投稿日:2025年10月24日

紙おむつが柔らかくフィットする吸収体形成と不織布積層のプロセス

はじめに:紙おむつ製造の核心に迫る

紙おむつは、現代のライフスタイルに欠かせない消耗品になっています。
柔らかく、フィット感が良く、吸水性に優れるこの製品ですが、その裏側には驚くほど高度な製造プロセスと技術が隠されています。
とりわけ、中核部分である吸収体形成と不織布の積層技術は、快適さや品質に直結する重要な要素です。
この記事では、製造現場で経験したプロの視点から、紙おむつ製造における吸収体形成と不織布積層の最新プロセス、そして業界が抱える課題や今後の方向性について解説します。

吸収体形成の基本工程:時代とともに進化する技術

1. 吸収体の素材選定と混合比率の重要性

紙おむつの吸収体には、主にパルプと高分子吸収材(SAP: Super Absorbent Polymer)が使われています。
ここで重要となるのは、パルプの繊維長やミックス比、高分子吸収材の粒度、そして適切な分散技術です。
古くはパルプだけを使っていた時代もありましたが、吸収スピードやホールド力、厚みなどの改良のため現在はSAPが不可欠となりました。
バイヤーやサプライヤーは、この素材選定においてコストとパフォーマンス、そして例え僅かな異物混入でも重大な品質問題になることを十分認識する必要があります。

2. 原料投入から成形までのプロセス

材料は、巨大なミキサータンクで均一にブレンドされます。
ここで現場の熟練担当者は、埃や異物混入、静電気による材料の偏りなどを極力防ぐ工夫を凝らしています。
さらに、パルプやSAPを加圧空気で搬送しながら特殊な成形金型に噴霧・吸引させ、嵩高で弾性のある吸収体層が形成されます。
このプロセスは、ラインスピード、気流分布、金型の清掃状態など多くの因子に敏感で、昭和のアナログ管理から脱却できていない現場も少なくありません。

3. 加工・圧縮工程でのひと工夫

形成された吸収体は、圧縮ロールで所定の厚みに整形されます。
この工程では、吸収体が潰れすぎてしまうと吸水性が低下するため、最適な圧力管理が求められます。
長年のノウハウに頼りがちな分野ですが、デジタルロードセルやAI画像解析による厚み・密度の自動制御も急速に普及しつつあり、品質の安定化、高速化という点で新たな潮流が生まれています。

不織布積層技術の進化:やわらかさと強さの両立

1. 不織布の種類と性能評価

おむつの肌に触れる部分や側壁部分には、さまざまな不織布が使用されます。
代表的なものとしては、スパンレース、スパンボンド、メルトブローンなどがあり、吸水性・通気性・肌触り・強度といったバランスが重要です。
私の現場経験では、機能性重視であっても肌への優しさや風合い、加工性など現場目線の「使いやすさ」も重視されていました。

2. 積層プロセスの現場最適化

不織布はロール状で供給され、吸収体の上下・側面など必要な部分に熱接着や超音波溶着によって積層されます。
ここでの課題は、ラインスピードと積層精度の両立です。
昭和の時代は目視中心でテープ留めをしていたケースもあったものの、今ではセンサーや画像処理による自動監視、張力制御技術が標準装備されています。
しかし、ラインの微妙な変動、例えば湿度や原料ロットの違いによる伸縮など、現場では「カン」と「データ」の狭間で最適化作業を繰り返しています。

3. 新素材と積層技術のシナジー

ここ数年、バイオマス不織布やリサイクル原料、機能性樹脂の積層など新素材への切替えが顕著です。
新素材は加工条件がシビアなため、従来手法では欠陥やコスト増になりやすいのが実情です。
少量多品種への対応や、Version更新が頻繁なOEM対応の現場では、ダイナミックな積層ラインの自動調整が現場競争力の要となっています。

現場ならではの課題と革新ポイント

1. 異物混入・品質トラブルの防止対策

ユーザーが紙おむつに求める信頼性は絶対的です。
異物の混入や肌への刺激は、致命的なクレームにつながります。
現場では原料在庫の徹底管理や、混入リスクが低い設備構成・防塵対策が求められます。
加えて、トレーサビリティのためのデジタルデータ取り込み・ロット管理も業界標準になりつつあります。
しかし、依然として「人の目」に頼ったチェックも根強く、完全自動化への移行は一筋縄ではいきません。

2. 久しい組織風土の変革が生むブレークスルー

製造業の現場には、昭和から引き継いだ「熟練のノウハウ文化」が色濃く残っています。
それ自体が強みである反面、DX化やグローバル標準生産への移行を阻む壁にもなり得ます。
現場発のカイゼン活動、デジタル人財の登用、ペーパーレス化など、組織として現場改革に踏み切ることで、多くのメーカーが一皮むけつつあります。

3. バイヤー・サプライヤー間の摩擦と協業モデル

近年、紙おむつ市場は価格競争と品質競争が激化しています。
バイヤーはサプライヤーよりも歩留まりや納期、安定供給を強く求め、一方で現場サイドは技術的課題や限界点を抱えています。
本当に強い調達・製造システムの構築には、両者が「知見の共有」と「現場課題の共通理解」で歩み寄ることが必要不可欠です。
今は、図面や仕様書の外側にある「現場のリアル」をオープンに議論できる関係性が、競争優位のカギを握る時代です。

未来展望:デジタル化と真のユーザードリブン開発へ

紙おむつ工場の自動化やDXは、まだまだ進化の途中段階です。
先進的な現場では、AIによる品質監視や原料使用量のリアルタイム最適化、エネルギーマネジメントとの連携も始まっています。
今後は、使用者の生体データと連動した「全自動フィット最適化」や、「完全サステナブル原料への転換」など、新たな価値提供の時代が来るでしょう。
この流れの中でバイヤー・サプライヤー双方がリアルな現場課題を共有し、技術と人の力を融合したものづくりこそが、最も柔らかくフィットする“プロセス”だと考えています。

まとめ:現場視点でしか語れない紙おむつ製造の本質

紙おむつの吸収体形成と不織布積層は、一見シンプルながら奥深い製造技術の集積です。
単なるQA/QCの話ではなく、現場の観察眼、組織文化、バイヤー・サプライヤー間の信頼性、多方面のカイゼンが組み合わさって高品質な紙おむつが生まれています。
アナログ管理から抜け出せない現場も、現場のリアルを共有化できる“ラテラル思考”によって、次の時代のものづくりへ進化できるはずです。

製造業の皆さま、現場の声と時代の流れをかけ合わせ、より良いプロセス・製品開発を共にめざしましょう。

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