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リブとボスの最小肉を標準化し樹脂ショートと金型修正費を未然に防ぐ

目次
はじめに:成形現場で悩まされるリブとボスの肉厚問題
樹脂部品の設計や製造を手がけると、とても身近に感じるのが「リブやボス周りのショートショット」や「部分的な肉厚不良」です。
設計通りの寸法や形状で成形されない――このようなトラブルの多くは、設計段階でリブやボスの最小肉厚が適切に設定されていないことや、金型製作時に現場のノウハウが反映されていないことが原因です。
昭和から続く伝統的な製造業では、設計部と工場現場が閉じたサイロ構造になりがちで、そのしわ寄せが金型修正費や材料ロス、さらには納期遅延にも直結します。
本記事では、長年の現場経験をもとに、
・リブ・ボス部の最小肉厚の標準化
・樹脂ショートショット、ウェルド、ボイドなど不具合回避
・過剰な金型修正費や手直し費の未然防止
これらを視野に入れながら、設計~金型製作~調達までバイヤー、サプライヤー双方の立場から実践できるノウハウを解説します。
リブ・ボスとは?現場目線で見るその重要性
リブ・ボスが持つ機能と用途
リブとは、樹脂部品や板金部品の裏面から突出し、補強や、ねじ止め位置の支持、ガイドの役割を持ちます。
一方ボスは、ねじやピン、シャフトの押し込み部や位置決め、相手部品の組み付け保持など多彩な用途があります。
外観部品として表に見えないこれらの部位ですが、耐久性・組立性・コストの全てを大きく左右するため、設計段階から最小肉厚を意識しなければなりません。
トラブルの温床となるリブ・ボス部の薄肉部
現場で頻発する不良は例えばこのようなものです。
・流動が悪く成形充填できずショートショット(未充填)、樹脂が届かず筋のような欠肉
・リブの根元にウェルドラインやボイド(空洞)が生じ、強度劣化や外観不良
・肉厚過多でヒケやそり変形、内部応力によるクラック誘発
対策を怠れば、金型修正や追加工、再成形が必要となり、コスト・納期ともに悪化します。
リブ・ボスの最小肉厚――推奨値の落とし穴
設計標準書の落とし穴:「厚すぎる」or「薄すぎる」
多くのメーカーで設計標準値、たとえば「主肉厚の0.5倍」「最小肉厚0.8mm~」などのルールが存在します。
しかし標準書通りに設計しても「全ての形状・樹脂材料・成形機」に一律で適合するわけではありません。
具体的には、
・汎用樹脂とエンプラでは流動性が大きく異なる
・リブの長さや高さ、金型ゲート位置で流れが変わる
・製品のサイズ、要求精度、見えない応力パスの影響
など、設計標準値そのものが“現場の実態”と乖離する例が多いのです。
アナログ現場に根付く経験則の強みとリスク
ベテラン金型メーカーや成形現場では、
「この材料、これくらいのリブだと0.7mmでも流れる」
「細かいボスは0.9mm以下だとショートするぞ」
など長年の“勘と経験則”が語り継がれます。
この判断は短納期でトライアルを重ねる昭和的な製造業の現場だからこそ活きるものですが、デジタル化が進む昨今、属人性のリスクが高まり、
「暗黙知が標準化できず、ノウハウ継承が困難」
「意味なく金型修正や追加工が繰り返される」
といった問題が表面化しています。
最小肉厚の標準化はなぜ有効か
設計と現場の“共通言語”となる肉厚値
最小肉厚の標準化とは、単なる数値設定ではありません。
設計部門が図面を描くとき、調達バイヤーが見積もりや業者選定をするとき、金型メーカーが型図や流動解析を行うとき――
全ての現場ステークホルダーが“共通言語”で議論できる基準なのです。
この統一基準が組織の壁を越え、下記のような効果を生みます。
・曖昧な指示やせまい決定権が排除される
・設計変更や金型修正の大半が未然に防げる
・「言い訳」や「現場丸投げ」の文化が是正される
実例:最小肉厚ルールの明文化がコスト・納期を改善
ある自動車部品メーカーでは、リブ最小肉厚を「主肉厚の60%」「具体的には1.0mm以上」と明確化しました。
その結果、
・設計初期からリブ・ボス肉厚が適正化
・金型メーカーも迷わず最適成形設計、流動解析が可能
・ショートショットによる金型修正費が年間で40%以上削減
このように、標準化された数値が組織力を引き出す具体的な効果につながっています。
最小肉厚設定のポイント――現場力を設計に生かす
材料別・成形性別に適正値を見直す
リブやボスの最小肉厚は、主として使用樹脂の種類と製品形状に依存します。
下記は現場目線での目安です。
・汎用ABSやPP → 主肉厚の0.5~0.6倍(最低0.8mm)
・エンプラ(POM、PBT、PA) → 主肉厚の0.6~0.7倍(最低1.0mm)
・透明樹脂(PC、PMMA) → 主肉厚の0.7倍推奨(最低1.1~1.2mm)
ただし、リブの高さが高いほど、あるいはボス径が小さいほどショートショットの危険性が増します。
近年は流動解析(CAE)を導入し、ゲート位置や冷却条件も含め最適な肉厚値を弾き出す手法が主流になりつつあります。
設計段階から現場と対話する“デジタルとアナログの融合”
先端現場は「設計部門がCAEを回して最小値を設定、その値を現場にぶつけ、現場の経験則をフィードバックして確定値にする」というPDCAを回しています。
つまり、単なる標準書の数値埋め込みではなく、過去トラブル事例や熟練金型職人のアドバイス、トライ成形のデータを含めた“知見の蓄積”こそが標準化のポイントです。
昭和的な現場知とDX化された設計ノウハウを融合し、「失敗学」を設計段階に持ち込むことが最小肉厚標準化の理想形と言えるでしょう。
バイヤー・サプライヤー双方の視点:交渉の「共通土俵」を作る
バイヤー(調達購買)の視点
バイヤーは自社の図面が金型製作・部品成形現場にとって合理的な基準かを理解しつつ、
「最小肉厚の標準化がなければ、どの工場も作業効率が下がる」
「見積もり依頼が複数社に出せず、コスト競争力も下がる」
「トラブル時の責任分界が曖昧になりやすい」
この三拍子が揃うため、構内標準化はスムーズな価格交渉や安定したサプライチェーン確保の土台になります。
サプライヤー(金型業者・成形メーカー)の視点
一方、サプライヤー側から見ると――
「最小肉厚規程が曖昧な発注図面は、トラブルの温床になりやすい」
「過去似た条件で品質不良が出た例が、他社製品でも生かせない」
自社が蓄積する「〇〇mm以下はショートする」「この肌面はヒケが出やすい」など現場情報を、発注側にどう反映させるかが競争力の源泉です。
共通土俵づくりのための双方向コミュニケーション
購買担当が、単に図面記載ルールを押し付けるのではなく、
・開発初期から金型メーカー・成形工場と議論
・過去トラブルや量産ノウハウを設計標準にフィードバック
・現場トライデータを収集し、ルール見直しのPDCAを徹底
こうした双方向のコミュニケーションが“共通土俵”を生み、新たな調達購買モデルに進化します。
まとめ:最小肉厚の標準化は製造業の未来の礎
リブ・ボス部の最小肉厚を標準化することは、単なる設計の効率化や不良予防だけにとどまりません。
・設計と現場が共通言語で議論できるプラットフォームを構築
・バイヤー、サプライヤー双方にメリット(コスト・納期・品質)が生まれる
・昭和的な経験知とデジタルツールによる知識の融合を促進
そして、最も重要なのは「ノウハウという工場資産」を次世代へスマートかつ体系的に引き継ぐ基盤となることです。
最小肉厚の標準化は、ものづくりの“未来の種”。
バイヤーを志す方、サプライヤー現場で悩む技術者の皆さまも、ぜひ自社の設計と現場の対話から着手してはいかがでしょうか。
業界全体のレベルアップこそが、製造業の発展に不可欠です。
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