投稿日:2025年6月4日

電動アクチュエータの選定基準と調達方法

はじめに

製造現場の自動化が加速する中で、電動アクチュエータは省力化・品質向上・歩留まり改善など、多くの現場課題を解決する重要なキーデバイスとなっています。

しかし、その選定や調達は意外と奥深いものです。

特に昭和時代からのアナログ志向が根強く残る業界では、「なんとなく伝統的に空気圧を使ってきたから」「他社も似たようなものを使っているから」といった理由だけで選ばれてきたケースも珍しくありません。

本記事では、現場の最前線に20年以上身を置いた筆者の経験とノウハウをもとに、バイヤー、調達担当者、またはサプライヤーの方々へ向けて、「電動アクチュエータの正しい選定基準」と「現場で役立つ調達ノウハウ」を網羅的かつ実践的に解説します。

これからの時代に必要なラテラル(水平)思考も交え、業界の常識にとらわれない新しい視点を提供します。

電動アクチュエータとは何か? その意味と今後の必要性

電動アクチュエータの基礎知識

電動アクチュエータは、電気エネルギーを滑らかな直線運動や回転運動に変換する装置です。

主にサーボモーターやステッピングモーターを活用し、従来の空圧や油圧アクチュエータと比べて、より高精度・高効率な動作が可能です。

最近ではIoTやスマートファクトリー化の流れも追い風となり、「省エネ」や「繰返し精度」「メンテナンス性の向上」の観点から採用が加速しています。

なぜ今、電動化が求められるのか

現場目線で見ると、以前は初期コストや操作性のシンプルさゆえに空気圧や油圧が主流でした。

しかし、持続的なエネルギー消費削減(カーボンニュートラル)や技能伝承問題(属人的な設備維持からの脱却)、トレーサビリティ強化といった流れから、調達段階での「電動志向」への転換が問われるようになってきました。

現場でありがちなアクチュエータ選定の失敗例

伝統や慣習に引きずられるケース

「御社はこのライン、ずっとエアシリンダでしたよね?」という惰性の購買はリスクです。

曖昧な理由だけで同じ型やシリーズを使い続けていると、本来享受できたはずのコストダウンや品質向上のチャンスを逃すことになります。

カタログスペックだけで決めてしまうケース

調達担当が「とりあえず推奨スペックより大きめを選んでおけば安心」と考えがちですが、「オーバースペック」の積み重ねがムダなコストと運用ロスを生みます。

特に電動アクチュエータの場合、本来の負荷や制御の要件に合わせた最適なモデル選定が重要です。

現場で本当に必要なスペックと、製品が持つ「付加価値」(通信機能やメンテナンス性など)を冷静に見極めることが失敗回避には不可欠です。

電動アクチュエータの選定基準 〜 基本的なチェック項目

運動形態と可搬重量

まず「直線運動」が必要なのか、「回転運動」が必要なのかを整理します。

次に、可搬重量とストローク(移動距離)、必要な加減速度などを具体的数値で把握することが第一歩です。

また、設置スペースの制約や周辺機器との干渉有無も重要なポイントです。

環境要求

動作環境の温度範囲、粉塵・油分の多さ、水没や防爆の要否など、工場ごとの現場事情を必ず確認します。

最近はドライルームやクリーンルーム対応のニーズも増えています。

調達バイヤーとしてはヒアリング時点で「なぜこの環境が必要か」を現場エンジニアに細かく質問するのが好手です。

制御性・トレーサビリティ

スマートファクトリー化を加速するためには、上位コントローラ(PLCや産業PC)との通信可能性や、稼働データの取得・分析機能が求められます。

IoT技術と親和性の高いアクチュエータを選ぶことは、中長期的に大きなアドバンテージとなります。

スペアパーツと保守性

万一のトラブル発生時、すぐにスペアパーツが手配できるかどうか、メンテナンス性は現場にとって大きな意味を持ちます。

安易な輸入品やノンブランド品に手を出すと、この点で大きく苦労する場合があり、本質的なTCO(トータルコスト)を見逃さない姿勢がベストプラクティスです。

現場の声から導く!本当に役立つ選定チェックリスト

設計、現場、保守部門を巻き込むヒアリング

部門間でダブルチェックを行うことで、「設計が想定した理想的な使用条件」と「実際の使われ方」のギャップを埋めます。

現場でのユーザーインタビューやウォークスルー(作業観察)も有効です。

単なる技術視点だけでなく「誰が」「どの頻度で」「どう使うのか」まで把握するのが、プロのバイヤーへの第一歩です。

代理店・メーカーからの最新動向ヒアリング

定期的に複数社から新製品や関連技術の説明を受けることも、選定眼を養うコツです。

「業界標準」や「最新の納入事例」の情報を継続的にアップデートしていくことが、良い相場感を生みます。

サプライヤー側の方は「バイヤーがどういった情報を求めているか」を理解して、ニーズ先行型の提案を心がけると商談がスムーズです。

電動アクチュエータの調達方法と、今後の業界動向

これからの調達購買に必要な視点

従来のように「コスト最優先」「一括大量調達」という昭和的アプローチだけでは、優秀な電動アクチュエータの調達は難しくなっています。

これからは下記が重要です。

  • 部品標準化による一社依存回避と持続可能なサプライチェーン構築
  • 早期設計段階からの購買部門参画(VE/VAの徹底)
  • 導入~保守までのライフサイクルコスト評価
  • モータ制御・IoT拡張性など「将来拡張」も視野に入れる

具体的な調達フロー

1. 仕様要求ヒアリング(現場・設計・生産・保全から吸い上げ)
2. スペック整理と優先順位付け(省エネやIoT要件含め)
3. メーカー・型式選定(複数社見積、サンプル評価)
4. 現場でのテスト導入(初期不具合検証)
5. 契約条件詰め・量産・アフターサポート体制確認

「安い」「速い」だけでなく、「本当に自社の競争力になるか?」という確かな目利き力が大切です。

バイヤー・サプライヤー両者が知っておきたい”共通言語”

選定や調達の場面では、売る側(サプライヤー)と買う側(バイヤー)の意思疎通が非常に重要です。

特に下記の項目は双方の認識を揃えておくことでロスが激減します。

  • 可搬重量・ストローク・速度・設置条件の明確な伝達
  • 納期、アフターサービス、保守パーツの供給保証
  • 予算と品質要求の現実的なバランス感覚
  • 今後のライン変更や生産量増減に耐えうる柔軟性

サプライヤー視点では、「お客様の何に役立てるのか」を徹底的に聞き込むことがリピート受注を生みます。

バイヤー側も、ただ価格や納期だけでなく「工場・設備全体の最適化」に視野を広げることで、真に価値ある調達ができます。

まとめ:新しい選定基準がものづくりの未来をひらく

電動アクチュエータの選定・調達は、単なる設備更新や機械部品の置き換え作業ではありません。

現場の課題や会社の将来戦略を、サプライヤーと調達部門が共通の目線で捉えることが最重要です。

これからのものづくりには「値段が安いから」だけでは判断できない複合的な視点――省エネ、保守性、拡張性、サステナビリティ――が求められるでしょう。

自社とサプライヤーが現場の実情や業界動向まで含めて情報をつなぎ合うことで、業界全体の生産性を新たなステージへ押し上げることが可能になります。

「これまで通り」の発想から一歩踏み出し、ラテラルシンキングで磨く調達と選定。

次代の工場進化を担うあなた自身が、最先端のバイヤーへと成長していくための第一歩です。

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