投稿日:2025年6月16日

電子機器・部品における信頼性確保と効果的・効率的な試験技術

はじめに:電子機器・部品の信頼性とは何か

電子機器や電子部品が身の回りに溢れる現代社会において、これらの製品の「信頼性の確保」は非常に重要なテーマとなっています。

信頼性とは、製品が定められた使用条件のもとで、一定の期間、期待される機能や性能を安定して発揮し続けられる度合いを指します。

例えば、インフラを支える産業機器や、自動車の重要な制御ユニット、医療用機器など、故障が社会的にも大きく問題となる分野では「故障しないこと」「安心して使い続けられること」が最重要視されます。

この信頼性を保証するために欠かせないのが各種の「試験技術」であり、その現場運用こそが製造業の実力を決定づけています。

本記事では、現場目線で見た信頼性確保の本質や、実践的かつ効率的な試験の設計と実行について掘り下げていきます。

また、昭和から続くアナログな風土が今なお根強く残る業界の課題や、その打破へ向かう新たな地平についても考察します。

信頼性確保の原点:なぜ「電子機器の試験」が重要なのか

なぜ「信頼性」を問う必要があるのか

電子機器・部品は複雑化し、多様な技術が組み合わさることで「見た目は正常動作」でも内部的に潜む初期不良や経年劣化が発生しやすくなっています。

少し前まで通用した目視検査や単純な通電チェックだけでは、想定外の故障を防ぎきれません。

製品が市場に流れてから不具合が判明すれば、巨額のリコールコスト、ブランド失墜、さらには安全事故など致命的なダメージを企業が負うことになります。

その悲劇を防ぎ、「約束された性能・品質」を顧客に安心して届けるために、信頼性評価および試験技術は、今やメーカーにとって経営そのものと直結した最優先課題なのです。

昭和から続く「工場現場」のリアルな課題

製造業には、職人技や経験則を重視し「昭和の成功体験」に頼る風土が色濃く残っています。

例えば、時間をかけて全品検査する「100%チェック主義」や、「気合と根性」の無駄な再試験などが現場を圧迫し、生産性と信頼性の両立を阻んでいます。

こうした根性論・形式主義から本質的な信頼性重視へとパラダイム転換することが、今後の製造業DXやグローバル競争へのサバイバルの鍵となります。

信頼性を左右する因子:設計・部品・組立・使い方

1. 設計段階でのリスク低減

最初の重要ポイントは「設計」です。

電子回路の過電圧対策、熱暴走防止、部品の相性・余裕度設計など、製品寿命や事故防止の約8割は設計品質で決まります。

設計段階でDR(デザインレビュー)、FMEA(故障モード・影響解析)、シミュレーション技術による予見などを実施し、後戻り不可の「作ってから気づく失敗」を予防する習慣を根付かせるべきです。

2. 部品調達の目線:「買う側」の視点と課題

調達・購買担当者は、単なる価格勝負ではなく「必要な信頼性基準を満たしているか」を見極めてサプライヤーを選定する力が求められます。

規格適合、品質保証レベル、トレーサビリティ、供給継続性など多角的な観点から「選んだ部品が意図通りの品質を長期に保証できるか」を見抜けることが、高信頼性製品には必須です。

また、時にサプライヤーに試験方法や品質保証方式そのものを指導・共創する取り組みも必要となります。

3. 組立・製造段階の制御技術

どれほど高性能な設計・部品でも、実際の工場現場で誤った組立や実装ミス、不適切な半田作業があれば、その信頼性は一瞬でゼロとなります。

工程FMEAや自動化設備によるミス防止、IoTによる見える化とリアルタイムフィードバック、そして人の教育を徹底することで「現場力での信頼性担保」が必須となります。

4. エンドユーザーの使用環境まで見据えた配慮

最近は、予期しない海外高温多湿環境での使用や、過酷な振動衝撃がかかる現場など、納入後の「想定外シナリオ」も増えています。

設計から試験まで、最終的な使用環境・運用実態を的確に把握し、必要な耐久・耐環境試験条件を緻密に詰めることが、真の信頼性保証アップにつながります。

信頼性試験技術の体系:代表的な評価と現場目線での活用

主要な信頼性試験の種類・目的

電子機器や電子部品の信頼性を評価する代表的な試験には、以下のようなものがあります。

・電気的特性試験:通電状態での電圧、電流、機能応答のばらつきや経時変化
・温度サイクル試験:高温・低温環境を繰り返し製品をストレス下に置き、はんだクラックや材料劣化を検証
・高温高湿試験:水分・湿気による絶縁不良や腐食、部品の膨潤などを再現
・振動・衝撃試験:耐震性や落下テストを通して実装部品の外れや基板クラックを可視化
・寿命加速試験(バーンイン/加速寿命):常用を上回る温度や負荷で短期間に劣化・初期不良を顕在化させる

これらを自社の設計特性や顧客の要求に合わせて最適に組み合わせることで、「理想の信頼性レベル」が初めて担保されうるのです。

現場で問われる「効率的な試験設計」とは

多くの現場では「全数を限界までテストしたいがコストと時間が…」というジレンマに直面します。

ここで重要なのは、「量・時間」より「内容・本質」を重視するラテラルシンキングです。

例えば、実際の市場トラブル要因を解析し、「必ず顕在化させるべき不良モード」にピンポイントで威力を発揮する試験条件や加速因子を設定します。

また、IoTやAIによる試験プロセスの自動化、データ収集・解析を取り入れれば、工数を掛けずとも本質的な異常検出や傾向管理が一気に進化します。

重要なのは「やみくもな制度」ではなく「真に品質を見抜く試験」へのリソース集中です。

「バイヤー」視点での信頼性試験活用術

サプライヤー側に適切な信頼性試験を要求する際、単なるスペックや報告書添付を鵜呑みにするのではなく、

・実施条件と想定ユーザー環境の整合性
・不良発生時のフィードバック体制
・長期的な部品変更管理や品質保証

など、本質に踏み込んだチェックとコミュニケーションが重要です。

また、バイヤー自身も「どの故障が致命的か」「どこでコストを掛けるべきか」現場目線で優先順位を見極め、無用な試験・無駄なコストを抑える目利き力が求められます。

アナログ的”昭和仕事”へのアンチテーゼ:「試験DX」で変わる未来

なぜアナログなままでは限界なのか

かつてはベテラン作業員の直感や「経験の引き出し」でトラブルゼロを目指した時代もありました。

しかし、複雑化・小型化が進み、市場のサイクルが激変している現代では、ヒューマンエラー・属人化リスクが致命的になります。

現場の温度感としては、「新しい仕組みに不安があり手を出せない」「DX化には費用も教育も回せない」と停滞しがちです。

この壁を超えるには、「試験データを武器にしたDX」の徹底的な推進が不可避です。

試験DX時代の効率的な実践例

・無人工程化したバーンイン・環境試験の運用
・検査装置からのビッグデータをAI解析し、異常兆候を予兆検知
・クラウドベースで顧客・サプライヤー間の品質情報をリアルタイム共有
・IoTタグを活用した輸送履歴・環境モニタリングによる物流中の品質保証

こうした取り組みが「確からしい根拠による自信ある品質」を短期間・低コストで実現し、「知見の見える化・共有化」によって属人化を克服します。

サプライヤーとバイヤー:信頼性で築く新しい価値共創

従来ならバイヤー=要求者・サプライヤー=供給者という力学でしたが、今後のサプライチェーンでは「信頼性目標」を共有するパートナーシップ型への進化が不可欠です。

単なる検査成績書のやりとりを超え、設計段階から現場で発見した課題・リスクを双方向で検証し合い、互いに適切な試験・管理手法を探る「実践知の接続」が重要となります。

問題が起きた場合も「バイヤーの視点」「サプライヤー現場の課題」の相互理解を持ち寄り、問題解決スピードや再発防止効率が飛躍的に向上します。

まとめ:信頼性と試験技術で日本のものづくりは進化する

電子部品・機器の信頼性確保は、今や設計から現場運用、サプライチェーン連携、DX活用まで多層的な取り組みが求められます。

昭和流のアナログ思考と向き合いながらも、「本質的な信頼性評価」と「効率的な試験技術活用」を推進することで、日本のものづくりは新たな次元へと進化できます。

「結果オーライ」では済まない時代だからこそ、現場の知恵と新技術の融合に挑み続けることが、私たち製造業従事者の新しい使命となるのです。

日々の試験工程、データ解析、サプライヤーとの対話…すべてに「本質」を問い続ける現場目線こそ、電子機器・部品の信頼性を守る最大の武器です。

どんな時代が来ても「安心して使えるものづくり」の精神を、現場から発信し続けましょう。

You cannot copy content of this page