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店舗で作る味を“家庭で再現できる味”に変えるための簡略化設計の心得

目次
はじめに:店舗の味と家庭のキッチンのギャップ
飲食店で食べるプロの味を「家庭で再現できる味」に落とし込むことは、決して簡単なことではありません。
厨房には業務用の機材や専用の調味料、豊富な下処理のノウハウ、そして何よりプロの経験が詰まっています。
一方、家庭は調理器具や材料に限りがあり、調理に割ける時間もわずかです。
それでもなお、「お店の味をそのまま家庭で」という需要は根強く存在しています。
このニーズを満たすためには、味だけでなく調理工程や再現性に配慮した「簡略化設計」が不可欠です。
この記事では、私が製造現場や食品工場で得た知見をもとに、実践的な「簡略化設計の心得」を紹介します。
なぜ家庭用商品開発に現場目線が必要なのか
アナログな現場で繰り返される「同じ失敗」
現場目線を重視しない商品設計は、工場での「つくりにくさ」や、現場での「再現できなさ」を招きます。
昭和的な勘や経験則で、マニュアルにない“ひと手間”が現場で自然に加わってしまうことも少なくありません。
しかし、こうした属人的なアプローチは、家庭用商品開発においては再現性の低下と失敗体験を招く原因です。
現場の声を適切に拾い上げ、標準化する力が今ほど求められている時代はありません。
バイヤー視点は「売りやすさ」だけではない
たとえばスーパーマーケットのバイヤーは、商品を仕入れる際に「売りやすさ」だけではなく、自ら消費者の視点に立って味を確かめ、誰でも同じ味を安定して出せるか細かくチェックしています。
バイヤーが気にするのは、パッケージデザインや価格だけではなく、「家庭に届いた後、ちゃんと作ってもらえるか」にあるのです。
製造・開発サイドもこの思考回路を持ち、家庭での失敗が少ない設計を強く意識することが求められます。
味の「落としどころ」とは何か
プロの味を直接持ち込んでは失敗する
店舗で使用する出汁やタレのレシピを、そのまま家庭用商品に転用しても、しばしば「思ったより複雑」「この材料が手に入らない」「味が強すぎる」などの壁に突き当たります。
背景には、
– 調理技術の差
– 食材の鮮度や質の差
– キッチン設備の限界
など、明白な物理的ギャップが潜んでいます。
“感動”を維持しつつ、“やりすぎ”を削る
「うまみの決め手」である隠し味を何層にも重ねると、プロでなければ再現できません。
ここで重要なのは、「削ること=味の劣化」ではない、という視点です。
削ぎ落とすことで、家庭の制約内で“感動”がちゃんと届くライン(落としどころ)へチューニングすることが、設計者の腕の見せ所です。
例えば、難易度の高い“だし取り”は高品質顆粒だしに置き換え、包丁での複雑なカットは市販のカット野菜を前提として味付けのバランスを見直すなど、一見プロのこだわりを崩さないように見せながら、徹底的に効率化していくのです。
簡略化設計の具体的プロセス
1. 顧客行動を徹底観察する
まずはユーザーの家庭での実際の調理プロセスを観察しましょう。
手に入りにくい材料が混ざっていないか、手間のかかる下ごしらえが必要になっていないか、IHとガスで火力が異なって味が落ちていないか、などの「つまずきポイント」をリストアップします。
家族人数、ライフスタイル、調理器具の状況なども無視できません。
2. 調理工程の標準化を徹底する
どこの家庭でも同じような結果が得られる工程に変換していきます。
例えば、たれの希釈や煮込み時間は、温度計やタイマーなしでも済むように記載方法を工夫します。
「電子レンジで◯分」など、家庭用機器の“最小公倍数”的な表現が大切です。
また、「この食材を加えると一層プロの味」といった“アドバイス枠”は設けますが、メイン手順に盛り込むべきではありません。
3. 失敗しやすい“重要工程”を明確化する
失敗が味の決定的な劣化につながる工程(例:焦げやすい炒め、過加熱で硬くなる具材など)は「ここだけは守ってほしいポイント」として明示します。
加えて、市販品としては失敗回避の工夫(下味済み具材、時短調理、火力に左右されない調味パウチの工夫など)を組み込みましょう。
小分けの調味料パックや、加熱時のムラを抑えるトレー設計など、製造現場のノウハウも多いに活かされます。
レシピ記載と顧客体験の最適化
直感的で失敗しないレシピを書く
「わかりやすく・簡潔に」は鉄則ですが、それだけでは家庭の“読み飛ばし”現象を防げません。
工程ごとに「このタイミングで味見」「お皿を温めておく」など、小さなプロのコツを挟むことで、顧客体験が格段に向上します。
工程写真やイラストを多くし、Webや動画で追加サポートを用意することも重要です。
アフターサポートも“設計”のうち
問い合わせ先の充実や、SNSによる補足レシピ発信など、「買った後どう使われているか」「失敗時にどうフォローするか」もプロダクトの一部と考えます。
バイヤーや得意先から「問い合わせが多い商品」にならないよう、事前に疑問を解消する工夫を盛り込むのがメーカーの責任です。
サプライヤー・バイヤー間で価値のある商品をつくるには
サプライヤー発想から“顧客目線”発想へ
多くのサプライヤーは自社の技術ビューに立ちがちですが、「家庭でどのように調理され、食べられるか」を起点に考えることが、今後のものづくりでは不可欠です。
バイヤーも「棚に並べて終わり」ではなく、棚落ち(=売れなくなること)を防ぐために、家庭で実際にリピートされる“使いやすい設計”を強く求めるようになっています。
納入前のサンプルテストや、バイヤー自身による実調理体験は、商品開発現場とバイヤーをつなぐ“共通言語”として有効です。
工場現場の“声”を開発に活かす
製造工程で「こうすれば手間が減り品質が安定する」「これは大量生産に向かない」など、現場ならではの知見は麦わら帽子のひもと同じで、表からは見えずとも商品のクオリティを裏で支えています。
サプライヤーとしては、こうした現場目線のアイデアを早期に開発段階へ持ち込むことで、後工程のトラブルやクレーム防止に直結します。
まとめ:家庭でリピートされる商品とは
店舗の味をそのまま家庭に…という思いは強くても、それを実現するには「簡略化設計=徹底的な省力化」「標準化」「失敗回避」を細部に盛り込むことが肝心です。
そして何より「誰が・どこで・どのように作るか」という現場と現実目線を常に忘れず、バイヤーやサプライヤーが丁寧に議論を重ねることこそが、家庭に“新たな感動体験”を届ける第一歩となります。
明日からの開発や現場改善のヒントになりましたら幸いです。