改正航空法に対応したドローンの安全性対策とビジネスへの応用

はじめに：製造業とドローン活用の現在地

近年、ドローンは空撮や農業分野のみならず、製造業を含めた幅広い分野でその用途が拡大しています。

現場の効率化や省人化、さらには高精度なデータ取得による品質管理向上など、ドローンを活用するメリットは枚挙にいとまがありません。

しかし、その一方で、急速な技術進化に法規制が追いつかないという課題も浮き彫りになっています。

特に2022年に施行された改正航空法は、ドローンの運用ルールを大きく変え、現場に新たな対応を迫っていると言えるでしょう。

本記事では、改正航空法の概要から、製造業ならではのドローン活用の実践例、安全性対策、さらにはアナログ時代の業界特有の壁や今後のビジネスチャンスまで、現場のリアルな視点を交えながら考察します。

これからバイヤーやサプライヤーとして製造業に関わる方にとっても、現場で何が起きているのか、バイヤーがどんなポイントを重視しているのか理解できる内容を目指しています。

改正航空法のポイントと現場へのインパクト

登録制度の義務化が現場文化を変える

2022年6月、改正航空法が施行されました。

この法改正での最も顕著なポイントは「100g以上のドローン機体の登録義務化」と「飛行ルールの厳格化」でしょう。

製造現場でドローンを利用する場合、「誰が」「どの機体で」「どこを」「どのように」飛ばすか―全てを明確に管理する必要が生まれます。

従来、現場主導・口約束で運用されていた手順や、昭和時代から続く“なんとなく運用”のグレーゾーンは、明文化と記録が必須に。

これにより、管理責任の所在が明確化し、安全意識が格段に向上しています。

一方で、現場担当者からは「手続きや社内書類が増えて負担が大きい」「現場の裁量が減りスピード感が損なわれた」といった声も聞こえます。

バイヤーや新規参入者は「法令遵守」「標準化された運用プロセス」が取引先選定の最重要項目となりつつあり、これらを疎かにすると即座に競争力を失う時代に入りました。

DID地区・夜間飛行など、新旧産業立地のギャップ

改正航空法では、市街地（DID地区）、目視外飛行、夜間飛行といった高リスク環境下での運用に対し、国の許可・承認が必要になります。

製造業の工場は、都市近郊（＝DID地区）と地方郊外の大きく二種類に分かれます。

とくに都市近郊の古い工場では、新しい運用ルールが「これまでの経験則でのドローン導入」を大きく制限してしまう場面も珍しくありません。

昭和型体質の工場では「この程度なら問題ない」「隣近所との付き合いで片付けてきた」ことが通用しなくなり、認証や書類作成、そのための社内教育が急務となっています。

一方で、地方の最新鋭工場では、デジタル化推進や産業用ドローン専門オペレーターの育成などを積極的に進めやすく、デジタルトランスフォーメーションの“産業格差”が顕著になってきました。

バイヤーは、納入先のこうした“現場対応能力と法令順守水準”も含めて評価する動きが加速しています。

製造業で役立つドローン安全性対策：現場実践のポイント

リスクアセスメントと作業標準化

製造業現場でドローンを活用するうえで最重要となるのが“リスクアセスメント”です。

航空法対応だけでなく、工場内の限定空間、複雑な配管や天井クレーン、無線設備など、屋内ならではのリスクにも目配りが欠かせません。

現場では、昭和的な「ベテラン担当者頼み」の勘や経験だけでは十分な安全性を担保できません。

そこで、利用目的ごとに以下のような手順を“作業標準書”として明文化することが有効です。

• 事前点検（バッテリー・プロペラ・無線機器・周辺環境）
• フライト前安全ミーティングの実施・記録
• フライト計画書作成（飛行高度・経路・目的・操縦者・緊急時連絡先含む）
• 操縦担当者・監督者・立哨員分担の明確化
• 操縦技能・法令知識の社内資格化

これらを“面倒ごと”と考えず、「オペレーションコストよりも事故リスク軽減」「現場の安全文化醸成」という視点で根付かせる組織風土づくりが求められます。

サイバーセキュリティにも油断禁物

IoTやスマートファクトリー化に伴い、ドローン自体にも通信脆弱性や情報漏えいのリスクがあります。

特に工場は“外部に漏れたら致命的な知財・ノウハウ”が多数存在するため、運用現場では以下の対策が急務です。

• 認証プロトコル導入（操縦者IDの厳格管理）
• 通信の暗号化(工場Wi-FiやLTE利用時のVPN化)
• 撮影データ・解析データのアクセス権管理
• サプライヤーのセキュリティレベルの確認・契約条件明記

こうした対策が不十分な企業・工場は、バイヤー目線でも「サプライチェーンリスク」として忌避される傾向が増しています。

安全文化の底上げ：習熟度に応じた運用ガイドライン

現場では“操縦技能・経験の差”がトラブル要因となる場面も多く見られます。

そのため、メーカーやバイヤーは「習熟度に応じたドローン運用ガイドライン」の策定と、段階的な教育プログラム導入で対処しています。

例えば、

• 初級（簡易点検・目視内飛行のみ）
• 中級（工事撮影・障害検知ミッション対応可能）
• 上級（目視外飛行・自動運用・問題対応責任者）

といった社内等級制を設け、技能認定マーク・腕章の交付を徹底することで、組織的に“事故ゼロ”を目指しているのです。

ドローンのビジネス応用：製造業の最前線事例

設備保全・点検分野でのインパクト

老朽化が進む工場施設の点検や、大型設備（煙突・配管・タンク等）の高所・狭所点検は、従来、人的リスクの高い作業とされてきました。

ドローンはこれらの点検作業を“無人・非接触”で実施可能とし、人身事故や墜落事故リスクを劇的に低減しています。

また、赤外線カメラ搭載型による設備異常箇所の可視化で、異常兆候の“早期発見・予防保全”を実現。

メンテナンス作業の計画化やダウンタイム最小化につながる点は、現場の生産性向上にも大きく寄与しています。

在庫管理・物流効率化：進化するスマートファクトリー

広大な資材倉庫・部品ヤードにおいては、天井走行ドローンや自動巡回型ドローンが、棚卸し作業や在庫監視を担う事例が増えています。

バーコード・RFID連携による“ピッキング精度向上”、さらにはAGVやロボットアームとのデータ連携による“完全自動化物流”への布石となっています。

特に人手不足に悩む地方工場では、省力化投資の筆頭アイテムとなっているのが現状です。

品質管理シーンでのデータ活用

ドローン由来の映像や点群データは、AIやビッグデータ解析と連携することで、「見逃し」「人的ムラ」「属人化」が多発していた品質管理の場面を根本から変革します。

高品質な記録・分析により、検査結果のエビデンス化・トレーサビリティ強化も容易になり、バイヤーや取引先からの信頼獲得にも直結しています。

昭和型アナログ文化からの脱却：現場の壁と成長戦略

“責任の明確化”が与える心理的インパクト

過去の現場では、難しい判断や新技術導入の失敗を“みんなで黙ってカバー”するという“なあなあ文化”が支配的でした。

しかし、航空法対応やデジタル化が進むなか、
「誰が」「何を」「どこまで」責任を持つべきかが厳密に求められるようになり、心理的なプレッシャーや反発も生まれています。

新しい価値観を現場に浸透させるためには、単なるルール強化ではなく、“仕事の意味・価値の再定義”が不可欠です。

管理職やリーダーが「サステナブルな現場作り」「自分たちの成長のため」という前向きなメッセージを発信し続けること。

昭和型人間も納得する形で、現代的ルールと誇りある職人文化を融合させていく柔軟性が求められています。

ITベンダー・サプライヤーとの新しい関係構築

製造業バイヤーは、いまだに「値段重視」「実績重視」「付き合い重視」の伝統型購買を行う事例も少なくありません。

しかしこれからは、

• 技術力だけでなく「コンプライアンス遵守体制」
• ドローン安全管理のノウハウやサイバーリスク対応力
• 生産性向上や現場力強化のための本質的な提案力

といった点も併せて評価されるのが“当たり前”になっていきます。

サプライヤー側も「業界慣習に従うのではなく、自ら標準化・運用プロセス提案を行う」といった攻めの姿勢が必要です。

“昭和のやり方”で満足するのではなく、“現場力と法令順守水準の両立”に挑戦できるパートナーがあらゆるバリューチェーンで求められています。

人材育成と多能工化：新時代の工場力

ドローンオペレーターは単なるリモコン操縦者ではありません。

安全・コンプライアンス力、ITリテラシー、現場改善のマインドなど、多方面での素養が求められる新しい専門職です。

現場では「ドローン担当者＝若手の単純作業」と捉えず、“多能工化”や“職務ローテーション”を組み合わせて人材育成を進める動きを加速させましょう。

目指すべきは、最新技術と古き良き現場力の融合です。

まとめ：法規制対応は未来創造への第一歩

ドローンを取り巻く法規制強化は「管理が厳しくなって面倒」「導入コストが上がるのでは」といった後ろ向きの捉え方をされがちです。

しかし、現場力が強い製造業にとって、ルールや技術のトレンドを“いち早くキャッチアップし、安全な運用を地道に積み上げる”ことこそ、他社との差別化要因となります。

昭和からの慣習やアナログ文化を尊重しつつ、時代の変化に前向きに適応できる現場を作ること。

これが、令和時代の製造業バイヤー・サプライヤーにとっての核心的テーマです。

ドローン活用は、単なる効率化やコスト削減を超え、“安全文化と現場イノベーションの象徴”として、これからの製造業を変えていく力を持っています。

法規制という外圧を「組織変革と現場力強化の起爆剤」と位置づけ、自信を持って新しい挑戦を前進させていきましょう。