投稿日:2025年8月16日

ねじゆるみ対策をトルク管理に統一し接着剤を削減する締結標準化

はじめに:製造業現場における締結課題と現状

製造業現場では、製品の品質を左右する重要な要素として「締結部品のゆるみ対策」が挙げられます。

特にねじのゆるみは、製品事故やクレーム、不具合発生の大きな原因となることが多く、現場担当者や管理者にとって頭の痛い問題です。

日本の製造業は、長きにわたり「ボンド頼み」「増し締め」などアナログなゆるみ対策を行ってきました。

しかし、グローバルな競争激化と共に「コストダウン」「作業の自動化」「トレーサビリティ」などのニーズが高まり、従来のやり方では対応しきれない時代になっています。

ここでは、現場目線でねじゆるみ対策の課題を洗い出し、トルク管理というシンプルかつ強力な手法への統一、そして接着剤依存からの脱却について解説します。

現場でよくあるねじゆるみ対策の苦悩

なぜ「接着剤頼み」「追い増し締め」がなくならないのか

多くの現場では「ゆるみといえばロックタイトに代表される接着剤」「とにかく最後に手締めや追い増し締め」といった慣例が根付いています。

これは「とにかく安全を取りたい」「品質クレームが怖い」「協力会社に指導しても細部まで管理しきれない」など、日本的な品質文化も背景にあるでしょう。

しかし、このような対応は「コストの増大」「作業工数の増加」「確認作業の属人化」「内部部品では工程内再調整が困難」「グローバル工場間での品質ばらつき」など多くのデメリットがあります。

海外サプライヤーとのやりとりが増える中、「なぜそこまでオーバースペックな対応を?」と質問され苦戦した方も多いはずです。

よくあるトラブル実例と根本原因

例えば、設備部品や自動車部品の生産現場でよく起こるねじの緩み事例は以下のとおりです。

– 部品振動でねじが緩む
– 温度変化による熱膨張で緩む
– 締付不足で最初から緩みやすくなっていた
– ねじロック剤塗布がバラつき、十分な強度が得られない
– 締付トルクの管理不足で現場ごとに締付レベルが違う

こうしたことがなぜ起きるのでしょうか?
現場では工程ごとのマニュアルが膨大に積み重なり、属人化した手法やムダな保険作業が増え続け、「本質的な理由」を現場全体で共有できていないことが多いのです。

締結部品の標準化がもたらすメリット

標準化による『シンプル化』と『量産性向上』

製造現場で標準化が叫ばれて久しいですが、特にねじ締結部分の標準化は最も「費用対効果」が高い改善領域です。

ねじ・ボルトの種類、締付トルク、付属ワッシャーやロック剤の指定、これらを全品番共通で徹底できれば、以下のようなメリットがあります。

– 部品点数が減り、調達・在庫管理が容易になる
– 組立作業のバラつきが減り、誰でも均質な作業ができる
– トルク管理値を明確化できるため『経験値頼み』がなくなる
– 計測記録データでトレーサビリティが確保できる
– サプライヤー間での品質指導が統一できる
– 余計な工程(接着剤塗布・増し締め)が減りコストダウン

現場感覚では一見「小さなこと」でも、量産規模では大きな効率改善・コストダウン・品質安定化に直結します。

トルク管理統一による明確な品質創り

「どれだけの力で締めたのか」。これを正確に数値で管理・可視化するのが『トルク管理』です。

アナログ現場では「ギュッと締めとけばOK」「最後は職人のカン」と言われがちでしたが、この不透明さがクレームや再作業の元凶でした。

トルクレンチ(手動・電動)、トルク記録装置などデジタル進化が進み、「誰でも」「どこでも」「いつでも」同レベルの締め付けができる時代です。

締付作業の本当のミッションは「最小限のコストで、最大限の安全性と再現性」を実現することです。
それには「作業者の経験に頼らないトルク管理こそが最適解」と言えるでしょう。

接着剤からの脱却~本当に必要な場所・工程の見極め方

接着剤依存のデメリットを整理する

従来型のゆるみ防止対策として「ねじロック剤・接着剤」は強力な保険策でした。

一方で次のような問題も顕著です。

– 材質や表面処理によって接着力にバラつきが大きい
– 塗布量、乾燥時間など工程管理が難しい
– 量産時は自動化しにくい
– 分解・保守性が損なわれる
– 不要なコストアップや作業負荷増

最新の現場では「接着剤の乱用は現場コストの象徴」とも言われ、用途を取捨選択する方向が主流です。

どうやって『使う→使わない』を判断するか

接着剤を削減し、トルク管理と機械的対策(ばねワッシャー・セレーションなど)で充分なら、それがベストです。

判断基準は以下です。

– 万一のゆるみで製品致命破損や命に関わる領域か
– 分解・メンテナンスの頻度や必要性が高い箇所か
– 材質・表面処理によって接着効果に限界がないか
– 工程の自動化、トレーサビリティに応じて管理できるか

本当に必要な極一部や一品生産、一部特殊条件下を除き、量産品のほとんどは『適切なトルク管理+正しい座面+定型部品』が揃えば、余計な接着剤は不要なのです。

トルク管理のための実践ステップ

1. トルク値の標準化とデータベース化

現場でまずやることは「現物部品ごとの締付トルク値」の明確化、ひと目でわかるデータベース整備です。

各部品メーカーの推奨値、実機サンプル測定値、不具合事例を照らし合わせて「安全かつ、設定値の根拠が明確なトルク一覧」を全社で標準化しましょう。

2. トルク管理機器の一元化と点検

工場ごと、ラインごとにバラバラなトルクレンチでは管理基準が揃いません。

– 校正済みのトルクレンチを指定し管理台帳化
– 作業者ごと・工程ごとのばらつきを定期確認
– 必要なら電動トルクレンチやトルク監視システム導入(自動記録で工数削減)

こうした取り組みでトルク管理レベルを一気に底上げできます。

3. サプライヤーも巻き込んだ標準化へのステップ

調達・購買担当が活躍できるポイントです。

自社だけでなく、協力会社・海外サプライヤーとも「標準トルク」「標準部品」「接着剤無しルール」を共有し、定期的な監査や監督を徹底してください。

特にグローバル生産分担では「ローカルな“カン・コツ”」が致命的な品質問題に繋がりかねません。

標準化の実践は営業取引や仕様書でも明文化し、「現場作業の透明性」を高めましょう。

ねじ締結の未来:アナログからデジタル自動化の時代へ

近年では更に「スマートファクトリー化」「IoTトルク管理」などの動きも進んできました。

自動ネジ締めロボットや締結管理システムを通じて次世代の「締結安定化」も現実化しています。

– センシング技術で「ねじゆるみ」を自動検出
– ネットワーク管理で全ラインのトルクデータ自動集計・監査
– サプライチェーン全体で締付品質を共有
– 人的ミス・技能格差を最小化

現場の『曖昧な保険』より『見える化+再現性』、これが時代の要請です。

まとめ:現場力でねじ締結品質をつくる

ねじゆるみ対策は、現場目線だとつい「安全第一」という大義名分で、手間やコストを惜しまない方向に傾きがちです。

ですが、標準化とトルク管理への本質的シフト、そして接着剤の必要最小化こそ、現代ものづくりに求められる効率化・デジタル化・グローバル品質保証の土台です。

調達バイヤーや現場作業者はもちろん、サプライヤーの方も「発想の転換」を図り、ユニバーサルかつ効率的な締結標準を一緒に作り上げていきましょう。

現場目線で「なぜやるのか?」を問い続け、ねじ締結現場の進化に貢献することが、これからの製造業の価値向上につながるのです。

You cannot copy content of this page