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音質評価指標で心地よさを創るサウンドデザインと製品応用

目次
はじめに:音質評価が製品価値を左右する時代
近年、製品の性能や機能だけでなく、使用時の「心地よさ」や「感性価値」が重視される時代に突入しています。
特に、車載・家電製品・産業機器など“音”を発する多くの製品開発において、「音質」が製品選定やブランドイメージ、ユーザー満足度にまで直結する重要な指標になっています。
しかし、製造業の現場を見渡すと、音の評価や管理に対して未だに「勘と経験」といった昭和的アプローチが根強く残っているのも事実です。
この記事では、20年以上の製造現場経験を踏まえ、現場目線で音質評価指標の活用がいかにサウンドデザインや製品価値向上につながるかを、具体例や最新動向も交えながら解説します。
音質評価とは何か?従来との違い
単なる騒音管理から“心地よさ”重視へ
従来、製造現場の「音」といえば主に、“騒音レベル(dB)”の低減が主眼に置かれていました。
例えば、モーターやファンの音、機械の作動音――これらを「基準値以下に抑えればよい」という考え方です。
しかし、それだけではユーザーが「いい音」「心地いい音」と感じるかどうか、製品に独自性や付加価値を持たせられるか――という観点がすっぽり抜け落ちていました。
音質評価指標とは、「音の大きさ」だけでなく“音の質感”“印象”“聞き心地”といった人の感性に訴える要素も数値化・定義したものです。
最近では以下のような指標が重視されています。
- ラウドネス(音の大きさの主観評価)
- シャープネス(音の鋭さ・シャープ感)
- ラフネス(音のざらつき度合い・不快成分)
- フラクションバランス(高低・中音域のバランス)
- フルネス(音の豊かさ、厚みの印象)
こうした指標を使うことで、同じ分解能や響きでも「高級感」「やすらぎ」「信頼感」を定量評価できるようになりました。
なぜ、今“音質評価”と“サウンドデザイン”が重要なのか?
ユーザー体験(UX)とブランド価値を左右する「音」
代表的な自動車メーカーを例に挙げましょう。
ドアの閉まる音、エンジン・モーター音、操作音――これらは従来、「静かであれば良い」と考えられていました。
しかし、最近は高級ブランドの車両ほど、「ドアの音」に重厚感や安心感、信頼感を持たせるなど、サウンドデザインに力を入れています。
たとえば、EVではエンジン音が消えたことで“静かすぎて不気味” “速さを感じない”という声が出るため、あえて加速時に擬似エンジン音や低域の重厚なサウンドを設計し、“走る楽しさ”や“パワフルさ”“安心感”を感じさせる工夫をしています。
また、家庭用機器やオフィス機器でも、プリンターや扇風機の作動音が「耳障り・不快」と感じられると、その製品の評価自体が下がります。
逆に、音質評価指標を活用し「心地よさ」を追求した設計により
- 高級感・信頼感の演出
- 他社との差別化(ブランドポジショニング)
- クレームや使用ストレスの減少
- 長く愛用したくなるユーザー体験
が実現し、市場で選ばれる製品となります。
音質=製品価値・ブランドバリューの一部として確立されつつあるのです。
現場での音質評価の進め方:アナログ脱却への道
“勘と経験”から“科学的・客観的評価”へ
工場や現場管理で長年根強い昭和的文化が、「音」の分野です。
「ベテランが聞いて問題なしと言えばOK」「とにかく音が小さければいい」――こうした考えは未だ根強く、スペック表や検査項目にも反映されていない現場も多いのが実情です。
ですが、取引先や消費者の意識の変化、そしてデジタル技術の進展により、下記のようなステップを踏んだ管理・設計が求められるようになっています。
- ①音の「感じ」に関する意見収集(アンケート、ユーザインタビュー)
- ②音質評価指標(ラウドネス・シャープネス等)による定量解析
- ③ターゲット音質の設定(コンセプト・目標値の明文化)
- ④検査工程の自動化・デジタル化(AI判定・マイクロホンセンサーの導入)
- ⑤改善活動(PDCA)と“音質マスターデータ”の蓄積活用
特に、SQC(統計的品質管理)やIoT活用の文脈でも、音データの自動収集・解析ツールの導入が進み始めており、新時代の品質管理手法の一つとして確立しつつあります。
サウンドデザイン実践例:現場のラテラルシンキングとは
ドア音・クリック音・冷蔵庫の“鳴り”など多様なフィールド
従来、サウンドデザインと聞くと「音のプロがやるもの」「開発部門の特殊な領域」と思われがちですが、実は生産・品質・調達現場こそ発想を広げるチャンスがあります。
たとえば、某自動車メーカーでは
- ドアの閉まる音に対し、鉄板・シーリング材の材質や厚み、締結トルク、さらにはドア内部の空間音響設計、制振材のベタ付け位置まで変化させて繰り返し評価
- 作業員やオーナー、女性・高齢者など多様なパターンで“どんな閉まり方が心地いいか”主観評価と数値データを組み合わせて最適解を追求
としてきました。
また、PCのキーボードや家電のクリック音でも、部品の材質・構造・バネの強さ・押下圧・振動吸収部材といった条件を複合的に設計し、「指に伝わる振動」「響き方」「余韻」を徹底的に突き詰める現場も増えています。
昭和的な「音は副次的な要素」と切り捨てる発想から、“感性品質の重要性”に目覚めた現場こそ、ラテラルシンキングによる新たな地平を切り拓けるのです。
調達・バイヤー視点で音質評価を意識すべき理由
取引先・サプライヤーに求められる「音質品質」の新基準
これまで材料・部品の購買や調達現場では「コスト」「納期」「性能規格」が最大の関心事でした。
しかし最近は完成品メーカーから、「このサプライヤーのギア音は不快だ」「海外他社のほうが静かな部品を出してきた」という評価が入ることが増えています。
バイヤーや調達担当者は、単純な性能・価格比較だけでなく
- 音質評価指標の考え方を理解し、サプライヤー評価に音質項目を加える
- 求める音質ターゲットや不快音『NG事例』を明確に伝えられる体制づくり
- 開発・技術・生産管理部門と連携して音質問題(クレーム・リードタイム悪化)の“見えないコスト”を明確化
などが今や競争力の源泉となります。
また、サプライヤーの立場でも
「どういう音質を目指せばいいのか?」「何をもってユーザー満足なのか?」という迷い・ブラックボックスを解消しやすくなり、信頼関係の構築につながるでしょう。
昭和アナログ文化からの脱却:音質指標導入のハードルと処方箋
現場が抱える課題&乗り越えるためのヒント
音質評価指標やサウンドデザイン施策の導入に際し、多くの現場では
- 人手・工数・コストが増える
- 初期評価も主観に依存しがちで納得できない
- 『耳が肥えたベテラン』vs『数値管理派』の世代ギャップ
といった課題が顕在化します。
ですが、以下の点を押さえることでスムーズな導入・運用が可能です。
- 音質の主観評価と客観評価を「両輪」で進め、納得感ある基盤作りに注力
- ベテラン作業員の知見や五感もデータとして集約・活用し、現場の暗黙知を数値化する“見える化”施策を推進
- 既存の品質管理(SQC・生産工程管理)に音質項目を組み込むことで、現場内での重要性認識を高める
- IoT・AI技術による計測・データ化、サンプリング自動化の活用で現場負担を軽減
今後の展望とまとめ
音質評価指標とサウンドデザインは、まさに製造業が「昭和の勘と経験」から「感性品質・UX主導の次世代ものづくり」へパラダイムシフトしていく象徴的なコンセプトです。
現場目線で、“音”を単なる雑音・副次的要素と捉えず、製品価値を決める「心地よさ」、「差別化ポイント」として据える和魂洋才的な感性と、データ活用・デジタル技術を組み合わせていくことがこれからの業界スタンダードとなるでしょう。
音質設計・評価活動は悩みも多い分野ですが、同時に現場を知る方・購買やサプライヤーの皆さんにとっても新しい価値創造・競争力アップの源泉となります。
製造業の現場と未来を担う皆さん自身が、音質評価とサウンドデザインの可能性を再発見し、実践の輪を広げることで業界全体の進化が加速していくことを期待しています。
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