投稿日:2025年9月25日

Yesマン体質が市場での信頼を損なうリスク

はじめに ― 製造業における「Yesマン体質」の蔓延

製造業の現場には「昭和」の時代から根強く残る文化や体質があります。

その一つが「Yesマン体質」です。

これは、上司や得意先からの要望や指示に対して、とにかく「はい」と即答し、物事を円滑に進めようとする姿勢を指します。

一見、協調性や柔軟性、顧客第一のように見えますが、実際には深刻なリスクが潜んでいるのです。

本記事では、製造業におけるYesマン体質の実態と、その体質がバイヤー・サプライヤー間の信頼関係や市場競争力にどのような影響を及ぼすのかを現場目線で掘り下げ、今後のあり方を提言します。

Yesマン体質が生まれる背景

製造業の「現場主義」と過度な忖度

製造業の現場は「現場主義」が強く、現場の和や空気感を乱さずに進めることが最優先とされがちです。

「自分の意見は控えめに」「長年の経験者の指示に逆らわない」といったムードがあり、勤続年数や慣習、暗黙の了解を重視する土壌がYesマン体質を助長します。

また、発注側バイヤーに対しては「とにかく言われた納期で仕上げよう」「追加要望は断らない」など無理を押し通す傾向も見受けられます。

成果主義や評価制度の誤解

多くの企業で「成果主義」や「目標管理制度」が導入されていますが、現場ではしばしば「とにかくノーミスで納品すること」「問題を表に出さないこと」が成果だと誤認されがちです。

これが、リスクや課題が顕在化するのを避け、“とりあえずYes”という流れに拍車をかけます。

アナログ業界に根付いた変化への抵抗感

デジタル化や自動化が求められる中でも、帳票や電話、FAXによるやりとり、口頭での確認など、アナログな商習慣が色濃く残っています。

こうした慣行を守ることそのものが「信頼」であり、要望に従順に沿うことが「よい仕事」という認識がはいまだに根強いのです。

Yesマン体質がもたらすリスク

①課題やトラブルの先送り、隠蔽

「はい」と表面上だけ答えてしまうことで、現場の本音や困難、リスクが報告・共有されず、問題が表面化するのを遅らせてしまうケースが多くあります。

例えば、納期や品質、コストに無理が生じているのに「できます」と答えてしまい、結果として納品直前で手戻りが発生、多大なコストロスが発生する事例もめずらしくありません。

②サプライヤーの「黒子化」と技術力の低下

日本の製造業サプライヤーは世界的に高い技術力を誇っていますが、「言われたことだけやる」下請型体質から脱却できないままでいると、提案力や技術革新力が育ちません。

これによって、市場での競争優位性が失われるだけでなく、依頼元バイヤーからの選定理由も「安いから」「言うことを聞くから」だけになってしまい、より付加価値の高いビジネスチャンスを失いかねません。

③信頼損失と“場当たり的な依頼対応”の悪循環

最初は「よく言うことを聞く会社」という印象で評価されたとしても、その場しのぎの対応が続けば、やがてトラブルの元となり、「本当のところ、任せて大丈夫だろうか」「リスクが隠れていないか」と疑念を持たれてしまいます。

一度信頼を失えば、発注数の減少やサプライヤーの入れ替えにつながるリスクは大いにあります。

現場から見たYesマン体質是正の必要性

現場で働く“プロ”としての自覚

本当に信頼されるサプライヤー、市場で評価される企業とは「単なるYesマン」ではありません。

本音や現場の事実をもとに「できること」と「できないこと」、「もっと良くできること」をしっかり伝える力が求められています。

バイヤーもプロであり、無茶な要望全てを受け入れて実現することだけが評価軸ではありません。

むしろ「この条件ではリスクが高い」「こうした工夫でコストを抑えられる」といった、課題解決や付加価値を提案できるサプライヤーをパートナーとして選びたいと考えています。

トラブル時にこそ、真価が問われる

現場で品質トラブルや納期遅延が起きた時、単なる「すみません」や「やっておきます」では信頼は回復できません。

「なぜ起きたのか」「どうすれば再発しないか」「本来の約束を守るために何ができるか」を共有し、誠実に説明・報告できる体制こそが、中長期的な信頼とパートナーシップの礎になります。

「できません」と言う勇気と、その先の対案提示

無理難題を「できません」と言うことは勇気が要りますが、それは「リスク管理力」の裏返しでもあります。

「このスケジュールでは危険です」「こうすれば対応できます」と明確に伝え、代替案を示すこと。

これが、プロとしての矜持であり、結果として受注側・発注側双方にメリットをもたらすのです。

バイヤーの視点――なぜ“逆らわない会社”は脱落するのか

グローバル調達とバイヤーの本音

バイヤーは価格や納期だけでなく、「安定供給できること」「サプライチェーンのリスクを最小限に抑えること」「現場の意見を吸い上げて改善できること」を重要視しています。

Yesマン体質では、いざという時のリスク情報や改善提案が得られないため、かえって不安要素になってしまいます。

今やグローバル調達が当たり前ですが、海外の競合企業はリスクもきちんと主張し、改善案を明示したうえで「必ずやり切る」姿勢を見せるため、日本のYesマン企業が選ばれなくなる場面が増えています。

提案型サプライヤーが評価される時代

「御社の図面通り作りました」ではなく、「こうしたらコストダウンできます」「新素材提案で、軽量化できます」といった攻めの提案が求められています。

実際に、筆者が携わった自動車部品の調達現場では、提案型サプライヤーと従来型サプライヤーの間でコスト・品質・納期だけでなく“パートナーシップの質”でも大きな差が生まれています。

選ばれるのは「指示待ち」ではなく「提案型・問題解決型」です。

サプライヤーの立ち位置 ― “No”を価値に変えるために

コミュニケーションの質を高める

サプライヤー側が「No」と伝える際は、バイヤー側にとっても安心できるだけの理由やデータ、過去事例をもとに根拠ある説明が不可欠です。

単なる「できません」ではなく、「これこれこういう理由で無理だが、こうすれば可能」と根拠+提案をセットで伝える力を磨きましょう。

現場力と組織力を活かした“チームでの解決力”

Yesマン気質が強い企業でも、個々の現場作業者や技術者は高い知見を持っています。

その持ち味を活かすためには、現場からの意見吸収や情報共有、アイディア創出の仕組み、組織ぐるみの課題抽出プロセスが不可欠です。

一人ひとりの「何とかしたい」という思いを、組織的に表現できる文化を育てることが、市場との信頼関係の礎となります。

アナログ業界の「脱・Yesマン」へ向けての具体策

①現場発信の改善提案・アイディアを評価する仕組み

現場改善の「提案価値」を経営評価やメンバーの昇格要素に明記するなど、単純な“言われたことをやる”よりも自発的なアイディアを評価しましょう。

製造現場の意見が活きる制度設計が、組織文化の転換点となります。

②新規バイヤーとの定例レビュー・フィードバック体制構築

自社サプライヤーと調達バイヤーが定期的にレビューを行い、「リスク情報の共有」や「改善アイディアの持ち込み」をルール化しましょう。

現場からバイヤーに現状と課題を直接伝える機会を意識的に作ることで、無意識の「Yesマン」化を防ぐことができます。

③現場リーダー・工場長の問いかけ力・質問力の強化

「本当にそれで大丈夫?」「他にもっと良い手はない?」など、現場リーダーや管理職自身が課題発見型の問いを繰り返すことで、現場の思考習慣が変わっていきます。

「言われたことをやる」から「より良い方法は何か」を探るカルチャー作りが成否の分かれ目です。

まとめ ― 製造業の発展に欠かせない「信頼されるパートナー像」

今もなお、アナログ業界を主戦場とする製造業には「人の和」や「空気を読む」「Yesで応える」といった価値観が根強く残っています。

しかし、変化の激しい市場環境、グローバル化、デジタル化の波を乗りこなすためには、“Yesで応える”だけでは競争力も信頼も持続できません。

求められるのは、現場の事実を伝え、リスク情報を迅速に共有し、できない時には正直に「No」と表現しつつも、そのまま終わらせず「こうすればできる」と建設的な提案・代案を示す力です。

サプライヤーもバイヤーも、相互にプロとして誇りを持ち、ともに市場競争を勝ち抜く「信頼されるパートナー」像を目指すべきです。

脱・Yesマン。

それこそが、新しい製造業の成長戦略であり、現場で働くすべての方の持ち味や専門性が真に発揮される未来への第一歩となります。

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