投稿日:2025年7月11日

はんだ接合部の強度評価と破面観察による信頼性向上手法

はじめに:はんだ接合部の信頼性が求められる背景

はんだ接合は、電子機器から自動車、重電装置まで、製造業のあらゆる分野で重要な役割を果たしています。
基板表面実装の進化やモジュール化の流れが加速する中、はんだ接合部の不良は即、機器全体の故障に直結するため、その強度評価と信頼性の確保が強く求められています。

昭和の時代から続くアナログ的な「職人技」に頼った実装では、属人化や現場ごとの差異が問題となってきました。
一方で近年は、AIやIoT活用による自動化、データドリブンな品質管理が普及し始めています。
しかし現実的には、多くの現場でアナログ的な工程とデジタル化の狭間で苦悩しているのが実情です。

本記事では、長年現場で培った知見を活かし、現場視点に立って、はんだ接合部の強度評価と破面観察による信頼性向上手法について深堀します。
既存の常識を拡張しつつ、昭和から続く課題と令和の新風が交錯する「いま」のものづくり現場に寄り添った課題解決策を提案します。

はんだ接合部の強度評価の基本とは

はんだ接合の役割と脆弱性

はんだ接合部は、部品と基板、あるいは金属パーツ同士を機械的・電気的に接合する役割を担います。
構造的には、異材接合や微細化が進むほど、内部に残る気泡や界面の脆弱性が増え、不良につながりやすいのが実情です。

はんだ接合部の強度低下の要因には、次のようなものがあります。
– 接合面の濡れ不良や酸化膜
– はんだ中のボイド(気泡)
– 部品・基板自体の設計や材料選定ミス
– 加熱プロファイルの不適合
– 長時間の熱サイクルや振動ストレス

従来は「うまくつける」「職人技でなんとかする」といった曖昧な品質基準もまかり通ってきましたが、市場における「品質ゼロトレランス」時代では、定量的な強度評価が不可欠です。

主な評価方法と現場での実践

製造現場でまず実施されるのは、「はんだ引張試験」「せん断試験」「クリープ試験」などの物理的評価です。
小型接合に適したマイクロ強度試験機を使い、JISやIEC、IPCといった標準規格に則った試験方法で数値データ化します。

たとえば表面実装部品の端子なら、X軸方向に一定速度で引張力・せん断力をかけ、破断時の最大荷重を記録します。
ここで注意が必要なのは、「測定値」だけを追い求めても現場課題は解決しない、という点です。
なぜなら実装現場では、実際の故障モードや疲労の仕方は多岐にわたるからです。

そこで重要となるのが、測定値の「ばらつき」や「経年変化」を数百点単位のサンプルで評価すること、環境ストレスや繰返し負荷を再現した状態で評価することです。
さらに近年では、非破壊評価手法としてX線CTを用いて、ボイドやクラックの内部観察も重要性を増しています。

破面観察が明かす“真の不良要因”とは

なぜ破面観察が必要か

はんだ接合部で強度不良や信頼性低下が起きた場合、その「見た目」を無視して単純な統計解析だけで済ませてしまうと、根本対策につながりません。
なぜ「ここで」「いつ」「どんな形で」異常破壊が生じるのかを解明するためには、破面、すなわち破壊後の断面を詳細に調べる必要があります。

破面観察では、以下のような点を観察し、分析します。
– クラックパターン(界面脱離、粒界破壊、はんだ内部破断など)
– 金属間化合物層(IMC)の発達状況
– 酸化膜や異物の有無
– 微細ボイドの分布
– マイクロ構造や結晶粒粗大化

これにより、「はんだ量過多によるすき間破壊」「熱疲労による界面割れ」「部品側濡れ不良による端子側破断」など、不良の根本原因が可視化できます。

金属組織観察・分析の現場実践

製造現場では実際に、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)を使って破面観察を行います。
昭和から続くアナログ技術でも、熟練者によるマクロ&ミクロの観察眼は大きな武器となります。
たとえば、「典型的な粒界割れパターンが繰り返し発生している=はんだ合金の選定ミス」「IMC層(Ni3Sn4等)が成長しすぎて脆性破断になっている=リフロー加熱条件または材料選定不良」といった具合に、不良対策の糸口が見えてきます。

一方で、百戦錬磨の技術者でも「経験則」に偏って判断ミスを起こすリスクも考慮しなければなりません。
近年はデジタル画像によるAI自動解析やビッグデータ解析も導入されており、「職人の眼」と「ロジカルな数値分析」のハイブリッド体制が精度向上の鍵となっています。

現場で根強く残る課題と令和流・最新手法

昭和の「アナログ評価」からの脱却と現実

自動化やDXが叫ばれて久しいですが、はんだ付け現場の最前線では「熟練者頼み」「手書き記録」「手作業サンプリング」が依然として残っています。
特にリードタイム短縮や多品種少量生産の現場、カスタム対応が求められる中小サプライヤーでは、前時代的な“泥臭い”評価法も根強く生き残っています。

これは決して悪いことではなく、例えば「手ごたえ」「色ムラ把握」「音・におい」といった、官能評価による早期異常検知は、AIにもまだ置き換えられない貴重なノウハウです。
しかしこうした暗黙知・属人性ばかりに依存した体制は、不良流出や再発防止トレーサビリティの観点から限界を迎えています。

最新の評価技術と「業界横断型」知見活用の重要性

近年導入が進むのは、以下のような新技術、新手法です。
– 画像認識AIによる自動外観検査と破面自動分類
– X線CT、超音波イメージングによる非破壊観察
– 詳細なデータ記録による経年劣化モニタリング
– クラウド連携でのビッグデータ解析による予知保全

また、これらの情報を設計、生産管理、調達・購買、品質保証までをつなぐ「業界横断型」プロセス改善が鍵となります。

現場で得た破面観察データや強度試験データを、設計初期の部品選定や購買仕様書作成の根拠としてフィードバックすることで、サプライチェーン全体の信頼性が高まります。
また、「他社現場での典型的不良事例」「調達先ごとの特徴的な破断パターン」などの横展開も、業界全体のレベルアップには欠かせません。

サプライヤーとバイヤーの“視点融合”が信頼性向上のカギ

バイヤーに求められる「真の品質目利き力」

部品調達担当(バイヤー)は、これまでは「コスト優先」「納期死守」的なKPIに追われがちでした。
しかし、IoT時代のサプライチェーンマネジメントでは、「調達仕様=現場での強度・信頼性スペック」と直結します。

バイヤーが現場の強度評価・破面観察プロセスを深く理解しておけば、調達先に対して「どのような接合条件で試験・観察し、合否を判断しているのか」を具体的にヒアリングできます。
また、自社現場で想定されるストレス(温度サイクル、振動、実使用負荷)に合った評価試験仕様の提案も、技術者主導で行えるようになります。

価格条件やリードタイム交渉だけでなく、「破面観察を通じた潜在的リスクの検出とDMAIC的なプロセス改善提案」など、品質目利き力が問われる時代です。

サプライヤーが知るべき「バイヤーの本音」と品質アピール法

サプライヤー側としては、単なるスペック提示ではバイヤーの信頼を勝ち取れません。
「強度試験成績書」や「破面観察レポート」に基づいた【論理的・具体的な品質説明】が重要になります。

たとえば、同業他社品との比較評価、自社の厳格な評価手順、過去の不良流出事例と改善策――その全てを部品提案の中に盛り込むことが、「調達リスクの低減」という購買担当側の本音ニーズにつながります。
また、現場間の壁を越えて品質情報を共有し合うことで、良い意味での「現場参画型の品質保証」が実現します。

結論:成熟産業でも“進化の余地”は無限大

はんだ接合部の強度評価と破面観察は、今もなお昭和から続く懐かしさと、最先端のデジタル技術が交錯する産業の縮図です。

属人技術やアナログ伝承にも一定の価値は残る一方で、IoT・AI・自動化による“科学的な品質追求”が今後ますます求められます。
現場目線での手触り感を大切にすることと、客観的・定量的な指標に基づく新しい信頼性マネジメントの両立――。
どちらもバイヤー・サプライヤー両者に不可欠なマインドであり、業界自体が新たな地平線へ進化していくための必要条件です。

製造現場で今なお悩む管理職・技術者のみなさん、業界未経験でこれから挑戦する若手バイヤーのみなさん、それぞれが「視点融合」の時代を実践し、はんだ接合信頼性の最前線を共に高めていくことが、製造業発展の源泉だと考えます。

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