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熟練工の経験頼みで新規人材が育たない問題

目次
はじめに:昭和から受け継がれる「熟練工神話」の功と罪
製造業の現場において、熟練工の存在は大変貴重です。
不良品を瞬時に見抜く眼、トラブルが起きても即座に改善策を打つ知恵、そして暗黙知ともいえる独自のノウハウ――それらは一朝一夕に身につくものではなく、長い年月をかけて蓄積された経験の結晶です。
しかし、この“熟練工神話”に過度に依存しすぎてきたツケが、今まさに多くの工場現場に重くのしかかっています。
高齢化が進み、技術継承が進まず、新卒や若手が入ってもなかなか一人前に育たない。
この「新規人材が育たない問題」は、日本の製造業に根深い課題を突きつけています。
本記事では、現場目線でこの問題の構造を可視化し、今後の具体的な打開策を考えていきます。
サプライヤーもバイヤーも管理職も、あらゆる立場の方の視点に役立つ内容となることを目指しました。
現場観点で解説:なぜ人が育たないのか?「3つの根本要因」
1.経験に依存した“暗黙知”の壁
日本の製造現場で評価されるのは“目で見て、体で覚える”いわゆるOJT(On the Job Training)が中心です。
「先輩のやり方を盗め」「見て学べ」が半ば常識化しており、マニュアルは一応存在しても、実際には経験則が全て。
つまり、意図的な教育設計や明文化されたロジックよりも、「誰がどうやるか」「ベテランの勘とコツ」に頼る部分が非常に大きいのです。
この仕組みは効率の良さや高品質維持には役立つ一方で、その人がいなくなるとノウハウも消えてしまう。
若手が仕事の全体像をつかめないまま、細かい手順だけを教え込まれて「主体性」が育たないという悪循環にもなりがちです。
2.年功序列と人事評価のジレンマ
昭和の時代には、長く働けば自然と地位や所得が上がる「年功序列」が根付いていました。
この仕組みの裏側では、“新しいことは若手にやらせない”、“失敗は減点対象”という空気が根強く残存してきたのです。
これにより、新人や中堅が挑戦する機会が減り、人材育成よりも「熟練者頼み」の組織体質が生まれました。
誰がどんなスキルを持っているか、どこまで独り立ちできるかといった“スキルの見える化”も遅れたまま。
結果、どこまで任せられるかを定量評価できず、「結局ベテランに頼るしかない」となりやすいのです。
3.デジタル化・自動化の“属人化バリア”
いま、IoTやAIなどの技術革新が進む中で、ますます「データに基づく標準化」や「自動化」が求められています。
ところが、「現場の流儀」に染まりすぎた組織文化では、ICT活用も中途半端に終わることが少なくありません。
「現場は現場、パソコンは事務の人」という意識や、「ウチのやり方は昔からこうだ」と変化に尻込みする姿勢が、デジタル化や見える化、教育の仕組み刷新を阻んでいるのです。
業界動向:なぜ“昭和的アナログ体質”は抜け出せないのか?
終身雇用・大量生産の呪縛
日本のものづくりは、戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、「大量生産・終身雇用・現場尊重」が三位一体となって強みを発揮しました。
そのDNAが、いまもメーカー各社の根幹に刻まれています。
確かに、細かい「現場改善」や「伝統技術」の積み重ねは、一朝一夕に真似できるものではありません。
反面、経済状況や顧客ニーズが急激に変化すると、意思決定や現場改革が「前例踏襲主義」に陥りやすくなります。
「ウチは今までこれでやってきた」「変える必要がない」という空気が、若手や外部の新しい視点を跳ね返し続けてきたのです。
中小メーカーの“教育投資”困難
特に中規模・小規模メーカーでは、そもそも採用・育成にかけられるリソースが圧倒的に不足しています。
実務が忙しく、OJT以外の体系的な教育設計を組みにくい。
「1年育ててやっと一人前になる若手に、どこまで時間と手間をかけられるか」という現実的な悩みも多いのです。
結果的に、「育成は現場任せ」「とにかく即戦力が欲しい」「熟練者の負担増」という悪循環が続いています。
製造現場でよくある具体例
「●●さんの替わりが見つからない」問題
たとえば、ある中堅工場で、大ベテランの加工機オペレーターAさんが定年目前。
Aさんが不在時だけ補佐をしてきた新人Bさんに突然「任せてみろ」と現場を預けるが、Aさんの勘に基づく微調整が分からず良品歩留まりが急下降。
結局Aさんを呼び戻す事態に。
このようなケース、どこの現場でも「よくある話」です。
理由は、Aさんの工程のどこが“キモ”なのか書き出されておらず、暗黙知に依存しているため。
手順は知っていても異常発生時の対処や品質判断力が伴っていません。
新技術導入の失敗パターン
IoTやデジタル設備を導入したものの、マシンが「熟練オペレーターの感覚」を拾いきれず、ベテラン層から「こんなもの使えない」「うちの現場はアナログの方が早い」と反発が起こる。
新人は新システムに戸惑い、旧来のマニュアルと新方式の間で混乱。
ハイブリッド化どころかどちらも中途半端になる、というパターンも多発しています。
バイヤー・サプライヤー双方の本音とギャップ
バイヤー(購買先・発注者側)は、安定品質と納期遵守、万一のトラブル対応力を求めています。
「体制のしっかりしたメーカー」「技術継承が“属人化”していない体質」を選ぶ傾向が強まっているのが実情です。
サプライヤー(供給側)は、短納期・多品種・高い要求に応えるためには、熟練者の手腕が不可欠という現場論理を持っています。
「うちの技術者が辞めれば取引打ち切りでは困る」と切実な危機感も発生します。
この双方の意識ギャップを埋めるには、「再現性のある技術力」「教育・訓練の見える化」「誰がやっても一定レベルの成果が出る標準化」の取り組みが必須になってきています。
解決の道筋:アナログの強み×デジタル教育設計
暗黙知の形式知化
まず現場の「当たり前」「勘・コツ」を徹底的に洗い出し、言葉や画像・動画として資料化することが重要です。
ベテランには「何が上手くいっている理由なのか」「どのタイミングで判断しているのか」を聞き取り、業務プロセス分解、チェックリスト化、Q&A集作成、トラブル事例のストックといった見える化を。
これにより新規人材が“なぜこの工程でその作業が必要か”を理解しやすくなります。
段階的な教育プログラムと伴走者制度
一度に全てを求めず、基礎・応用・実践のステップを設定することで、それぞれの到達レベルを明確化します。
また「メンター制度」や「ペア作業」など、教育担当者(伴走者)が新人に定期的にフィードバックを行う体制も有効です。
これにより、「失敗を恐れずトライできる」「分からないことを聞ける」という土壌が育ち、新人の定着率も格段に上がります。
評価基準の再構築と“挑戦する風土”づくり
たとえば、「教えた数」「新人の独り立ち状況」など、教育自体の成果を評価対象にすることも有効です。
年功序列の「作業効率」や「不良ゼロ」だけでなく、「後進育成」「新規プロジェクト参画」も人事評価に組み込みましょう。
経営層も日々の現場ラウンドや朝会で「誰もが挑戦してOK」「ミスを共有して学ぶ」空気を意識的に作り出し、全員が育成の当事者となることを目指す必要があります。
アナログ技能の“DX化”
従来のアナログ作業とITツールを組み合わせて「現場ワークフローのデジタル化」に踏み込むことで、情報共有や教育の効率化が格段に高まります。
現場エリアごとにモニターを設置し、日々の改善点やトラブル情報をデータベース化。
熟練工の手順動画やOJT記録を素材に、eラーニングやシミュレーション型教材を導入すれば、経験差によるギャップを縮めることができます。
まとめ:製造業の未来は「人を育てる現場力」にあり
昭和の現場力と熟練工の経験は、引き続き日本のものづくりを支える重要な財産です。
しかし、その強みさえも“人が育たない仕組み”によって急速に色褪せつつあります。
激変する市場や顧客要求に応えるには、「どの工程も誰が担当しても、再現性のある品質・納期・価値を提供できる」現場づくりが不可欠です。
そのためには、業界の伝統や慣習に風穴を開けるラテラルな発想――
たとえば「自分のやり方」「当たり前」を常に言語化し、デジタルや新技術を積極的に取り入れ、現場全体で育成カルチャーを共有することが求められます。
バイヤーもサプライヤーも、「人材の育ちやすさ、その組織がどれだけ“ナレッジ化”を進めているか」を重要な選定基準にする時代です。
現場経験と新たな発想をかけあわせて、「人が伸びる、会社も伸びる」日本の製造業の未来を切り開いていきましょう。
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