投稿日:2025年6月10日

リスクベースバリデーションの基礎と洗浄法の選択・有効性およびリスク管理

リスクベースバリデーションとは何か

リスクベースバリデーションは、製造業において近年ますます重視されている品質管理・プロセス改善の考え方です。

従来の「全てを一律に検証する」方式から、潜在的リスクの高低に応じて重点を置く方法へとシフトしています。

この手法は特に、製薬や食品、化学などの高い安全性・品質が求められる業界のみならず、自動車や電機といった幅広い製造業務でも活用されています。

製造プロセスや製品の全工程を洗い出し、その中で、どの部分で「不良品やトラブル」が発生するリスクが高いかを評価し、有効なバリデーション(妥当性確認)を実施します。

根底には、「リスクを可視化してマネジメントする」という現場改善に欠かせない思想が存在しています。

なぜ今、リスクベースバリデーションが求められるのか

現代の製造業はグローバル化が進み、部品や原材料のサプライチェーンが複雑化しています。

また、顧客要求や法規制も多様化し、不良やトラブルが発生した際の影響範囲も大きくなりました。

このような背景から、「リスクを適切に管理し、再発防止につなげる」アプローチが強く求められています。

さらに、昭和時代から伝統的に続くアナログな現場でありがちな「経験と勘」に頼り切る体質から、「科学的・論理的に根拠をもってリスク対応する」体制への転換も、不可避の流れとなっています。

洗浄バリデーションとリスク管理の関係性

製造現場において特に高度なバリデーションが必要なのが「洗浄工程」です。

洗浄バリデーションとは、製造設備や部品が前工程の残留物(原材料、薬品、微生物など)による製品汚染リスクを適切に低減できているかどうかを科学的な根拠で証明することを指します。

例えば、製薬工場なら異なる薬品の交叉汚染、自動車用部品であれば切削油や研磨剤の残留などが大問題となります。

ここにリスクベースの考え方を導入することで、単にすべての洗浄工程や部位を同じ頻度・検証方法で管理するのではなく、「影響の大きい部分(クリティカルポイント)」に集中してバリデーションを実施し、効果的で効率的なリスク低減につなげることができます。

洗浄バリデーションの具体的な手順

一般的に洗浄バリデーションは、以下のような流れで進められます。

1. 汚染リスクの評価・特定(どこがリスク高いか?)
2. 洗浄方法の選定(化学的、物理的、組み合わせなど)
3. 許容限界値の設定(どこまで残留してよいかの基準策定)
4. サンプリングおよび分析手法の選定
5. 実バリデーションと評価
6. 定期的な見直し(再評価)

これらのステップを「リスクが高い箇所ほど厳格に」適用することで、限られたリソースで最大限のリスク低減が可能です。

洗浄法の選択基準と有効性確保

洗浄方法の選択は、「何をどれだけ、どのように除去したいか」によって決まります。

化学的手法(洗剤や溶剤を用いた洗浄)、物理的手法(ブラスト洗浄、高圧洗浄、超音波洗浄など)、そしてこれらの組み合わせが主流です。

現場目線で重要なのは、「現実的に運用できるか」「再現性・標準化が担保できるか」という観点です。

たとえば化学薬品を使った洗浄では人手や温度管理が必要となりますし、装置洗浄の場合は洗剤残りのリスク・エネルギー消費も考慮する必要があります。

洗浄の有効性は、最終工程での「残留物質の測定・分析」により担保されます。

製造業では管理値(基準)を明確に定め、その達成状態を定期的に検証するループを回すことが重要です。

代表的な洗浄法とその特性

– 超音波洗浄:金属部品の油・微細粉じん除去に有効。再現性が高い。
– 高圧水洗浄:頑固な固着物に強力。大きな部品、複雑構造品向け。
– 化学洗浄:強い洗浄効果だが、設備対応や廃液管理が課題。
– 手洗浄:細かな部分や少量品に柔軟対応できる一方、人のスキル依存度が高い。

現場では、それぞれの長所・短所を把握し、対象部品や工程に合わせて最適な方法を選択しなければなりません。

バイヤーとサプライヤー視点:リスクベースバリデーションの重要性

ここで、調達現場のバイヤーやサプライヤー立場からもリスクベースバリデーションへの理解を深めておくことが不可欠です。

バイヤーは「サプライヤーの洗浄工程が妥当で、リスク管理されているか?」を問う責任者でもあります。

もし洗浄バリデーションが甘いサプライヤーから部品や材料を調達すれば、不具合リスクが自社製品へ伝搬しかねません。

サプライヤー側も、「ここまでリスク評価した工程管理をしています」と根拠をもって説明できれば、顧客の信頼獲得と安定受注に直結します。

現場では、バイヤーとサプライヤーの信頼関係がより厳しく問われる時代に突入しているのです。

バイヤーが見抜くべきポイント

– 洗浄工程やバリデーションのドキュメント化レベル
– 残留物許容値の妥当性(国際基準有無、実績数値根拠)
– 設備・工法の最新性やメンテナンス記録
– 問い合わせ等への技術部門の即応・説明力

昭和時代的な「長年やってきたから大丈夫」的な説明ではもはや通用しません。

客観データに伴い、高度なリスク管理能力が求められています。

デジタル時代の洗浄管理・リスクベースバリデーションの進化

近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)化が製造現場にも急速に浸透しています。

洗浄工程においても、IOTセンサや画像認識AIなどの技術を用いて「リアルタイムで工程データを収集⇒分析⇒改善」に活用する事例が増えています。

例えば残留物分析装置の自動記録、設備トレーサビリティなどは、バリデーションの客観的根拠としても大いに有効です。

また、サプライヤーの工程管理状況をクラウド越しで可視化し、バイヤーとリアルタイムで情報共有・リスク合意を図ることも可能となっています。

アナログ体質からの脱却と、より強いリスクベース管理の両立が進むことで、サプライチェーン全体の質が高まります。

現場実践のポイントと陥りやすい落とし穴

経験豊富な現場長や管理者目線で重要なことは、「現場に根付く運用習慣としてバリデーション・リスク管理を定着させること」です。

形式的に書類を整えるだけでは形骸化し、真の品質向上にはつながりません。

日常の5S活動や標準作業の教育・OJTの中で、洗浄工程の意味・クリティカルポイントの理解・異常時対応などを着実に浸透させることが、品質文化の地盤となります。

一方、「リスク評価ばかりに重きを置きすぎて現場運用の柔軟性が失われる」「理屈倒れで実用性に乏しい」などの落とし穴も存在します。

管理職・現場担当が密に連携し、それぞれの立場で知恵を出し合う ― これが製造現場の底力を引き出すカギです。

まとめ:変わる製造業に、現場主体のリスクベースバリデーションを

リスクベースバリデーションは、洗浄工程だけでなく、製造業全てのプロセス改善・マネジメントの根幹となる考え方です。

古いアナログ体質から一歩抜け出し、現場・バイヤー・サプライヤーがそれぞれの立場でリスクを見つめ直し、科学的根拠と実践力を融合させる時代が到来しています。

本記事で解説した考え方や具体的な方法論が、日々製造現場に立つ皆さんのヒントとなり、業界全体の品質向上・信頼構築に寄与すれば幸いです。

今こそ、一人ひとりが「変化を恐れず、現場からリスクベースバリデーションを進化させる」―そんな一歩を踏み出しましょう。

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