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シール技術の基礎と効果的な漏れ防止およびトラブル対策

目次
はじめに 〜製造業に不可欠なシール技術〜
シール技術は、製造業とりわけ機械や装置、配管、各種機器の安全稼働を支えるインビジブルな存在です。
漏れは小さな隙間から発生しますが、その影響は甚大で、人的・物的損害や品質低下、環境汚染にもつながりかねません。
私が20年以上現場で携わってきた経験から言えるのは、「シール」という一見地味な技術こそが、製造現場の安定運用や信頼性の根幹を担っているという事実です。
この記事では、アナログが根強く残る製造現場のリアルと、令和時代の最新動向を交えて、「シール技術の基礎」から「効果的な漏れ防止策」、そして「具体的なトラブル対策」までを徹底解説します。
シール技術の基礎知識 〜なぜ漏れを防ぐことが重要なのか〜
シールとは?基本の種類と役割
「シール」とは、機械的部品の隙間をふさぎ、液体や気体などの流体(メディア)が漏れ出すのを防ぐ部品・材料や技術全般の総称です。
英語の「seal(封印・密封)」のとおり、密閉や封止の役割を果たします。
主な種類は以下の通りです。
- ガスケット(静的シール):配管やフランジなど静止した接合部の密封に用いる
- パッキン:回転軸やピストンなどの可動部など、動的な接合部に適用
- メカニカルシール:ポンプ・ブロワなど回転機械の軸封部に利用
- Oリング・Vリング:回転・往復動部分の密封の定番
- リップシール:主に回転軸用の油漏れ防止
現場で「漏れ」を甘く見るな
昭和時代、特にアナログ全盛期は、多少の“にじみ”や“滴下”を許容する古い慣習もありました。
しかし今や漏れは即品質不良・環境事故・顧客クレームに直結します。
漏れによるリスクは多岐にわたります。
- 有害・危険物質の漏洩(法規制や環境法違反リスク)
- 機械の早期損傷や焼き付き、摩耗進行
- 生産不良や異物混入、品質トラブル
- 工場の清掃・保全負担増大
現場では「見えない漏れ」も深刻です。
たとえば、日々のわずかな油漏れや冷却水のシール不良が、年間で○十リットル・○万円という大きな損失に繋がるケースも珍しくありません。
シール不良・漏れの発生メカニズム
シール材と接触面の関係
シール不良のほとんどは、「シール材」と「接触面(シート面)」の関係に原因があります。
- 接触面の凹凸(粗さ・波打ち)
- 取り付け時の歪み・かじり
- ボルト締結力の不均一(人の締め過ぎ・締め不足)
- 古いシール材使用による経年劣化(硬化・亀裂・圧縮残留)
- 材料不適合(流体・温度に合わないものを選定)
これらの要因が組み合わさり、本来ならば微小な“すき間”が大きな通り道となり、漏れにつながります。
化学変化・物理的損傷にも注意
過酷な現場環境では、液体・ガスがシール材と化学反応を起こしたり、温度変化で膨張・収縮したり、あるいは繰返し振動や圧力で摩耗や損傷が起きます。
特に油脂・燃料・溶剤・薬品・冷却水などの扱い現場では、シール材の材質選定が極めて重要です。
効果的な漏れ防止策のポイント
1. 適切なシール材の選定と標準化
多くの現場で散見されるトラブルが、「とりあえず余っていたガスケットを流用した」「手持ちのOリングをサイズ違いで代用した」といった安直な運用です。
シール材は、流体の種類・温度・圧力・化学的適合性・形状・動的/静的いずれかを正確に把握したうえで選定する必要があります。
現場視点で言えば、「誰がやっても失敗しない」シール材の標準化リストや管理運用ルールを整備しておくことが、ミスとトラブルを抑える大切な一歩です。
2. 正確・均等な締結作業の徹底
シール部の多くは、ボルトやナットでの締結力が均等でないと漏れが発生しやすくなります。
現場でよくあるのは、「一気締め」や「締め直し忘れ」です。
可能な限りトルクレンチや、規定の締結手順(交互締め・対角線締めなど)を徹底しましょう。
また、増締めタイミングやシール交換周期などをきちんと管理することも非常に重要です。
3. シール接触面の清掃・点検・修正
シール交換時や定期保全時は、かならず接触面の清掃・点検を行いましょう。
古いシール材や異物の残留、キズや錆、変形等を放置すると新しいシールの意味がなくなります。
必要に応じてラッピング(超仕上げ研磨)やフェース修正を行い、面粗度管理も徹底するとより効果的です。
4. 新しいシール技術の導入・試行
昭和の定番技術も多いですが、令和の今は高耐久・接着型やメタルタッチ型、非接触型シールなど新技術も続々登場しています。
難シール用途やトラブル常連箇所は、最新材料や加工技術の情報を積極的に仕入れて導入を検討することも現場力向上に寄与します。
現場でよくあるシールトラブルとその対策
ガスケットの取付ミスによる漏れ
- 規定トルクで均等に締める
- 規格品かどうかを事前に確認
- 締付け後は数時間後に増締めチェックを習慣化
Oリングの切れ・膨潤・硬化劣化
- Oリング取り付け時はグリスを適切に使用し、無理な引っ張りやネジ込みを避ける
- 流体・温度に合った材質(NBR、FKM、EPDMなど)を必ず選択
- 定期交換サイクルを設け、早期異常発見を行う
メカニカルシールの焼き付き・摩耗
- 冷却水・潤滑系統の詰まり、流量低下の点検
- 運転時のショックや乱れ流体を避けるためのポンプ起動ルール徹底
- シールフェース部の面粗度維持と、専門業者による定期交換
パッキンからの漏れ・圧損
- 圧入・シート加工時に変形がないかチェック
- グラファイト系、PTFE系等、最新高性能材への入替を検討
- 圧力バランス型シールや多段パッキンへの構造チェンジ
シール技術の最新業界動向 〜アナログからデジタルへ〜
IoT・センサ連携による漏れ予知保全
近年はシーリング箇所の漏れリスクを、圧力・温度・振動センサや画像解析によって事前に可視化、予知保全する技術が広がってきました。
IoTと組み合わせて、「目に見えない微細な異常」を早期アラームし、止まらない現場運営を実現する時代が到来しています。
環境対応型シール材の普及
EU-REACH規制や廃プラ規制の流れで、有害物・環境負荷成分フリーの新材料への移行が急速に進んでいます。
環境と両立するシール材の調達が、今後グローバル調達・SDGs対応の必須条件となるでしょう。
アナログ現場力×デジタル活用のハイブリッド化
いまだに「職人技」「経験値」「昔のやり方」が根強く現場に息づいているのも、製造業の現実です。
その一方で、マニュアルのデジタル化・トルク管理の自動化・交換履歴のデータベース化といったデジタル化も着実に進んでいます。
現場の技能伝承(ナレッジ)+標準化+デジタルを組みあわせ、過渡期をしなやかに乗り切ることが、日本の製造現場の大きなテーマです。
バイヤー・サプライヤーから見たシール技術のポイント
バイヤー(購買担当)は、コスト削減だけでなく、品質・交換性・納期・安定調達を強く意識します。
また、サプライヤー側にとっては「トラブル時のサポート体制」「選定・提案力」「最新材料やグローバル調和規格への対応」が信頼構築につながります。
「安いから買う」「使いやすいから選ぶ」だけでなく、「健全なサプライチェーンを支えるパートナーシップをいかに築くか」が真の競争力と言えるでしょう。
まとめ 〜シール技術は「縁の下の力持ち」〜
シール技術は見えにくい部分ですが、「現場の安定性・安全・品質」の根幹を支える極めて重要な要素です。
昭和的なアナログ現場文化を尊重しつつ、最新技術とデジタル化を柔軟に取り入れることで、あなたの現場力・企業力はさらに高まります。
シールの選定、取り付け、保守、トラブルシュートひとつひとつが、生産性と安全・環境・コスト最適化につながる——そうした全体最適の視点で、今一度「シール」を見直してみてはいかがでしょうか。
シール技術の深化が、日本のものづくりをさらに力強く進化させることを、現場経験者として心から願っています。
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