投稿日:2025年9月9日

製造業が進めるべき再利用素材活用と環境負荷低減の取り組み

製造業が直面する現状と再利用素材への期待

製造業は、日本経済を支える屋台骨ともいえる重要な産業です。
しかし、近年では資源枯渇や環境負荷など、数多くの課題に直面しています。
なかでも「循環型社会」の実現や「カーボンニュートラル」への対応は急務となっています。

特に、製造現場においてはこれまで新品の原材料を大量に使い、大量生産・大量廃棄が当たり前となってきた昭和流の発想や習慣から、なかなか脱却できずにいる企業も少なくありません。
ですが、SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資の流れを受け、バイヤーや消費者からも環境配慮への目が厳しくなっています。

それに呼応する形で、再利用素材(リサイクル材やバイオ素材など)を活用し、環境負荷の低減に取り組むことは、競争力強化と社会的評価の両面で避けては通れません。

再利用素材とは何か ー リサイクル材や新素材への理解

まず、再利用素材という言葉を解像度高く捉えておきましょう。
再利用素材とは、使用済み製品や廃棄物から回収し、再加工・処理された素材や、再生可能な原料からつくられた素材を指します。

例えば、

  • 再生プラスチック:ペットボトルや廃プラを原料にした樹脂
  • リサイクルメタル:スクラップ金属を溶融し再生した鉄やアルミ、銅
  • バイオマス素材:とうもろこしやサトウキビなど生物由来の原料から生成
  • 認証木材:責任ある森林管理を経て回収・再利用された木材

これらの再利用素材は、従来のバージン素材(新品の原材料)と比べて資源の有効活用、CO2排出量の削減、有害廃棄物の減少など多くのメリットがあります。

製造業が再利用素材を積極導入するメリット

再利用素材の活用には、以下のような大きな効果が期待できます。

  • コスト削減:市況によりますが、バージン原料より安価な場合も多い
  • 環境アピール:ESG評価での加点、取引先・消費者への好感度向上
  • 安定調達:原料高騰リスクや輸入制約の対策として内製化しやすい
  • 法令・規制対応:廃棄物処理法や各種リサイクル関連法への先手策

特にサプライチェーンの川上(素材メーカー)だけでなく、川中・川下(部品メーカー、完成品メーカー、流通)の各工程での環境配慮はバイヤーからも重視されており、取引先選定の重要な基準となりつつあります。

進まぬ再利用素材活用の背景と、昭和マインドからの脱却

日本の製造業が、再利用素材に舵を切るうえでの最大の壁として現場の「変化への抵抗感」があげられます。

「新しいもの=最良」の固定観念

いまだに「新品原料こそ品質保証の源泉」とする昭和的な思考が根強い職場も多く見られます。
確かに、不純物の混入リスクや物性のバラツキが、再利用素材の最大の課題でした。

ですが、リサイクル技術の進化や厳格なトレーサビリティ管理によって、最近では自動車や電機、建材、包装材など多くの分野で「バージン品と同等水準」の品質を実現できる事例が増えています。

調達・購買、サプライヤー選定の現場での変化

調達・購買担当者やバイヤーの意識も大きく変わりつつあります。
グリーン調達基準を設けたり、「製品単位のCO2排出量データ提出」、「リサイクル材配合率の報告」など、再利用素材の利用実態やソースまで求める傾向が強まっています。

それに伴い、サプライヤー側も「再利用素材のトレーサビリティ体制を持つこと」「第三者認証取得」など、供給体制そのものの転換が迫られているのです。

現場で実践できる再利用素材活用へのロードマップ

再利用素材を導入するために、製造業の現場ではどのようなプロセスや考え方が求められるでしょうか。
ここでは、現場視点での課題と解決アプローチを段階的に整理します。

1. 再利用素材の情報収集と試験導入

まずは自社製品、部品単位で「どの素材が再利用可能か」を調査します。
サプライヤーや原材料メーカーからの情報収集だけでなく、自社目線での分析も重要です。
そして、すぐに全量切替ではなく、小ロットでのテスト導入を推奨します。
社内の品質基準や、実際の生産設備との相性も慎重に検証してください。

2. 品質管理体制の再設計

再利用素材の導入時は「いつもと異なるリスク」への備えが不可欠です。
たとえば、ごみや異物、コンタミ(混入)など現場が懸念する項目は作り込み段階から十分なFMEA(故障モード影響解析)や工程FMEAを実施し、許容できる範囲とそうでない範囲を明確に設定することが肝要です。

導入時は特に「外観・寸法・機能」の厳格な検証記録、「ロットごと追跡管理」などの運用が安心材料となります。

3. 垂直統合だけでなく、水平連携も意識する

自社内だけでなく、地域や業界横断の協働体制も考えてみましょう。
JIT(ジャストインタイム)やカンバン方式の高度化版として、リサイクル素材流通の独自プラットフォームに参加する事例も増えています。
地場企業や異分野連携による「素材バンク」の構築など、思い込みや既存商流の枠を超えた連携が、新たな競争優位を生みます。

4. 検査・証明・アピールの場を増やす

再利用素材の活用は、自社単体だけで閉じるよりも、取引先や最終ユーザーにも開示していく時代です。
製造番号やリサイクル材比率の表示、第三者機関の認証取得、環境貢献値の見える化など「黙っていては伝わらない価値の開示」を積極化しましょう。

先進事例から学ぶ:製造業の環境戦略の最前線

たとえば自動車業界では、トヨタ自動車やホンダなどがいち早く「車両解体と部品ごとのリサイクル」を標準装備してきました。
また、パナソニックやソニーなどの電機メーカーは、自社回収品からの資源再利用率を毎年数値で公開し、投資家にも説明責任を果たしています。

建材・住宅業界でも、大手ハウスメーカーが「解体材を二次利用した新建材」や「認証木材」活用を積極展開しています。
いずれも、単なる原価低減だけではなく、サプライチェーンを横断した持続可能なビジネスモデルの礎を築いています。

まとめ:バイヤー・サプライヤー全国連携で新時代を切り拓く

再利用素材の活用と環境負荷低減は、待ったなしの社会課題であると同時に、製造業の新たな成長エンジンです。
調達購買担当者(バイヤー)側は、「環境配慮」を売りだけでなくリスク管理や企業価値向上の必須条件として位置づけるべきです。
一方、サプライヤー側は「再利用素材を安定品質で供給できる体制」を磨くことが、選ばれるための重要ポイントです。

これから「もっと現場目線で」「現実に即したロードマップを」描き、垣根を越えた連携を進めることで、日本の製造業は更なる競争力と信頼を勝ち取ることができるでしょう。
「昭和の成功体験」に甘んじるのではなく、柔軟なラテラルシンキングで新たな可能性を切り拓き、ともに豊かな未来を創っていきましょう。

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