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社長の判断が全てで意思決定が遅れる現場の課題

社長の判断が全てで意思決定が遅れる現場の課題
昭和的なトップダウン経営が残る製造業の現状
日本の製造業、とりわけ中小規模の工場や老舗メーカーの多くは、今なお「社長の一声」で全てが動くトップダウン型組織が主流です。
現場の日々の課題改善から新規設備導入、協力会社の選定、細かな購買判断まで、その大半に社長や経営層の意思決定が求められることが珍しくありません。
一見すると、現場の混乱防止や会社としての一体感を生み出す“よい仕組み”にも思えます。
しかし、現場の調達担当、生産管理、品質管理など、それぞれが迅速な判断や改善を求められる今、こうしたトップダウン文化は多くの問題を引き起こしています。
なぜ意思決定が“社長待ち”になるのか?
その背景には主に以下のような要因があります。
– 企業規模が大きくなく、業務の多くを社長が把握しておきたい
– 会社の顔としての責任感が強く、リスクを現場任せにしたくない
– 「現場スタッフは判断材料や経験が足りない」という無意識の先入観
– 社長のカリスマ性に依存した意思決定が文化として根付いている
– 課長・部長などの中間管理職の裁量が小さくなりがち
特に、創業者や二代目・三代目が現役の会社では、「失敗したら社長に大迷惑をかける…」という現場の圧力も大きく、些細な現場改善でも最終承認が必要になることが日常的です。
現場サイドから見た意思決定遅延の実害
現場で働く調達担当や生産管理の目線からこの問題を見ると、次のような弊害が生まれます。
– 緊急対応が遅れる: 突発的な資材不足や設備故障時、現場が即断し追加購買や代替案を実施できない
– サプライヤー交渉力の低下: バイヤーが仕入先と商談中でも「社長の返答待ち」で即答できず、競合メーカーに発注を取られてしまう
– 「現場が提案しても通らない」空気: 小規模な自動化やIT導入提案も、“とりあえず保留”で前に進まないため、現場自体が自主的な改善意欲を失う
– 属人化・ブラックボックス化: なぜか判断が通らない、何がNG基準かも曖昧なまま現場が疲弊し、結局「社長がよくわからないからダメ」で葬られるケース
このような停滞が続くと、人材の定着率や現場士気、顧客への対応力といった点でも会社全体がジリ貧になります。
デジタル改革や自動化推進のハードルに
ITやAIの進化、IoTによる工場自動化が叫ばれて久しいですが、実は意思決定の遅さや現場の裁量権不足が、こうした技術導入を大きく妨げているケースも多々あります。
例えば現場の調達部門が、
「この原材料はAIで需要予測して月次発注ロットを見直そう」
「IoTセンサーを使ってラインの稼働率を自動監視したい」
といった提案をしても、「そのシステムの契約は?」「本当にその効果あるの?」「万が一ミスがあったら…」と経営層が慎重になり、結局“様子見”で止まってしまうのです。
日本の製造業の現場目線から見れば、このスピード感のなさが、「昭和の成功体験を引きずったままのアナログ体質」と言われる最大の要因になっています。
なぜ現場の提案が通りにくいのか?
社長が全てを最終判断する仕組みの裏には、経営者自身の「現場を見ることで会社の方向性を見極めたい」という意識も根強くあります。
– 過去の大きな失敗体験から慎重になりすぎている
– 経営層と現場で情報ギャップが大きい
– 権限委譲の“進め方”がわからない
この“情報の非対称性”や“不信感”が、結局は意思決定の基準を曖昧にし、「何でも社長の許可待ち」というスパイラルを生みます。
現場の実務はどんどん複雑になり、多品種少量への柔軟な対応、品質改善、小回りの効いたサプライヤーチェンジといった安全・コスト・納期への即応性がますます問われる時代です。
それでも“承認ルート”の形骸化は多くの現場で色濃く残っています。
バイヤー・サプライヤー両方の苦い経験
私自身、長年バイヤーとして新規協力会社の開拓や価格交渉をしてきましたが、上記のような組織では下記のような“ムダな損失”が生れやすくなります。
バイヤーとしては、
– よい商材と巡り合っても「社長決裁待ち」で他社に先を越される
– サプライヤーから疑問を投げかけられても即断できず関係悪化
– 納期・価格で「現場の裁量」で交渉が進められず単なる伝達係になる
サプライヤーからすると、
– バイヤーはこちらの提案に即答できず話が進まない
– 良い提案でも「上がダメと言えばそれまで」となるので情熱が冷たくなる
– 商談スピードが命の世界で“返事待ち”が交渉力ダウンにつながる
これでは調達コストや納期面、サプライヤーのやる気や信頼関係の面からも大きなマイナスです。
円滑な現場意思決定のための「仕組み」とは
では、どのように昭和型トップダウンから脱し、現場が即断即決できる組織を作るべきでしょうか。
いくつかキーポイントは存在します。
1.現場担当に「判断できる範囲」を明確に与える
例えば「この金額以下なら購買部門で決裁できる」「小規模な工程改善は部長承認で即時着手」など、具体的な裁量枠を可視化します。
2.決裁スピードを上げるIT活用
ワークフローシステムやクラウド承認ツール導入で、書類持参や口頭報告から脱却し、経営層の判断を“いつでもチェックできる“状態にします。
またバイヤーや現場サイドが「なぜ必要か」「どういう効果があるか」をレポーティングする仕組みを整えることも重要です。
3.現場・経営層のコミュニケーション機会を意図して増やす
毎朝の短いミーティングや週報・月報の上申制を取り入れ、経営層にも現場の日常課題・数字感覚の“肌感覚”を養ってもらいます。
4.失敗を責めない文化を作る
現場判断でトラブルがあっても、責任だけを追及するのではなく「なぜそうなったか」「どう改善できるか」に注目する。
これにより「迷惑をかけたくないから何もしない」という現場マインドのブロックを解除します。
意思決定スピード向上が組織力の強化に
意思決定のスピードが速くなると、サプライヤーとも“生きた情報”がやり取りでき、不意のトラブル対応にも柔軟に立ち回れます。
– 顧客クレームやリコール発生時、現場が即断でき再発防止アクションまで最短距離で進む
– 市場ニーズの変化へスピーディに自社事業をアジャストできる
– サプライヤーからの新規提案や改善案の良し悪しを即判断し、競合他社よりも早く導入できる
結果として、取引先や顧客からの信頼性も高まります。
この課題をどう超えるか──次世代バイヤー・サプライヤーへの提言
現役の調達担当、生産管理、またはこれからバイヤー・サプライヤーを目指す方々へ。
「自分の意見や提案が全く通らない」「社長判断待ちで無力感しかない」と感じる時にも、あきらめず
– 「この規模までは現場で即断した方が現場も会社も得する」
– 「これだけ情報を見える化・報告・説明すれば、現場で決めても後でフォローできる」
– 「失敗も共有財産とし、まずやってみて次に活かす仕組みを作る」
という思考で動くことが必ず突破口になります。
また、経営層には「現場に判断を委ねることでスピードを上げ、競争力を保てる」ことのリスク・コストバランス、そして現場担当と信頼関係を築くことの大切さをあらためて伝えていきたいと強く思います。
まとめ:変革の一歩は“現場裁量”から始まる
「社長が全てを握る」この文化そのものが製造業の根底に良し悪し両面で強く刻まれています。
しかし、時代は明らかに現場力、現場即応性が企業価値を左右する方向に移っています。
バイヤーもサプライヤーも、自分が関わる現場レベルの意思決定・改善の枠を少しでも広げ、現場ベースの変革サイクルを回し続けることが、製造業全体の競争力を底上げし、ひいては業界の発展・日本らしい高付加価値のモノづくりにつながると信じています。
昭和から続く“判断の遅さ”を、今ここから皆さんと一緒に、一歩ずつ打ち破っていきませんか。
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