投稿日:2025年7月25日

スマートゴーグルOEMが水泳フォーム分析を可能にするIMUセンサー統合戦略

はじめに

水泳競技は映像解析によるフォーム診断やトレーニングが当たり前となりつつありますが、近年、ウェアラブル技術の進化により、スマートゴーグルによるリアルタイムデータ取得が注目の的です。
特にIMU(慣性計測ユニット)センサーの統合は、水中でも高精度・非侵襲な動作分析を可能にし、従来のアナログなコーチング手法から新時代のフォーム解析へと業界を牽引しています。
本記事では、スマートゴーグルOEM市場が直面する課題、調達購買や生産管理のポイント、品質要求、そして昭和型アナログ思考が色濃く残る業界環境におけるIMUセンサー統合戦略について実践的に解説します。

スマートゴーグルにおけるIMUセンサー活用の現状

IMUセンサーとは何か

IMUセンサーとは、加速度・角速度・時には地磁気までを捉える小型の電子部品です。
もともとは航空宇宙や自動車の姿勢制御に利用されてきましたが、微小化・高精度化によりウェアラブルデバイスにも組み込まれるようになっています。
これをゴーグルに組み込むことで、水中における頭部の運動パターンやリズム、キック・プルの協調動作を可視化でき、映像や主観だけでは捉え切れない「客観的データ」が入手可能です。

スマートゴーグル市場の動向

海外ではFINISやFORMといったメーカーがデータ取得とコーチングを結びつけたゴーグルを発売し、国内でもOEMによる独自ブランド化やカスタマイズ開発が盛んです。
しかし多くの工場や現場で「IMUって何?」といった声が根強く、「映像解析で十分」「コスト増が心配」といった伝統的な考え方に阻まれているのも現実です。

昭和型アナログ業界における課題

技術導入に対する心理的ハードル

製造現場や購買部門では、IMUセンサーのような新規デバイスに対してコストアップや量産性の懸念、品質保証の観点から二の足を踏むケースが多々あります。
なぜなら水泳ゴーグル自体が単価数百円~数千円の低付加価値製品だった歴史が根強いため、IMUを搭載した途端に「値段の釣り上げ」への警戒感が生まれるからです。
また、「水が侵入しないことが全て」といった機能至上主義、つまり安全第一・堅実第一の昭和式現場思考も根強いです。

OEMにおける仕様取りまとめの難しさ

OEMでゴーグルベンダーに要求を伝える時、調達・生産管理が極めて重要になります。
一般的な購買担当者や設計者は「IMUセンサー=ブラックボックス」と捉えがちで、要求伝達も「サイズが合えばOK」「反応してればOK」など曖昧なトップダウン型指示になりやすいのです。
これが設計品質・検証品質のバラつきを生み、OEMベンダー側でも現場負荷が上がるだけでなく、後工程での不良や再設計リスクを招きます。

IMUセンサー統合戦略 ―現場目線のアプローチ―

調達・購買部門がまず意識すべきこと

調達購買は、IMUセンサー選定を「スペックで比較して安い物を探す」だけに終始しがちですが、それだけでは現場での失敗確率が跳ね上がります。
現場目線で重要なのは以下の三点です。

  • 防水・耐薬品グレード(塩素・汗・水圧への耐久、テープシールとの相性)
  • 外部寸法&インターフェイス設計(既存ゴーグルへの組み込み方法、配線取り回し)
  • 評価用ダミー(サンプルテスト)の導入フロー(スイムテスト、落下試験、浸漬チェック)

これらを単なる「スペックシート」で終わらせず、実際の加工現場・組立現場と密接に連携して「勝てるスペック」を決めることが不可欠です。

生産管理・現場が粘るべき品質視点

品質管理部門や工程管理者は、「IMUが何個不良を出したらOKか」といった検査指標だけでなく、ゴーグル全体の「現物維持性」にまで踏み込む必要があります。
IMUセンサーは非常に小型で繊細です。
そのため「ゴーグルにねじれ応力がかかった際、はんだ付けが外れやすい」「水分にギリギリ晒された時、バッテリー性能が飛躍的に劣化する」など、量産時の“隠れリスク”を炙り出す評価手法が重要です。

不良モード(FMEA)を想定して現場作業員にヒアリングを行い、いわゆる「手袋をして組付ける」「ワークの重心が少しずれる」現場特有のリアルな運用リスクを最初から潰し込めるかがOEMで再現性の高い生産を実現するカギとなります。

バイヤーが知っておくべきOEM開発のコツ

開発初期からベンダー側現場を巻き込む

バイヤーにとって重要なのは、IMU仕様書や要件定義を「自分たちの日本語」で止めず、ベンダーの開発・生産現場まで入り込んで「現物合わせ」できる協働体制を作ることです。
初回のサンプル段階からベンダー現場スタッフ・品質管理担当も交え、現場レビューや工程ウォークができれば量産上の“見落とし”を最小化できます。
このような泥臭い現場密着型マネジメントは今なお「アナログな日本のサプライチェーン力」として大きな武器です。

昭和型「現物管理力」を武器にする

「見て、触って、確かめる」。
昭和型と揶揄されることが多い日本独特の現物主義ですが、実はIMUセンサーのように新しい部材が混入する製品こそ現場の“作りこみ”がモノを言います。
帳票管理や現品票、手順書の徹底などはアナログに見えても品質の土台。
また「バラツキ許容」の基準設定では「経験値」と「データ」が融合した日本方式が優位に働きます。

例えば
・“試作現物”10個中の組立歩留り実測と、不良発生部位特定
・既存ゴーグル用治具での耐水チェック(意外とプロトタイプ穴あきリスク大)
こうした泥臭い検証手法もバイヤーからしっかりベンダーに要求することで、安易な「丸投げリスク」を回避できます。

IMU統合で未来を切り拓く:現場とデジタルの融合

統合データで実現する新たなトレーニング・サービス

単にフォーム分析に使うだけでなく、IMU+映像+クラウド解析の連携が進めば、コーチも選手も「自分の泳ぎのリアルタイムフィードバック」「成長履歴・改善傾向の可視化」が手軽に実現します。
今後はAI解析やビッグデータによる個別最適化コーチング、新規ユーザへのスマホ連携サービスなど、OEM+αの価値創出が期待されています。

アナログとデジタルの“ハイブリッド型ものづくり”が日本の強み

デジタルトランスフォーメーション(DX)の旗印の下、製造業の多くが「アナログからデジタルへ」と叫ばれています。
しかし現実は昭和型ものづくりの良さを活かしつつ、デジタル品質管理やIoT製品開発を掛け合わせる“ハイブリッド方式”こそが、品質とコスト、サプライチェーン最適化を両立できる日本型戦略だと考えます。

IMUのようなデリケートな新素材統合こそ、日本の現場経験や細かいプロセス設計力が活きるフェーズです。
世界と伍するためには、現場の知見とデータドリブン手法を有機的に繋げていくラテラルな発想力が問われています。

まとめ

スマートゴーグルOEMでIMUセンサーを統合する戦略は、単なるデバイス調達・仕様評価だけでなく、現場の現物管理力、泥臭い実地検証、アナログとデジタルの融合といった、今までの日本型ものづくり力を問い直す絶好の機会です。
市場環境や購買部門の意識改革、バイヤーとしての現場洞察力を掛け合わせ、IMU統合型ものづくりの新時代を切り拓いていくことが、製造業全体の生き残りと更なる発展のカギとなるでしょう。

製造業に従事する皆さま、サプライヤーの方々、ぜひラテラルな視点を持ち、昭和と令和を横断する「スマートものづくり」戦略を実践してみてください。

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