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“もっと早く相談してほしかった”が常に出る開発レビュー

目次
はじめに:“もっと早く相談してほしかった”という現場課題
開発案件のレビューや生産現場との打ち合わせで最も多く聞こえてくる言葉の一つが、「もっと早く相談してほしかった」です。
この言葉は、上流工程の決定が下流工程の負担を増やしたり、調達や生産、品質管理など各部門の視点が十分に反映されないままプロジェクトが進んでいく製造業の現場ならではの課題です。
特に昭和時代から抜け出しきれない“根回し文化”や縦割り組織が色濃く残る企業では、情報共有が遅れがちで、結果的に「こんなはずではなかった」「もっと早く相談してもらえれば…」という後悔の声が絶えません。
本記事では、20年以上の大手メーカー現場経験を踏まえ、なぜ「もっと早く相談してほしかった」が頻発するのか、どのような解決策が考えられるのかを、現場目線で掘り下げていきます。
なぜ“もっと早く相談してほしかった”は起こるのか
縦割り組織の壁が生む情報断絶
昭和から続く大手メーカーには、部門ごとの職能集団(設計のみ、調達のみ、品質管理のみなど)が存在し、それぞれが閉じた“情報の島”を形成しがちです。
地方工場や支社が多い企業では、対面で顔を合わせる場も限られ、プロジェクトごとに属人化が根付いています。
そのため、設計部門は「生産部門には後から伝えればいい」「調達部門には詳細が詰まってから」という横着な発想に陥りがちです。
一方の調達や生産、品質管理の立場では、「途中で知ってもすでに手遅れ」「変更がきかない」「最初から前提を聞いていれば予防できた」など、後追いで問題対応に追われます。
この構造により、“もっと早く相談してほしかった”現象が慢性化しています。
開発スケジュールの圧縮とコストダウン至上主義
バブル崩壊以降、製造業では開発期間の短縮とコストダウンが絶対命題に。
上層部からの圧力で、設計(エンジニア)主導での“意思決定の前倒し”が当たり前になっています。
この際、「まずは作ってみる」「アウトプットを急ぐ」ために、現場各部門とのコミュニケーションがなおざりにされます。
設計から降りてきた図面が“既成事実”となり、「そのまま進めるしかない」という流れになりがちです。
これにより、現場レビュー時には各所から「そんな仕様じゃ対応できない」「コストや納期から見直してほしい」とクレームが噴出します。
本来は、調達・生産・品質管理など“下流”の知見を織り込めば防げたはずの設計ロス、再検討の手戻り、後工程のムダが増大していきます。
現場で本当に起きている“手遅れ”の具体例
設備購買:納期崩壊と特注品地獄
新製品の開発プロジェクトで、設備設計の段階から購買部門を巻き込むことを怠ると、以下のようなトラブルが発生します。
設計担当が「これくらいの納期でモノが手配できるだろう」と甘く見積もり、海外への発注手続きをギリギリまで遅らせてしまいます。
実際に調達手配を始めてみると、特注部品や長納期品が多く、予定納期を全く守れない事態に。
ここで購買側が「もっと早く相談してくれれば、既存ルートや標準品でアレンジできた」「バイヤーとしてベストな調達戦略を立てられたのに」と嘆くケースが多発します。
品質管理:検査基準の拡大で現場混乱
設計段階で新しい材料や複雑な構造を導入し、量産直前に品質保証部門へレビュー依頼がなされるパターンも頻出しています。
ところが、量産スケールとは異なる工程を前提に設計されていたため、現場で通常採用していない検査項目や専用治具の追加が必要になります。
「もっと早く品質部門に相談していれば、本ラインで無理なく検査できる設計にできたはず」「非現実的な品質保証を後から求められても現場は対応しきれない」という嘆きが響きます。
生産管理:ライン負荷の見落としによる手戻り
多品種少量化やカスタム対応が増える中、設計主導で仕様が次々と決定されていきます。
しかし、生産管理に十分な事前レビューがなされていないため、生産ラインのキャパシティや工程制約を無視した設計となり、現場導入時にボトルネックが発生します。
その結果、「設計時に生産条件を共有してもらえれば工程再設計やリードタイムの見積もりができたのに」という問題が露呈し、膨大な手戻り工数が発生します。
“もっと早く相談してほしかった”を減らす現実的アプローチ
現場巻き込みのための“逆流プロセス”設計
一方的な“トップダウン”や設計主導を脱却するために、私が現場時代に試みたのが「逆流プロセス」です。
一般的に川は上流から下流へと流れますが、製造業のプロジェクト推進では“下流の知恵”を上流の設計・企画段階に逆流させることが効果的です。
具体的には、設計仮決定時に調達、現場、品質管理の“三役”が必ずレビューに参加し、設計案段階からコメント・懸念を“強制的に”吸い上げるしくみづくりを推進しました。
経験上、これだけで一気に全ての問題が消えるわけではありませんが、後工程の重大な手戻り・工程崩壊は激減します。
“逆流プロセス”は、デジタルツール導入の前に、まず現場同士の顔の見える場づくりが第一歩です。
バイヤー思考を設計へインストールする
調達購買部門の知見がプロジェクト初期に入らないことは、コストや納期だけでなく、品質・リスク管理にも直結します。
設計者自身にバイヤー的視点を持たせる社内教育を進めたり、設計段階に「調達目線チェックリスト」を必須化するなど、“バイヤーの考え方”を設計現場にインストールする工夫が重要です。
「どんな部品が調達しやすいか」「サプライヤーに無理のない仕様は何か」といった具体的な質問を設計段階で必ず検討させることで、調達購買部門とのすれ違いを減らすことができます。
サプライヤーの立場で考える・現場同士の対話文化
サプライヤーや協力工場の立場では、バイヤー(発注者)がどのタイミングで、どんな判断材料を求めているかを理解し、主導的に提案・相談することが重要です。
受け身になりがちな下請け・協力工場ほど、「言われたことをやる」だけでなく、「現場で起きるリスクを先回りして伝える」「他社で実績のある仕様を逆提案する」「納期短縮やコスト対応のアイディアを初期段階から出す」など、能動的なアクションで一歩先に立つことで信頼を獲得できます。
現場レベルでのオープンな対話と情報共有は、M&Aやグローバル化でますます重要性を増しています。
ラテラルシンキングで新たな地平線を拓く:製造業の未来思考
“もっと早く相談してほしかった”現象は、誰か一人のせいでも、一時的な運用の歪みでもありません。
構造的な問題として定着している以上、“水平思考(ラテラルシンキング)”で視野を広げ、部門の壁を超える発想が欠かせません。
たとえば、
・設計―現場―調達の“壁”を壊すため、多能工やジョブローテーションで相互理解を深める
・チャットツールやAIレビューを活用し、リアルタイムで懸念点を吸い上げる仕組みを作る
・サプライヤーも含む合同キックオフミーティングを、プロジェクト初期に必ず開催する
といった具体的な打ち手が推奨されます。
また、“あえて早すぎる相談”を推奨する文化づくり、つまり「まだモヤモヤしていても、とにかく相談する」「未完成な段階でも全員を巻き込む」ことが、実は後工程の利益につながるという気づきを現場全体で共有することも大切です。
まとめ
製造業における「もっと早く相談してほしかった」という現場の叫びは、昭和型の組織文化や縦割り体質、リソース不足といった複雑な要因から生じています。
だからこそバイヤーを目指す方や現場バイヤー、サプライヤーとして現場に関わる皆さんには、「現場発の水平思考と逆流プロセス」「早期巻き込みの重要性」「能動的な対話文化」の3つを意識していただきたいです。
製造業は、厳しさの中にも“現場の英知”が詰まった業界です。
一歩先を読み、構造を俯瞰し、現場同士で学び合いながら、新しい地平線を一緒に切り拓いていきましょう。
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