投稿日:2025年11月5日

スポーツウェアの伸縮性を支える4WAYストレッチ素材の構造

はじめに:スポーツウェアの進化と4WAYストレッチ素材の重要性

スポーツウェアと聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。

軽量性、速乾性、そしてもう一つ、重要なキーワードがあります。

それは「伸縮性」。
特に昨今、市場のニーズが高まっているのが“4WAYストレッチ”素材です。

日々進化するスポーツギアの中でも、この4WAYストレッチは、まさに現場目線、ユーザー目線から生まれた素材革命といえるでしょう。

しかし「4WAYストレッチとは一体何が違うのか?」、「その構造や製造現場での課題は?」、「そもそもどんな歴史や業界動向があるのか?」と問われると、即答できる方は意外と少ないはずです。

この記事では、約20年にわたり調達購買・生産管理・品質管理・工場自動化まで経験してきた現場叩き上げの筆者の視点で、4WAYストレッチ素材の構造、そして業界を取り巻くアナログからデジタルへの変遷、現場が直面する真の課題を掘り下げていきます。

4WAYストレッチの定義と特徴

伸縮の方向性と“2WAY”との決定的な違い

“ストレッチ素材”というと、従来は織り方の工夫やスパンデックスなどの弾性繊維を使って横方向だけに伸びる2WAYストレッチが主流でした。

ところが、4WAYストレッチは文字通り「縦にも横にも高い伸縮性を持つ」のが最大の特長です。

例えば、2WAYストレッチを例えるなら、帯ゴムのように「横方向だけにぐいっと伸びる」イメージ。

一方、4WAYストレッチは「縦横両方向にストレス無く伸びる布団カバー」のようなものです。

これにより、激しいスポーツや運動、身体全体を大きく使う動作にも生地が追従しやすく、ウェアのフィット感・可動性・快適さが格段に向上します。

スポーツ現場での圧倒的な優位性

4WAYストレッチ素材がスポーツウェアで重宝されるのは、単に「伸びるから」だけではありません。

例えば、サッカーやバスケットボールのような激しい切り返しや屈伸を含む競技では、上下左右あらゆる方向に衣服のストレスがかかります。

2WAYのみでは対応できない身体の動きにもフィットしやすく、プレイヤーの動きを妨げない。

この機能性が、トップアスリートから一般のフィットネス愛好家まで幅広い支持を集める最大の理由です。

4WAYストレッチ素材の構造に迫る

原材料の進化:スパンデックスの役割

4WAYストレッチ素材を語る上で欠かせないのが、「スパンデックス(またはエラスタンとも呼ばれる)」です。

この繊維は、ゴムのような高い伸縮性を備えながらも引張り強度・耐久性に優れており、ポリエステルやナイロンなど各種繊維と組み合わされることで生地全体のストレッチ性を飛躍的に高めます。

現場で調達・購買を担当する目線から見ると、スパンデックス含有率の違いで原価・風合い・伸縮性・復元力が大きく変わります。

また生地開発の初期段階から「どの用途向けに、どの程度の伸縮性・圧縮性・耐久性が必要なのか」を仕入れ側が明確に伝えられるかどうかは、製品力の根幹部分に影響を与えるポイントです。

織り方・編み方による構造的工夫

4WAYストレッチの真髄は、“素材そのものの伸縮性”に加えて、“構造(織り方・編み方)”にあります。

たとえば、トリコット編みや経編みを用いることで、生地全体が縦横両方向へ自然に伸縮するよう設計されています。

また、糸の交差角度や密度、縦糸・横糸のバランスを微調整する技術も、現場発のノウハウが大きくものをいうポイントです。

現場が長年培ってきた職人の勘と、最先端の設計シミュレーション(カメラ画像解析など)が融合し、より高性能な4WAYストレッチ素材が誕生しています。

課題:生産管理と品質安定化への挑戦

生地としては素晴らしい4WAYストレッチも、製造現場では難度の高い素材であるのは事実です。

縦横とも伸びやすい素材は、生産工程(カット、縫製、プレスなど)で“生地が余分に伸びすぎる”=仕上がり寸法やパターン通りにならない、といった課題に直面します。

これは品質管理において、「工程設計」「治具の工夫」「作業者の技能熟練度」「自動化機器の精度向上」といった全方位的な対策が必須。

“ただ便利な素材を仕入れるだけでは現場で使いこなせない”という、調達購買と生産管理の現場的ジレンマが浮き彫りになる分野でもあります。

昭和アナログ業界からの変革:4WAYストレッチ普及の舞台裏

“伸びる”は“緩む”と紙一重だった過去

一昔前の工場現場では、「伸びる素材=型崩れしやすい、耐久性が低い」といった固定観念が強く、品質クレームの温床にもなりがちでした。

また、縦横両方向に伸びる構造はパターン設計や縫製工程に多大な手間と試行錯誤をもたらすため、昭和アナログ時代の“職人技依存”から抜け出すのが難しかったという背景があります。

これらの課題を突破したのが、強靭な弾性繊維の開発と、織り・編み構造設計のデジタル化でした。

いわば“現場×技術の融合”が、4WAYストレッチ普及の突破口となったのです。

“現場の声”が変えたバイヤーの目線

サプライヤー側で素材開発に取り組む姿勢と同じくらい、「現場の声」をくみ取るバイヤーの目線改革が4WAYストレッチ普及に大きく貢献しました。

例えば「どの範囲まで伸びていいか」「どのレベルのフィット感が許容されるか」など、ユーザー体験を重視した要求仕様を現場側が発信。

バイヤーはこの声を反映し、「○%伸長時の応力」「繰り返しストレッチ後の寸法保持率」など、科学的な評価基準をサプライヤーと共有。
これにより、ただ“伸びるだけ”ではなく“しっかり戻る”“長持ちする”という品質設計思想が生まれたのです。

デジタル化の波が現場生産を変える

今、製造業全体で進行しているデジタル化の波は、スポーツウェア生産でも大きなインパクトを与えています。

具体的には、AI画像認識を用いた生地検査工程の自動化や、3Dパターン設計により縫製誤差の最小化、IoTプリンタによるロス削減などです。

こうした技術革新によって、従来「経験と勘」一辺倒だった4WAYストレッチ素材の生産安定化や納期短縮が進みつつあります。

工場の自動化は“アナログからの脱却”の象徴であり、製造業界の新たな競争力源となっています。

調達バイヤーの戦略思考:素材選定で差別化を図る

コストだけでなく「価値」を見抜く眼が問われる

スポーツウェア業界で4WAYストレッチ素材を調達する際、単純な原材料コストだけで判断するのは危険です。

なぜなら、伸縮性・耐久性・加工性・肌ざわりといった複数の要素が絡み合い、製品としての“トータル価値”を生み出しているからです。

“製造現場での扱いやすさ”や“現場クレームの未然防止力”まで洞察した調達担当が、業界内で一歩抜け出すカギを握るようになっています。

サプライヤーに求められる開発力と現場提案力

サプライヤー側から見れば、4WAYストレッチの開発・供給は単なる競争ではありません。

製造現場の運用リスクを事前に察知し、試作時から「縫製テスト・洗濯試験・寸法安定性試験」など実践的検証を伴う提案を行う――こうした姿勢が、調達バイヤーの信頼をつかむ最大のポイントです。

これは昭和的な「言われた物をそのまま納める」から、「現場と二人三脚でプロジェクトを仕上げる」関係へと質的転換した証拠ともいえるでしょう。

これからの4WAYストレッチと製造業界への提言

“スポーツ”から“日常”へ—用途拡大の流れ

4WAYストレッチ素材は、スポーツだけでなく制服、オフィスウェア、体操服、医療・介護分野にも拡大しています。

その背景には「ラクさ」「耐久性」「清潔さ」への一般消費者ニーズの高まりがあります。

製造業としては、「スポーツ用途だけではない幅広い市場」に目を向けた価値提案が今後ますます重要になってくるでしょう。

人材の多様化と現場力のバージョンアップ

4WAYストレッチ素材一つとっても、設計・生産・調達から現場オペレーター・バイヤー・サプライヤーまで、多様な人材の連携が不可欠です。

昭和的な縦割り構造から脱し、“現場・現物・現実”に基づいた現場改善をデジタル・アナログ両面でつなぐコミュニケーション力が今こそ求められています。

未来を切り拓くために

かつて“高級素材の一部”だった4WAYストレッチも、今や標準スペックとして広く普及しつつあります。

しかしそこに甘んじることなく、さらなる機能性・環境性能・サステナビリティを追求するチャレンジが、次代の製造業の価値を形作っていくでしょう。

まとめ:4WAYストレッチ素材を制する者が、スポーツウェアの未来を制す

4WAYストレッチ素材は、単なる“よく伸びる生地”ではありません。

現場の叡智、ものづくりの真髄、そしてユーザー目線の革新が融合した先進素材です。

バイヤー、サプライヤー、全ての製造業に携わる方々が、アナログの強みとデジタルの先進性を併せ持ち、さらなる現場力を磨いていきましょう。

それが業界の未来を切り拓き、新たな価値提供につながるはずです。

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