的”アナログ現場─そして進化する業界動向

暗黙知が生きる現場ノウハウ

「この太さの糸には、この速度、この湿度がよい」
「針の交換タイミング、糸調子の“音”でわかる」

長年現場では、こうしたアナログな“勘どころ”がストレッチ品質の安定に寄与してきました。
特に調達購買視点では「安価な海外製編機と、国産高精度機のハイブリッド運用」や「熟練工による現場微調整」が品質リスクの低減策として機能します。

工場の自動化が進む一方、微妙な糸のムダ毛やテンション管理などは、今なおベテランオペレーターの出番が多い領域でもあります。

デジタル化と品質管理の新潮流

昨今は、画像認識AIによる編みムラ検知や、IoTでのリアルタイムテンション管理、自動ゲージチェンジなど、生産性×品質の両立が進んでいます。
たとえば、「ストレッチ指数（伸度％とキックバック率）」がデータで可視化・比較できるため、サプライチェーン全体で歩留まり向上策が立てやすくなりました。

一方、バイヤーや品質担当は「データ上問題なし、でも衣服にしたら妙に窮屈」「洗濯後に急に伸びなくなった」など現場のリアルな声も拾い上げる現場力が、依然として最終的な品質担保には欠かせません。

バイヤー・サプライヤー目線で意識したいポイント

用途別スペックの最適設計

「現場作業着」「ランニングウェア」「パジャマ」それぞれのストレッチニーズは異なります。
予算、耐久性、伸縮性、肌触り、安全性（ノンホルマリン等）など、企画・発注段階で細かく要件定義することが、後工程の品質不良や納期遅延の大半を未然に防ぎます。

供給リスクマネジメント

原材料高騰、海外サプライヤーの納期トラブル、機械の故障といったリスクに備え、「複数調達」「現地現物主義で確認」「サンプルによる第三者評価」など、地に足の着いた購買活動が肝心です。

サプライヤー側も「現場のムダや仕損じ、隠れコスト」を踏まえ、柔軟な打ち合わせ・相互フィードバック文化を醸成することが、長期的な信頼・安定供給への鍵となります。

まとめ：現場の「今」と「これから」をつなぐ知恵

ジャージ生地のストレッチ性能は、糸と編みの組み合わせ、現場の知恵、そして進化するデジタル技術の三位一体で磨き上げられています。

バイヤーとしては「机上でのスペック比較」だけでなく、「現場での使用感・実効性能」を必ず確認しましょう。
サプライヤーとしては、「材料・編み方・仕上げ」のトレードオフを現場目線で説明し、最適解を一緒に設計していくパートナーシップの構築が重要です。

アナログの勘どころと、デジタルの論理性。
両者を掛け合わせることで、昭和の技術遺産を生かしつつ、これからの持続可能な製造業の価値創造につなげていきましょう。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ジャージ生地に関するご相談やご質問があれば、ぜひ現場目線で一緒に考えましょう。