投稿日:2025年7月14日

転がり軸受構成寿命予測トラブル対策すべり軸受原理特性計算法最適設計事例

製造現場で不可欠な「軸受」基礎と現場課題

ものづくりの現場に身を置く私たちにとって、軸受(ベアリング)の存在は切っても切り離せません。
特に、大型の生産設備、自動化機器、高速回転体など、あらゆる回転運動に欠かせない要素が軸受です。

一見シンプルに思われがちな軸受構造ですが、「転がり軸受」「すべり軸受」に代表される二大方式それぞれに独自の原理や特性があり、その選定・設計・トラブル対策は現代製造業の永遠の課題です。
今回は昭和から現代に至るまで工場現場で抜け出せないアナログ的課題や、最新の動向まで現場目線で解説します。

転がり軸受とすべり軸受:原理と特徴の違い

転がり軸受は「玉やころ(ボールやローラー)」を用いて摩擦抵抗を低減し、軸の回転運動をスムーズにします。
一方、すべり軸受は接触面の油膜や材料そのものの性質を利用して滑らかな回転を実現します。

転がり軸受の仕組み・メリット

転がり軸受は内輪・外輪・保持器・転動体(ボールまたはローラー)で構成されます。
長所として、摩擦抵抗が小さく、潤滑管理が容易で、取扱いがシンプルな点があげられます。
特に標準化された寸法体系・選定カタログが全世界で流通しており、設計・保守・交換が迅速です。

一方で、「設計寿命が有限」であり、荷重や回転数が設計値を逸脱すると急激に損傷が進むリスクがあります。

すべり軸受の仕組み・メリット

すべり軸受は軸と軸受面の間に流体(油やグリースなど)の薄膜を作り、この油膜による“すべり”で回転運動を助けます。
摩耗部分のメタル材質の最適化や、油圧・水フィルムを使ったハイブリッドな運用も近年では増えています。

利点は「高荷重」「低回転」「振動吸収性」に優れ、低騒音や長寿命を実現可能なところです。
ただし、油膜形成が不十分な状態では焼付きなどの重大トラブルを起こしやすく、設計とメンテナンス技術が深く問われる軸受方式でもあります。

転がり軸受の寿命予測と現場トラブル対策

昭和の時代から「軸受の寿命=経験値」として語られることも少なくありませんでしたが、現在は定量的な寿命予測技術が発達しています。
一方で、実際の現場では“理論値通り”にいかないメカニズムがトラブル原因になることもよくあります。

基本定格寿命計算と補正ファクター

転がり軸受の寿命計算は、JISやISOで定められた「基本定格寿命L10」を適用するのが標準です。
L10は「全数のうち90%が問題なく回り続けられる理論的な回転数または期間」(百万回転数や運転時間)で定義されます。

寿命予測式は、
L10 = (基本定格荷重C/実荷重P)^3 × 10^6(回転数換算)

ただし、現場で軸受が本来の性能を発揮できない主な要因は、「荷重分布のムラ」「衝撃応力」「異物混入」「温度上昇」「潤滑不良」など、設計図面やカタログ上の想定を直接裏切る環境です。
最近では、ISO 281に準じ「信頼度補正係数a1」「使用条件補正係数a2」などの導入が進み、寿命計算の現実味が高まっています。

現場で多い転がり軸受トラブルと初期対応策

軸受トラブルの60%以上が“潤滑不良”と“異物混入”が占めると言われています。
グリース切れ、オイル劣化、塵埃や切粉の混入、組立不良によるかじりや圧入過多も深刻な事例です。

現場でまずすべきは、
・異音(ゴロゴロ音、キーキー音)や発熱(温度の異常上昇)の兆候点検
・回転抵抗や遊びの変化を軸方向・径方向で診断
・外観目視による塗油状態や傷・焼き色確認
・定期的なグリース給脂と、過給脂・不足給脂の是正

このようなシンプルなチェックが、実は大きな事故を未然に防ぎます。

すべり軸受の原理、設計計算、最適事例

すべり軸受は、設計荷重や回転数に応じて「油膜厚さ」をいかに確保するかが寿命の鍵を握ります。

すべり軸受の動作原理と設計ポイント

基本原理は、“軸”と“軸受”の間に圧力を持つ油膜(または流体膜)を形成し、金属接触を避けることで摩耗・焼付き・発熱を抑えることです。
そのために「軸径」「すきま」「油粘度」「回転数」「荷重」の最適バランスが必要です。

ジェンキンス・レイノルズの式を基に、
最適な油膜厚さh:h = (粘度η × 速度U) / 圧力P
(ここでηは油の粘度、Uは相対速度、Pは荷重あたりの面圧)

設計上はさらに、
・メタル材質の選択(青銅・バビット・PTFEなど)
・潤滑油種類と供給条件
・取り合い構造の幾何学的最適化(油溝・給油穴の配置など)

が重要となります。

すべり軸受のトラブル事例と防止策

主なトラブルは、焼付き・剥離・摩耗・かじりが代表的です。
油膜切れを起こしやすい「始動・停止時」「高温」「負荷急変」時は特に注意を要します。

有効な対策は、
・油圧式循環給油の採用や油温管理
・適切な材質選定や軸表面ラッピング
・回転体のバランス調整
・予知保全のための温度・振動センサー活用

などが現場で成果を上げています。

すべり軸受の最適設計事例

某化学プラントの大型攪拌機で、「従来の転がり軸受からすべり軸受への変更」で2年で4回あった交換工事が5年無故障に伸びた例があります。
設計変更のポイントは、軸受メタル材を耐食性の高い合金にアップグレードし、油圧式強制循環給油に変更した点でした。
この事例では、持続的な油膜形成と潤滑管理で大幅な寿命向上を実現できました。

最新の軸受技術と業界動向

デジタル化・IoT・自動化が進む近年、軸受も「状態監視」と「故障予知」が加速度的に進化しています。

スマート軸受と予知保全の最前線

センサー内蔵型の「スマートベアリング」が開発され、振動・温度・荷重・グリース残量の“常時モニタリング”が現実になりつつあります。
AIによる異常兆候の事前検知、予知保全型保守プログラムの普及で、計画外ダウンタイムを最小化する「失敗しない製造業」が実現の時代に突入しました。

昭和的慣習からの脱却とこれからの人材像

依然として「現場作業者の経験と勘頼み」「その場しのぎの応急対応」が根強く残るのが製造業の現実ですが、
これからは現場の声とデータベース化、設計・メンテナンス技術者、バイヤー・サプライヤーの三位一体での真の価値創出が欠かせません。

軸受一つで生産性も品質も大きく変わります。
最新技術を活用する一方で、アナログ現場の知恵に立脚した着実な運用こそが、自社の競争力・信頼性につながるのです。

バイヤー・サプライヤーのための“使える軸受知識”まとめ

バイヤーは、軸受の「スペックだけでなく現場実績」「交換コストやメンテ性」「トラブル時の対応力」にこだわりましょう。
サプライヤーは、現場の使われ方や保全体制、現行設備の課題分析も積極的に提案に盛り込む姿勢が信頼につながります。

軸受の最適設計・状態監視・設置環境適応、そして現場起点のモノづくりができるメーカーが、これからの市場で勝ち残ります。

これらの知識と実践例を通じて、製造現場における“本当に使える軸受選定・運用の新地平”をぜひ拓いてください。

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