インバウンド向け日本の加工食品調達における戦略的アプローチ

はじめに：グローバル時代における加工食品調達の重要性

日本の加工食品産業は長年にわたり、クオリティと安全性を両輪に世界的な信頼を築いてきました。

しかし、グローバル化の波が押し寄せる中、インバウンド需要が急拡大しています。

観光客や、海外から日本で働く人々が増える今、従来の供給体制や調達戦略のままでは多様化するニーズに応えきれなくなりつつあります。

加えて、コロナ禍を機にサプライチェーンリスクの顕在化、円安による原材料コスト高騰、労働力不足など、加工食品業界はこれまでにない課題に直面しています。

本記事では、製造業の現場経験を活かした「現実的かつ戦略的な調達アプローチ」を中心に、業界内外の動向や、サプライヤー・バイヤー両者の視点も踏まえ、これからの加工食品調達について深く考察します。

インバウンド需要拡大がもたらす新たな現場課題

インバウンド需要の変化と多様化

訪日外国人観光客の増加は、外食・宿泊関連業界だけでなく、食品メーカーや原材料サプライヤーにも大きな刺激をもたらしています。

特に「日本独自のあじわい」や「安全・安心のイメージ」を求める声は強まる一方、宗教・文化的な背景（ハラール、ヴィーガン、アレルギー対応など）も無視できなくなりました。

多国籍な顧客に対応するための加工食品調達は品目・規格の広がりと同時に、現場の混乱や供給リスクを生みやすい構造に変わりつつあります。

昭和的アナログ調達の限界と現場の葛藤

日本の製造業では、いまだにFAX・電話・紙帳票など、アナログな手法に頼る業務が根強く残っています。

長年の「顔が見える取引」が安心を生み、トラブルにも柔軟に対応できた反面、グローバル調達や大量品種少量生産、多拠点展開には明らかに不向きです。

例えば、アレルゲンや国別規制対応など詳細な管理が必要な今、紙ベースや人海戦術で安全性やトレーサビリティを保つのは困難です。

これまでの慣習が逆にリスクとなる時代。
ここを打破できるバイヤーこそ、これからの加工食品業界で求められます。

戦略的な調達アプローチの基本

自社の強み・弱みを冷静に棚卸しする

調達改革の第一歩は、自社の強み・弱み、得意・不得意分野を正確に把握することから始まります。

例として、ある加工食品メーカーでは「日本向け規格や品質管理は強いが、海外認証やアレルギー管理ノウハウは弱い」と判明。

この認識があることで、どこを外部化すべきか、新規パートナーを探すべきかターゲットが定まります。

また、工場の自動化・省人化投資を優先するのか、人材育成で多能工化を進めるのか、より現実的な中長期戦略が見えてきます。

多様な調達チャネルとポートフォリオ構築

価格、納期、安定供給、安全性――どれか1つに偏ったサプライヤー選定は、インバウンド需要の急変や市場変動時に大きなリスクとなります。

過去20年の現場経験から強く言えるのは、複数サプライヤーの並立（デュアル/マルチソース）と、海外調達＋国内調達のハイブリッド体制が極めて有効だという点です。

原材料ひとつとっても、「グローバルな供給網」「ローカル特性」「規格バリエーション」などを加味した調達ポートフォリオを組みます。

また、商社やベンダー活用も積極的に検討し、激変する需給バランスに柔軟に対応できる構造を目指します。

サプライヤー選定ポイントと長期視点

インバウンド向け加工食品には、想定以上の安全・安心とスピード供給の両立が求められます。

重視すべき選定ポイントは次の4つです。

1. 食品安全管理レベル（HACCP, ISO, FSSCなど認証、トレーサビリティ）
2. 柔軟な規格対応力（宗教・文化ニーズ、多言語表示対応など）
3. 短納期・大量変動対応力（フレキシブルな生産キャパ、BCPの有無）
4. コスト競争力・安定供給（持続可能な価格設定、物流体制など）

特に近年は、同業他社比較や即応性だけでなく、「サプライヤーと共に成長する」長期パートナーシップも重要視され始めています。

現場からみると、単なる価格要求だけではなく、情報共有や品質改善ノウハウを一緒に磨くことで、強固なネットワークが構築できるのです。

アナログ調達脱却の具体策

IT化・デジタル化の現場進化

アナログ業務を一気にデジタル化するのは現実的ではありません。

現場の理解と納得を得ながら段階的に変革していくこと、これが昭和型の組織体質を熟知しているからこそ言える成功のポイントです。

第一歩は、受発注や工程進捗、在庫管理の「見える化」から。

クラウド型の調達管理システムや、オープンプラットフォームの利用によって、どこからでも状況把握・即時対応ができるインフラを整えます。

そのうえで、ペーパーレス化やEDI（電子データ交換）、RFIDによる物流管理など、現場負担を減らしながら効果の高いポイントから着手します。

バイヤー・サプライヤーの連携強化

よく誤解されがちですが、バイヤーの役割は「安く買い叩く」ことではありません。

特にインバウンド向け加工食品では、品質・納期・コストの三位一体が求められるため、原材料事情や工場の稼働状況までサプライヤーと日々密に情報交換することが必須となります。

全てをデジタル化・自動化して「人」を排除するのではなく、逆に現場同士の対話を重視し、「困ったらすぐ相談できる」ホットライン構築を目指すべきです。

ITはあくまで業務効率化・ミス防止の手段であり、人間同士の信頼とタフな交渉力・調整力はこれからも変わらず重要な資産です。

世界基準と日本独自戦略の両立

海外バイヤー視点で逆算する

サプライヤーの立場でバイヤー思考を理解するには、「なぜ日本の加工食品が選ばれるのか？」を常に問い直すことが大切です。

例えば、海外市場では単なる品質や味だけでなく、「機能性食品」や「SDGs対応」「エシカル消費」など、新たな付加価値が判断基準となっています。

バイヤーになりたい方は、世界的なトレンド把握と共に、現場で実際に製造・工程管理を経験することで、商談時の説得力や交渉力が格段に向上します。

一方で日本独自の「細やかなおもてなし精神」「工程ごとのきめ細かなチェック」は、海外には真似できない強みです。

この二つを掛け合わせてこそ、グローバル競争で生き残る調達戦略になると考えます。

リスク分散と持続可能な調達

海外依存が高まる中、地政学的リスクやパンデミックなど「想定外」への対処が不可欠です。

バイヤーは、調達先の多元化（複数国・地域、多様なベンダー選定）を徹底し、代替調達ルートや定期的な現場監査も怠りません。

同時に「地産地消」や「フードロス削減」「リサイクル原材料」など、持続可能性を重視した調達方針もこれからの大きな流れです。

価格や利便性だけでなく、環境配慮や社会的責任もバイヤー評価に直結しています。

まとめ：これからの加工食品調達に求められる資質

インバウンド向け日本の加工食品調達は、単なるコスト削減やアナログからの脱却だけではなく、日々変化する世界の需要・規制・社会的要請に俊敏に対応できる「実践力」と「総合的俯瞰力」が求められます。

バイヤーとしては、現場目線を常に持ちながら、サプライヤーと共に成長するパートナーシップ、そして攻めと守りを両立した戦略的な調達ポートフォリオ構築力が欠かせません。

サプライヤーの立場では、バイヤー思考や市場変動に機敏に対応する「柔軟性」と「挑戦する姿勢」が、今後ますます重要となります。

昭和にも価値があった現場仕事の感覚を活かしつつ、IT化やグローバル要素も積極的に取り入れ、新しい地平線を切り開く――

それが、インバウンド時代の日本加工食品調達の真価だと信じています。