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工程改善で品質が悪化する逆転現象

目次
はじめに――工程改善がもたらす意外な結果
製造業の現場では、工程改善の推進が至上命題です。
現場の作業効率アップ、コスト削減、納期短縮、さらには従業員の負担軽減など、工程を改善することで得られるメリットは計り知れません。
しかし、実際の現場では「工程改善を進めていくうちに、逆に品質が悪化した」という苦い経験をされた方も少なくありません。
なぜ、「良かれ」と思って進めた改善で、品質という最も重要な成果が損なわれてしまうのでしょうか。
本記事では、現場目線から工程改善と品質悪化の逆転現象について解説するとともに、アナログ文化が根強い製造業界特有の課題、そして今後のあるべき改善アプローチについて、深く掘り下げていきます。
これからバイヤーを目指す方、サプライヤー企業の方にも役立つ知見となるよう執筆しました。
工程改善と品質悪化の逆転現象とは何か
工程改善=品質向上とは限らない現場のリアル
工程改善とは、製造現場の各工程を見直し、既存の問題点を解決したり、より合理的に最適化したりする活動です。
一般的には、「改善すれば品質も上がる」のが当たり前だと思われがちです。
しかし、実際には工程改善が逆に品質の低下を招くことがあります。
たとえば、
– 作業を単純化してサイクルタイムが短くなったが、熟練工以外には対応が難しい微妙な加減が省略され、不良品が増える
– 作業手順をまとめて省人化した結果、チェック機能が弱まり、工程間で欠陥の取り逃しが発生する
– 新たな自動化機器を導入したものの、現場の人が使いこなせず、設備のトラブルが頻発する
など、「改善」がむしろ品質リスクを増やす結果になることも珍しくありません。
現場に根付く“昭和的価値観”が生む隠れた落とし穴
昭和の名残ともいえる“職人芸による現場対応”や“見て盗む文化”が根付く現場では、経験やカン、熟練工の暗黙知に大きく依存しています。
このような文化の中でプロセス改善を進めると、「今まで誰かが自然にカバーしていた部分」が見落とされがちになります。
つまり、
– 標準化しきれない暗黙知
– 工程間で“黙って成り立っていた役割”
– 状態の違いを“なんとなく”補正する作業
こうした無数の現場ノウハウが、改善で“省略”されることで、気づかずに品質の“穴”が生まれるのです。
なぜ工程改善で品質が落ちるのか――原因の深掘り
1. 現場理解不足がもたらす設計ミス
工程改善は、多くの場合上位職や外部コンサル、あるいは改善担当者が主導します。
彼らは、現場データや手順書に基づく合理化案を提示することが多いですが、実際の現場で働く人が日々感じている“違和感”や“微妙な判断ポイント”までは汲みとりきれません。
結果として、「書類上では正しいが、実際はズレている」プロセス設計になることが多いのです。
2. 目先の効率追求による検査力の低下
現場改善は、どうしても“効率”や“コスト最適化”が最優先されがちです。
そのため、検査工程やダブルチェック機能を削減する、作業員一人当たりの工程数を増やす、といった施策が取られます。
しかし、その分抜け漏れや見落としが増えて、品質トラブルの“発見遅れ”や“潜在的な欠陥の見逃し”につながる恐れがあります。
3. 標準化・自動化が“イレギュラー対応”を切り捨てる
標準作業書や機械の自動運転は、一定のルールや条件下では非常に強力です。
しかし、原材料のロット差・天候・設備老朽化など“想定外要素”への対応は、依然として人の経験値が不可欠です。
自動化や標準化ばかりを優先しすぎると、こうしたイレギュラーに弱くなり、突発的な不適合品が流出することになります。
4. 改善の“成果測定の誤り”
短期的な納期短縮やコスト削減ばかりに目を奪われると、「本当は悪い影響が出ている」のに“改善効果が出ている”と誤判断しがちです。
特に、不良顕在化までのタイムラグがある場合、「実は改善前の方が長期では安定的だった」ことが後から発覚することもあります。
“昭和から抜け出せない”業界構造と進まぬDX
なぜ製造業はアナログ文化から脱却できないのか
日本の製造業、とりわけ中堅~中小企業では、
– “手作業でどうにかする”精神
– “紙の帳票=安心感”
– “設備投資は最小限”
といった昭和的な営業・運用文化が強く残っています。
その理由には、
– 独自ノウハウ(暗黙知)の流出リスクを恐れる心理
– 大規模な投資やシステム刷新に対する抵抗感
– 現状維持バイアス
などが複雑に絡み合っています。
これらの文化があるため、工程改善は「部分最適」や「現場都合のアナログ改善」になりやすく、根本的な構造改革・DX(デジタルトランスフォーメーション)にはなかなか進めないのが現状です。
サプライヤー企業の“つなぎ役”としての苦悩
下請け・サプライヤー側にとって、バイヤー企業からの工程改善要請にただ従うだけでは、社内の混乱や品質問題のリスクが高まります。
「バイヤーが求める短納期・低コスト」と「現場の品質確保」のはざまで、担当者は日々悩まされています。
自社の現場事情を理解してもらい、本質的な改善につなげるためには、“バイヤーとの信頼関係”や“データ・事実に基づく交渉力”がますます重要になっています。
工程改善と品質維持の“両立”はこうして実現する
1. 現場参加型の改善活動で“暗黙知”を可視化する
机上の合理化案やトップダウンの指示だけでなく、現場リーダーやベテラン作業者の意見を取り入れた改善活動が不可欠です。
“なぜこの工程が必要なのか”“どんな小さな違和感があるか”を徹底的に掘り下げ、会話・ヒアリングを通じて「見えないノウハウ」の言語化・形式知化を進めましょう。
これによって、隠れた“品質リスク”を炙り出し、改善の観点を単なる効率化だけでなく、本質的な現場力アップへと高めることができます。
2. “リバースエンジニアリング的”アプローチの活用
あえて“不良品”や“過去に起きたトラブル”の経緯を逆から分析する手法も有効です。
「なぜこの工程が後から追加されたのか」
「当時、どんな失敗が“教訓”となって今の方法が成り立っているのか」
こうした視点から、現状工程を細かく分解し、“省いてはいけないプロセス”を正確に見極めることが肝要です。
3. IT・デジタルの部分導入で“現場密着型DX”を推進する
大規模なシステム一斉導入ばかりがDXではありません。
– 検査工程だけe-チェックリストでデータ化
– 現場の帳票をデジカメで画像保存しすぐに共有
– シンプルなセンサやIoTで“見える化”を一つずつ内製
など、「今ある技術で現場の声を反映させる」スモールスタートの部分DXが、アナログ文化からの“脱皮”には有効です。
4. 品質評価指標の多角化と“現場評価軸”の再確立
工程改善時には、従来の生産指標(歩留まり・サイクルタイムなど)だけでなく、
– 不良率の推移
– トラブル発生までのタイムラグ
– クレーム件数・対応工数
といった“品質マネジメント指標”も多面的にモニタリングすることが重要です。
短期の経費削減よりも「ロングレンジで見た品質安定性や現場力育成」に着目し、改善効果を見極める評価軸を定めましょう。
サプライヤー・バイヤーそれぞれが知るべき“あるべき改善文化”
バイヤーの立場で意識すべきこと
発注側としては、サプライヤーへ一方的に効率化やコストダウンを押し付けるのでなく、
– なぜ今の工程がこうなっているのか質問し、現場のリアリティに耳を傾ける
– “現場リスク”やトラブルの芽に一緒に向き合う姿勢を見せる
– 改善要請時には段階的な検証や、充分なサポート/トライアル期間を設ける
ことが、サプライヤーとの信頼関係構築と品質確保へつながります。
サプライヤーの立場で意識すべきこと
下請けとしては、
– 工程ごとの“省いてはいけない理由”や“現場ノウハウ”を書面やデータできちんと説明する
– バイヤーへ「この改善案にはこういうリスクがある」と事前にエビデンスを示して提案する
– 社内改善で失われた“品質制御力”にすぐ気づくモニタリング体制を作る
ことが大切です。
こうした“対等な改善パートナーシップ”が、結果的に品質トラブルによる相互不信やロスを減らします。
まとめ――“ラテラルシンキング”で現場改善の新たな地平を切り開く
工程改善は、単なる効率化やコストダウンに終始すると、思わぬ品質低下というブーメランを招く恐れがあります。
特に、アナログ文化や“昭和的現場力”が強い日本の製造業界では、暗黙知や現場ノウハウまで考慮した「多角的な工程再設計」「現場起点のDX」「バイヤー-サプライヤーパートナーシップ」が不可欠です。
ラテラルシンキング――水平思考の発想を持ち、今ある枠組みや常識を一度疑い、本質的な現場力×最新技術×真のパートナーシップで、“工程改善=品質向上”を本当に実現できる組織運営を目指しましょう。
製造業界が日本社会の根幹を担う存在であり続けるために、現場と課題を深く知る皆さんが、これからの変革の旗手となることを願っています。
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