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IP 等級を買う部品に指定するとき——JIS C 60529 への移行と試験条件・判定

この記事のポイント(結論先出し)
IP 等級の JIS は 2026 年 1 月に JIS C 0920 が廃止され、JIS C 60529 に置き換わった[1]。仕様書の規格番号を見直す時期である。そのうえで、IP コードは数字だけでは発注の条件にならない。第二特性数字は 6 以下なら下位の等級を含むが、IPX7 や IPX8 は噴流(5・6)に耐えることを意味しない。両方が要るなら「IPX5/IPX7」のように併記する[1]。IPX8 の水深と時間、試験後にどれだけの水の浸入を許すか、試験時に通電・動作させるかは、規格が個別の取り決めに委ねている[1]。さらに、外郭だけを買う場合は、中に機器を組み込んだ最終製品の製造業者が等級を保証すると規格は定めている[1]。仕入先に「IP67」と書くだけで終わらせず、数字の組合せ・試験条件・判定・変更時の再試験まで決める。
目次
JIS の番号が変わった:JIS C 0920 から JIS C 60529 へ
電気機器の外郭による保護等級、いわゆる IP コードの日本の規格は、長く JIS C 0920 だった。日本産業標準調査会の JIS 検索では、JIS C 60529(電気機械器具の外郭による保護等級(IP コード))が 2026 年 1 月 20 日に制定され、その規格票のまえがきに「JIS C 0920:2003 は廃止され、この規格に置き換えられた」と書かれている[1]。JIS C 60529 は、IEC 60529:1989 と、1999 年の追補 1、2013 年の追補 2 を基に、技術的内容を変更せずに作られた規格で、対応の程度は IDT(一致)である[1]。IEC 側でも、この三つを一体にした版が販売されている[2]。
発注側にとっての実務は二つある。一つは、仕様書・図面の規格番号を JIS C 60529 か IEC 60529 に書き換えること。もう一つは、仕入先の試験報告書が JIS C 0920 や IEC 60529 のどの版で試験したものかを確かめることである。JIS C 0920:2003 は IEC の追補 2(2013 年)より前の規格なので、それを前提にした社内文書は、今の規格の書き方とずれている可能性がある。数字の意味は、旧規格 JIS C 0920 の時代に書いた防水・防じんの IP コードの考え方やIEC 60529 の IP 規格を現場目線で理解するでも扱っている。この記事は「買う部品にどう指定するか」に絞る。
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数字の読み方で、発注の食い違いが起きる点
IP コードは「IP」の後に第一特性数字(0〜6)と第二特性数字(0〜9)を並べ、必要なら付加文字(A〜D)と補助文字(H・M・S・W)を付ける[1]。片方の数字を適用しない場合は「X」を使う(例:IPX5、IP2X)[1]。規格は、保護等級を数字で指定し、要約や定義の文章を引用して指定してはならないとしている[1]。仕様書に「防水形」「防じん形」と言葉で書くのではなく、数字で書くということである。
食い違いが起きやすいのは、大きい数字が小さい数字を含むかどうかである。第一特性数字は、指定された等級より下の等級すべてに適合することを示す[1]。第二特性数字も、6 以下であれば下位の等級すべてに適合することを表す[1]。しかし 7・8(潜水)と 9(高圧・高温水噴流)は別の扱いで、噴流と潜水の両方に耐えることを示すには「IPX5/IPX7」「IPX6/IPX8」のような多重表示にする[1]。規格は IPX7・IPX8・IPX9 だけの表示を「限定用途形」と呼び、試験した条件だけに適合しているとみなすとしている[1]。
つまり、「水中に沈めても大丈夫な IPX7 なら、ホースで水をかけても大丈夫」とは言えない。部品が洗浄や雨で噴流水を受け、さらに水没の可能性もあるなら、仕様書には「IPX5/IPX7」と書く。主な等級の試験の要点は次のとおりである[1]。
| 第二特性数字 | 保護の内容(要約) | 試験の要点 | 下位を含むか |
|---|---|---|---|
| 1 | 鉛直に落下する水滴 | 鉛直の滴水、10 分間 | — |
| 2 | 15°以内の傾斜時の水滴 | 15°傾けた状態での滴水 | 含む |
| 5 | 噴流 | 細いノズル(6.3 mm)からの噴流 | 含む |
| 6 | 暴噴流 | 太いノズル(12.5 mm)からの強い噴流 | 含む |
| 7 | 一時的潜水 | 水面下に沈めて 30 分間(深さは製品の高さで決まる) | 含まない(5・6 は併記が要る) |
| 8 | 継続的潜水 | 条件は受渡当事者間の協議(7 より厳しく) | 含まない(同上) |
| 9 | 高圧・高温水噴流 | 80 ℃の水を近距離から噴射 | 含まない(5〜8 は併記が要る) |
規格の表から一部の等級と要点を抜き出した。流量・距離・時間などの条件の全体は JIS C 60529 を参照のこと。
IPX8 は特に注意が要る。規格は継続的潜水の試験条件を受渡当事者間の協議とし、その条件を IPX7 より厳しくすることだけを決めている[1]。表示についても、最大潜水深度と最大潜水時間を明示する場合の表示方法を個別製品規格で定めるのがよいとしている[1]。仕入先のカタログに「IP68」とあれば、何 m・何時間の条件で試験したのかを必ず確かめ、自社の使い方と比べる。
IP コードが保証しないもの
IP コードの試験に使う水は真水である。規格は、溶剤や、第二特性数字 9 の条件から外れた高圧・高温水噴流で洗浄する場合には、実用上の保護が不十分なことがあるとしている[1]。さらに適用範囲で、機械的衝撃、腐食、腐食性の溶剤(例として切削液)、かび、昆虫、日射、氷結、凝縮による水滴、爆発性雰囲気に対する保護は、各個別製品規格で規定する事項だとしている[1]。
工作機械の周りで切削液を浴びる部品、薬液で洗う食品機械の部品、屋外で日射と結露を繰り返す部品では、IP コードを満たしても使用条件を満たすとは限らない。こうした条件は IP コードとは別の項目として仕様書に書く。たとえば、使う切削液や洗浄剤の名称・濃度を示し、パッキンやケーブルの材料がそれに耐えるかを確かめさせる(当方の提案)。シール材の材質の指定はO リング・ガスケットの発注の記事、腐食への耐性を試験で確かめる方法は塩水噴霧試験を仕様に入れるときの記事で扱う。
防じんについても同じことが言える。IP5X・IP6X の試験は、規定の網を通るタルク粉を試験室内に浮遊させて行う[1]。電気・電子製品の砂じん試験を定める JIS C 60068-2-68 は、旧 JIS C 0920 の粉じん試験が自らの方法の一つ(La2)と同等であると注意書きしたうえで、粉じんの侵入のほかに、接触不良などの電気的特性の変化、可動部品の動きへの障害、表面の摩耗、光学部品や潤滑油の汚れ、換気口やフィルタの目詰まりといった影響を調べる試験群を定めている[4]。IP6X は「粉じんが入らない」ことの等級であって、砂による摩耗や可動部への噛み込みまで保証するものではない。そうした影響が問題になる部品は、砂じん試験を別に指定する。
試験の条件を決める:誰の、どの状態で試験するか
形式試験であること
JIS C 60529 の試験は形式試験であり、個別製品規格に規定がない限り、各部を製造業者が示す状態に取り付け、清浄で新品の状態のものを使う[1]。試験時の大気の状態は、個別製品規格に特に規定がない限り JIS C 60068-1 の標準状態(温度 15 ℃〜35 ℃、相対湿度 25 %〜75 %、気圧 86 kPa〜106 kPa)とされている[1][5]。言い換えると、IP の試験結果は「新品を、指定の取付け状態で試験した」ものであり、量産の一つひとつを検査した結果ではない。
このため発注側は、形式試験の後に何が変わったら再試験するかを決めておく必要がある。パッキンの材料や硬さ、ねじの締付けトルク、ケーブルグランドの型番、筐体の合わせ面の加工が変わると、防水性は変わりうる。仕様書には「これらを変更する場合は事前に連絡し、必要なら IP の試験をやり直す」と書いておく(当方の提案)。
個別製品規格に委ねられている条件
規格は、被試験品の個数、取付け・組立・位置決めの条件、前処理、通電状態で行うかどうか、動作状態で行うかどうかを個別製品規格で規定するとし、規定がなければ製造業者の取扱説明書を適用するとしている[1]。補助文字 M(可動部を動かした状態で試験)と S(停止した状態で試験)がない場合は、動作と停止の両方の条件で試験する(どちらかの試験で他方への適合が明らかな場合を除く)[1]。
第一特性数字 5 の試験では、外郭を、熱サイクルなどで内部が外気に対して負圧になる「カテゴリー1」と、気圧差がない「カテゴリー2」に分け、試験方法を変える。個別製品規格でカテゴリー2 と規定していない場合はカテゴリー1 とみなす[1]。発熱する機器を収める筐体は、運転と停止を繰り返すと内部が負圧になって粉じんを吸い込みやすい。どちらのカテゴリーで試験したかを報告書で確かめる。
水抜き孔と、取付け状態
水抜孔と通気孔の扱いは個別製品規格で規定する[1]。また、設置状態によって保護等級が異なる場合は、製造業者が技術資料などで設置条件ごとに保護等級を明示しなければならない[1]。コネクタのように、嵌合した状態と外した状態で等級が違う部品、壁付けと床置きで水の入り方が違う機器は、どの状態の等級なのかを仕様書とカタログの両方で突き合わせる。コネクタの調達で確かめる項目はコネクタの調達の記事で扱う。
判定を決める:「水が入らないこと」とは限らない
規格は、試験後に外郭の内部に水が浸入しているかを観察するが、浸入する水の許容量と耐電圧試験の条件は個別製品規格の取決めによるとしている[1]。一般的な判断としては、水が入った場合に、①内部機器の正常な動作と安全を阻害するおそれのある量である、②沿面距離を確保した絶縁物の表面にトラッキングを生じるおそれのある水が付着する、③濡れた状態で運転するよう設計していない充電部や巻線部分まで水位が達する、④電線の近くや電線の導入孔に水がたまる、のいずれも示してはならないとしている[1]。
つまり、規格の一般的な判定は「有害な量の水が入らないこと」であって、「一滴も入らないこと」ではない。基板が露出した製品や光学部品など、わずかな水でも困る部品なら、浸水を一切認めないのか、どこまでの付着を認めるのかを仕様書に書く。試験中に外郭内で結露することがあり、それを水の浸入と間違えてはならないとも規格は書いている[1]。判定の写真と、内部のどこを見たかを報告書に入れてもらうと、後から確かめられる(当方の提案)。
部品として買う外郭と、最終製品の責任
筐体やケースだけを仕入先から買い、自社で中に基板を組み込む場合、規格は次のように線を引いている。内部に電気機器を置かずに外郭を試験する場合は、外郭の製造業者が、危険な箇所や水・固形物の浸入で影響を受ける部分の位置関係と空間距離を技術資料や取扱説明書に明記しなければならない。そして、外郭内部に電気機器を組み込む製造業者(その製品の最終製造業者)は、完成後に外郭に明示された保護等級に適合することを保証しなければならない[1]。
「IP67 の筐体を買ったから、製品は IP67」とはならない。ケーブルの引込み、ボタン、表示窓、ねじの締付けなど、組込みの工程で等級は変わりうる。自社の製品として等級を表示するなら、最終の状態で試験するか、少なくとも組込み条件(締付けトルク、パッキンの向き、使うケーブルグランド)を外郭の仕入先の資料に合わせて決める。ワイヤーハーネスの引込み部の指定はワイヤーハーネスの発注で指定することの記事を参照してほしい。
自動車の電装品では、別の規格が使われることがある。ISO 20653:2023 は、道路車両の電気機器の外郭による保護等級(IP コード)について、等級の表示と定義、等級ごとの要求事項、適合を確かめる試験を規定している[3]。顧客の要求書がどちらの規格を引いているかを確かめ、仕入先に同じ規格で試験させる。
発注書・仕様書に書くこと
買う部品に IP 等級を求めるときは、次の項目を書く(当方の提案)。
- 規格と版(JIS C 60529:2026 か IEC 60529、車載なら ISO 20653 か)
- IP コード(第一・第二特性数字。噴流と潜水の両方が要るなら多重表示)
- IPX8 なら水深と時間
- 試験時の状態(取付け・向き・嵌合の有無、通電・動作の有無、第一特性数字 5 のカテゴリー)
- 判定(水の浸入を認めるか、認める範囲、耐電圧試験の有無)
- IP コードの対象外の条件(切削液・洗浄剤・日射など)を別の項目として
- 試験の報告書(試験所、試験日、写真)と、変更時の再試験の条件
これらを発注のときに書いておかないと、量産が始まってから「念のため IPX8 でも試験してほしい」「浸水は一滴もだめ」と求めることになる。それは基準を後から厳しくすることにあたるので、試験の追加は次の発注分から適用するか、費用と納期を合意してから行う。電気用品安全法の対象になる製品なら、法令上の技術基準との関係も確かめる。その手順は電気用品安全法の対象部品を調達するときの記事で扱っている。
よくある質問
Q. カタログに IP67 と書いてある部品なら、そのまま屋外で使えますか。
それだけでは判断できない。IP67 は真水での粉じんと一時的潜水の試験に適合したことを示すが、日射、氷結、腐食、凝縮による水滴への保護は IP コードの対象外である[1]。また IPX7 は噴流への適合を含まないので、雨や洗浄の噴流水を受けるなら IPX5/IPX7 などの併記を確かめる[1]。
Q. 仕様書に「JIS C 0920 IP65」と書いたままです。直す必要はありますか。
JIS C 0920 は 2026 年 1 月 20 日の JIS C 60529 の制定とともに廃止された[1]。新規の発注や改訂の機会に、JIS C 60529 または IEC 60529 に書き換える。既に試験済みの部品は、どの版で試験したかを記録に残しておく。
Q. 量産のロットごとに IP の試験をさせるべきですか。
規格の試験は形式試験である[1]。量産では、防水に効く工程(パッキンの装着、締付けトルク、シール材の塗布)を工程内で管理させ、材料や工程を変えたときに試験をやり直す、という形が現実的である。完成品の気密を工程で確かめたい場合は、その方法と判定の線を別に決める。
Q. IP6X の部品なら、砂ぼこりの多い現場でも問題ありませんか。
IP6X の試験はタルク粉の侵入を見るもので、砂による摩耗や可動部の噛み込みは評価の対象ではない。そうした影響は JIS C 60068-2-68 の砂じん試験で別に評価する[4]。
まとめ
IP コードの JIS は 2026 年に JIS C 60529 へ移った[1]。発注では、数字の組合せ(特に 7・8・9 は下位を含まないこと)、IPX8 の条件、試験時の取付け・通電・動作、浸水の許容と判定、IP コードの対象外の条件を書き分ける。外郭だけを買う場合は、組み込んだ製品の等級を保証するのは最終製造業者である[1]。形式試験の後に材料や工程を変えるときの連絡と再試験まで、発注の段階で決めておく。
出典・参考資料
- JIS C 60529:2026 電気機械器具の外郭による保護等級(IP コード)(JIS 検索)(日本産業標準調査会/2026 年 1 月 20 日制定)
- IEC 60529:1989+AMD1:1999+AMD2:2013 CSV Degrees of protection provided by enclosures (IP Code)(国際電気標準会議(IEC))
- ISO 20653:2023 Road vehicles — Degrees of protection (IP code) — Protection of electrical equipment against foreign objects, water and access(国際標準化機構(ISO)/2023 年 8 月発行)
- JIS C 60068-2-68 環境試験方法-電気・電子-砂じん(塵)試験(JIS 検索)(日本産業標準調査会)
- JIS C 60068-1:2013 環境試験方法-電気・電子-第 1 部:通則及び指針(JIS 検索)(日本産業標準調査会)
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