投稿日:2025年10月28日

フィットネス業が自社ブランド水筒を作るためのステンレス加工と塗装管理

はじめに:フィットネス業の自社ブランド水筒市場への挑戦

近年、フィットネス業界は大きな転換期を迎えています。
従来のサービス提供型ビジネスだけでなく、オリジナル商品を展開しブランディングや収益強化につなげる動きが加速しています。
その中でも「自社ブランド水筒」の企画・製造は、フィットネスブランドの世界観や顧客ロイヤリティの向上に直結する重要な取り組みです。

特に、健康志向の高まりと環境配慮のトレンドから、長く愛用でき、リユース可能なステンレス製水筒へのニーズは拡大しています。
しかし、水筒の開発には「ステンレス加工」と「塗装管理」という、製造業ならではの専門ノウハウが欠かせません。

本記事では、現場経験に根ざした実践的な視点から、フィットネス業が自社ブランド水筒を成功させるためのステンレス加工と塗装管理の勘所、調達・購買時のポイント、さらにバイヤー・サプライヤーの視点も交えて解説します。

自社ブランド水筒は“ただのOEM”では成功しない

「選ばれる水筒」に必要な差別化要素

日本国内の大手水筒メーカーは、すでに多様なOEM/ODM製品を提供しています。
「既存品にロゴをプリントするだけ」では消費者の心には響かず、市場での差別化は困難です。

フィットネスブランド独自の価値を反映するには、
・独自の持ちやすさや飲みやすさ、軽量化
・耐久性や美しさを保つための特殊な表面処理
・ブランドカラーや質感表現に徹底的にこだわった塗装
など、設計段階から一歩踏み込んだ差別化が求められます。
その核となるのが、原材料・成形・溶接・研磨・塗装といった各工程の最適化です。

昭和型調達からの脱却:「言われた通り」から「共創型」へ

依然として昭和時代さながらの「カタログから選ぶだけ」「見積もり一発勝負」的な購買活動が続いている現場も多いのが実情です。
ですが、ブランドビジネスで成功するには、設計者・バイヤー・サプライヤーがワンチームとなり、繰り返し試作・検討を重ねる“共創型プロセス”が求められます。
これがフィットネス業の既存ビジネスモデルにはない「ものづくり力」を巻き込む、新たな地平線です。

ステンレス加工のキーポイント:耐久性と美観の両立

ステンレス素材の選定:SUS304?SUS316?フィットネスブランドに合うのは

水筒本体に使われる主なステンレスはSUS304とSUS316です。
SUS304はコストバランスに優れ、国内製造ラインでも実績豊富です。
一方、SUS316は塩分・酸性耐食性が高く、アウトドアやハードなスポーツ利用にも耐えるため、付加価値の高いブランド水筒には適しています。

フィットネスシーンを想定した場合、「汗成分に対する耐食性」や「繰り返し洗浄への耐久力」など、実用性能にも十分な配慮が必要です。
ユーザーの利用シナリオを具体的に定めて材料グレードを選ぶことが、長期的ブランド価値の維持に直結します。

成形・溶接・研磨の工程管理:実用低コストの罠とベストバランス

単純な外観だけでなく、「内面の滑らかさ」や「溶接部の強度とサニタリー性」も重要です。
国内外の製造現場を比較すると、内面研磨(バフ仕上げ)の質がその後の品質トラブル(サビ、におい移り、異物混入)の発生率を左右するケースを多く見てきました。

コスト削減を重視しすぎると、溶接不良・スケール取り残し・研磨不具合が商品リコールの原因となりかねません。
バイヤーは、納品前に「成形・研磨工程の現場視察」や「第三者による表面検査」を標準化することで、長期的なトラブル回避につながります。

塗装管理の肝:ブランドカラー再現と摩耗テストの徹底

塗装方法による質感・耐久性の違い

水筒に使われる主な塗装方法は、
・粉体塗装(パウダーコート)…環境負荷の低減、厚膜形成が可能
・焼付塗装…耐摩耗性が高く、カスタムカラーにも対応しやすい
・蒸着(PVDコーティング)…金属質感の表現に強み
など多岐にわたります。
フィットネスブランドが目指す“手になじむ質感”や“鮮やかなブランドカラー”を、コストや量産性と両立させる最適工法を選ぶ目利き力が、バイヤーの真価です。

摩耗・衝撃・汗による変色リスク管理

スポーツや日常利用では、落下・こすれ・汗成分の付着など、多様なダメージが塗装面を襲います。
このため、下記のような試験を製品仕様書の段階で設定してください。

・摩耗テスト(スチールウール1000回転など)
・耐塩水噴霧試験(48時間)
・紫外線照射試験(褪色・変色)

これらを、OEM先任せにせず、「現場で実際にサンプルを評価・義務化」することで、リリース後のブランドイメージ低下を防げます。

バイヤーに求められる現場力とサプライヤーとの連携

調達先は「つながり」で選ばず、技術スペックで選ぶ

昭和型の「知人紹介」「前例踏襲」でサプライヤーを選ぶやり方は、差別化競争の現在では致命的です。
バイヤーが押さえるべきは、「加工工程のデモができるサプライヤー」「第三者機関の認証取得」「工程ごとのトレーサビリティを開示」できる実力派企業を見極めることです。

また、工程ごとに外注比率が増えやすい海外調達では、現地視察やサンプル検査の頻度を上げ、品質維持体制を現実的にコントロールできるかを見極める必要があります。

仕様の「握り」がブランド価値の分かれ道

水筒のような“見た目重視”のアイテムであっても、単なるイメージ共有やカラー指定で終わらせるのは危険です。
塗装の色番号(PANTONE指定など)、膜厚、摩耗試験方法、ステンレス内面のラフネス値など、「エビデンスの取れる仕様」をドキュメント化しサプライヤーと握ることで、後々の取引トラブル防止になります。

現場にありがちな「付き合いだから」「長年やってきた実績だから」だけで管理を簡略化すると、いざというとき、自社ブランドの信頼を大きく損なうことにつながりかねません。

サプライヤー目線:バイヤーの「意図」を先読みして提案力を高める

サプライヤーとして競争に勝つには、「言われた通り作る」だけでない“顧客ブランドに寄り添った提案型営業”が重要です。
例えば以下のような付加価値提案が、高評価につながるポイントです。

・実際の使用シナリオ(ジム、アウトドア、日常使い)に応じた最適な素材/塗装のサンプル提供
・フィットネス顧客の洗浄習慣に対応した高耐久コート剤の紹介
・小ロット多品種対応の生産体制を設計〜提案

こうした事前提案が、ブランド側の“期待を超える商品づくり”の原動力になり、お互いの信頼関係強化につながります。

まとめ:現場最前線から見る「ものづくりブランド」の成否を分ける視点

フィットネス業が自社ブランド水筒という新領域に進出する場合、「ステンレス加工」と「塗装管理」は単なる外注作業にとどまりません。
商品開発の最初期から設計者・購買・サプライヤーが一体となり、実際の利用シナリオ・ブランドビジョンを落とし込んだ試作・評価・改良サイクルを繰り返すことが、他社品と大きな差をつける原動力となります。

今、昭和的な付き合いや表面的な仕様伝達から脱却し、日本の製造業が持つ「現場主義」「品質主義」の強みを活かした“共創型ものづくり”に舵を切ること。
それが、サプライチェーン全体の発展と、フィットネス文脈に根ざした真のブランド価値創出につながる道です。

現場目線を持つバイヤー・サプライヤーの皆さまが、ぜひこの新しいものづくりの時代をけん引する主役となっていただきたいと考えています。

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