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嗅覚センサと官能評価を使った香り商品の開発ステップ

目次
はじめに:香り商品の市場動向と開発の難しさ
近年、健康志向やウェルビーイングの高まりとともに、香り商品への需要が急速に拡大しています。
消費者は単なる品質や機能性だけでなく、感性や情緒的価値に大きな比重を置くようになっています。
アロマディフューザー、香料、消臭剤、柔軟剤、化粧品など、私たちの生活空間に豊かな香り体験をもたらす商品は無数に存在します。
しかし、“香り”というのは非常に主観的な感覚評価に依存しており、味覚や触覚以上に「数値化」「標準化」が難しい分野です。
主観的な評価(官能評価)と、科学的な検知(嗅覚センサ)を組み合わせたアプローチが、より精度の高い香り商品開発の鍵を握っています。
本記事では、香り商品の開発プロセスについて、昭和時代からの“アナログな香り評価”の課題感や、最先端の嗅覚センサ導入事例を交えながら、現場目線で実践的に解説します。
香り商品開発の基本フローと現場のリアル
アイデア創出:消費者ニーズとトレンドリサーチ
香り商品開発はまず、マーケティング部門による市場調査や、消費者インサイトの分析から始まります。
香りに求められる価値観は多様化しており、性別・年齢・ライフスタイルごとに多岐に渡ります。
昭和時代は「石鹸の香り」「おしろいの香り」など、共通認識のあるベーシックなノートで十分差別化できました。
しかし現代では「リラックス・ストレス軽減」「クリーン・清涼感」「自分らしさ」など、キーワード単位で細分化されています。
企画段階では、消費者の言語化されていないニーズをいかに掬い取るかが肝要です。
アンケート調査、座談会、SNS解析などを駆使し“どんな場面でどんな香りに癒やされるか”といった設定を徹底的に洗い出します。
香りの設計:調香師と技術部門の連携
選定したコンセプトをもとに、専門の調香師(パフューマー)と技術部門が連携して、原材料の選定・配合比率を決めていきます。
昭和~平成前半までは、経験と勘(いわゆる“匠の技”)が重視されていました。
たとえば、「バランスの良いフローラル調」といった曖昧な表現が多用され、新人が技能伝承を受けられるまで長い年月を要しました。
一方、現代の現場では「香気成分分析」や「ノーズパレット」を活用した科学的な設計も進んでいます。
各成分の分子スペクトルを解析し「トップ・ミドル・ラストノート」ごとに、緻密な香り立ちを設計するアプローチが広がっています。
嗅覚センサの導入 ─ アナログからデジタルへの大転換
嗅覚センサとは何か:その仕組みと強み
嗅覚センサとは、従来人の鼻が担ってきた“匂いの定量的な識別”を、センサ素子とAIアルゴリズムで実現する装置です。
一般的には、金属酸化物型、ポリマー型、水晶振動子型など多様な方式があり、検出する香気成分ごとに設計が変わります。
嗅覚センサの最大のメリットは、“人間の官能評価では判別困難な微細な香気成分変化”を数値で取得できる点です。
再現性・客観性が高いため、従来は“匠の目利き”に頼るしかなかった工程も、標準化やトレーサビリティが実現できます。
現場での導入ポイントと課題
一方で、嗅覚センサの導入にはいくつか注意が必要です。
センサは「におい=化学成分情報」として認識するため、複数の成分が複雑にからむ“匂い全体の印象”までは完全に評価できません。
すなわち「人の官能評価による香りの感じやすさ・心地よさ」と「センサの出す定量結果」にはギャップが生まれるケースが多々あります。
また、導入コストや、検知対象の成分選定にも専門的な知見が必要です。
それでも最近では、品質管理(QC)・生産ライン監視・出荷前判定の自動化など、現場のボトルネック解消に嗅覚センサを応用するケースが急増しています。
特に“人手不足・熟練者の引退”が深刻化する地方工場や、化学・食品・飲料など幅広いジャンルで活用の幅が広がっています。
官能評価(ヒューマンパネル)と嗅覚センサの併用
官能評価パネルの役割と課題
香り商品開発で長らく主流だったのが、官能評価(ヒューマンパネル)です。
これは、訓練された複数の評価員が、香りを実際に嗅いだ印象を五段階評価やスコア付けで記録し、統計分析する方法です。
「香りの持続時間」「トップノートの立ち上がり」「好ましさ」「なじみやすさ」など主観的な指標で評価されます。
官能評価は“人が嗅いで感知できる真の香りの良し悪し”を最終判定できる唯一の方法であり、時代が変わっても特別な役割を担い続けています。
ただし、評価員の心身状態や年齢・経験・嗜好の差、さらには気温・湿度による感じ方のブレもあり、“再現性の確保”という点においては明確な限界を持ちます。
併用で生まれるシナジー:知見の最適活用
この「主観評価と客観評価の複合活用」こそが、現代の香り商品開発における最大のトレンドです。
具体的には、調香を繰り返すプロトタイピングフローの中で、重要なチェックポイントごとに両方の評価を実施します。
例えば、センサを使って「全成分のバランスを数値で最適化」し、その結果が官能評価で高評価であるかどうかをクロスチェックします。
逆に、「パネル評価でなぜか評価が悪い」場合は、センサの出力ログから“未検知の香気成分異常”を発見できるケースもあります。
両者の“すり合わせ”が、新たな発見やイノベーションにつながります。
最近ではAI解析をかけて「官能評価パネルの評価データ」と「嗅覚センサの出力ログ」を突き合わせ、“好まれる香りのロジック”を機械学習させる取り組みも進んでいます。
工場現場での導入事例と、現場担当者の視点
QC基準策定・トレーサビリティ強化への貢献
たとえば消臭剤工場では、従来「匂い漏れクレーム」が発生した際、担当者の経験値頼りで原因究明・再発防止策を講じるのが通例でした。
しかし今では、出荷時に嗅覚センサと官能評価パネル両方を通した二重のQC判定を実施しています。
その結果、「同一ロット内でも香りの傾向がずれている原因」を成分分析で特定し、履歴情報として残せることで、クレーム対応も劇的に効率化しました。
また、センサによる“ブレの数値化”のおかげで、設備故障や原材料切り替えによるリスク検知が工場自動化ラインで可能となり、省人化・生産性向上を実現しています。
現場から見る、人×機械協働の未来像
香り商品開発の現場に20年以上関わった立場から見ても、嗅覚センサと官能評価は決して「どちらか一方にすべきもの」ではありません。
システム化によって標準化・省力化できる工程は自動化し、人間が本来持つ“直感力・創造性”を活かす領域は、今後も残し続けなければなりません。
現場ではしばしば「AI導入で仕事がなくなる」と危惧の声も出ますが、“数値データから問題の本質を追い込んでいく力”はむしろ、技術者・購買担当者・企画バイヤーにも必須の能力となっていくでしょう。
サプライヤー・バイヤー視点で差が出るポイント
サプライヤー(香料メーカーや部材提供会社)側から見たポイント
サプライヤーとしては、「自社の香気成分・材料がどのような性能で、どんな香り立ちを生み出すのか」を、定性的イメージだけでなく“数値データ”も添えて説明できることが強みにつながります。
また、顧客(バイヤー)から“香りや原料の再現性・安定供給性・安全性”について詳細な質問を受けた場合、嗅覚センサ測定による客観データの蓄積が、大きな信頼獲得要素となります。
バイヤー(製造メーカーや商社)から見たポイント
バイヤー側の現場担当者は「香りサンプルを嗅いだ瞬間の直感」と「社内外の官能評価」「嗅覚センサでの客観検証」のすべてを統合し、最終的な選定意思決定を迫られます。
常に「市場でどう評価されるのか」「量産時にも再現できるか」「トラブル時にも問題を“見える化”できるか」という多角的な視点が欠かせません。
嗅覚センサと官能評価データの両輪を回すことで、“昭和的な勘頼み”から脱却しつつも、本質的なお客様満足度を高める商品開発が実現できます。
まとめ:現場目線での次世代香り商品開発
香り商品開発には、「人の感性をいかに科学し、最適解を見出すか」の不断のチャレンジが必要です。
伝統的な官能評価をベースにしつつ、嗅覚センサやAI活用による“数値化・標準化”を積極的に取り入れることで、イノベーションの種は無限に広がっています。
サプライヤーとバイヤーの間で“感覚言語だけでなく、データで語れる力”がこれからの付加価値となります。
ユーザーが本当に求める“体験価値”を現場で生み出すために、あなた自身の職場でも「科学と感性のハイブリッド」を実践してみてはいかがでしょうか。
昭和から続く熟練の感覚と、最先端技術の融合は、今後のものづくり現場において、ますます重要な競争力の源泉となります。
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