投稿日:2025年9月4日

不正確なHSコード申告が輸出入通関を遅延させるサプライヤー問題

はじめに:HSコードの重要性と現場が抱える問題

国際取引が加速する現代の製造業において、輸出入通関は物流最適化の肝となるプロセスです。
その中でもHSコード(Harmonized System Code)の正確な申告は、まさに“関税ゲートのパスワード”といっても過言ではありません。
しかし、工場現場に根ざした実業の感覚でみると、HSコードの正確な管理や運用はまだまだ“昭和的なアナログ管理”に留まっている企業が多いのが実情です。
本記事では、なぜHSコードの誤申告が生じるのか、その背景や現場での課題、そして製造業バイヤーやサプライヤーが知っておくべき最新動向・実践ノウハウを、私自身の現場経験も加えながら詳しく解説します。

HSコードとは何か? 実務視点でおさらい

HSコードの基本知識

HSコードは、国際統一商品分類体系として世界中の税関で利用されている6桁もしくはそれ以上の番号です。
正しいHSコードの付与がされていれば、商品分類や輸入関税の決定、貿易統計や貿易規制の根拠にもなります。
逆に誤ったHSコードを申告すると、税関での通関手続きが遅延するだけでなく、過少・過大申告による罰則や追加税が発生するリスクを抱えます。

製造現場におけるHSコード管理の実情

実際の工場では、調達購買担当者が国内外のサプライヤーから部材や資材を調達し、それを使って製品を製造・出荷しますが、多品種少量生産や設計変更が頻繁な現場ほど、HSコードの管理・更新が追いついていないケースが多発しています。
現場担当者やサプライヤーの知識・経験に依存してしまい、結果として「正しい」ではなく「なんとなく妥当そう」なHSコードが安易に記載されている現場も珍しくありません。

なぜHSコード申告ミスが発生するのか? アナログ現場に根付く課題

属人的管理から抜け出せない組織体制

HSコードの選定作業は、往々にしてベテラン社員や調達担当者、通関士に依存する属人的運用になりがちです。
それぞれの知見や過去の“成功体験”に基づく判断は、変化する法規や貿易環境では通用しません。
なぜかというと、約5年ごとにHSコード改正が行われており、知らず知らずのうちに陳腐化した知識が現場を蝕む構造があるからです。

設計変更・部品変更への追従力不足

現場では、設計変更や代用品・サブ部品への切り替えが頻繁に起きます。
こうした動きに対して、都度最新のHSコードを確認・申請できる運用体制がなければ、あっという間に“申告ズレ”が蓄積します。
それに加え、英語や現地語によるマニュアル・データ管理ができていない中小サプライヤーほど、根本的な記述ミスが発生しやすいです。

情報共有とシステム化の遅れ

多くの製造業企業は、依然としてエクセル管理や紙帳票が横行しているのが実態です。
設計部門・購買部門・物流部門・通関部門との情報共有が途切れ途切れになり、最新の分類・制度変更に現場が追随できない“サイロ化”問題も根深いです。
IT化による一元管理を進めている大手ですら、設計BOMやPDMとHSコードとの情報連携には課題が残っています。

HSコード申告ミスが引き起こす現場トラブルとリスク

通関遅延・納期遅延の直接的影響

例えば、ある大型機械の部品を不適切な分類で申告した場合、税関で書類審査・現物検査が発生し、通常数日の通関が1週間~2週間遅延することは珍しくありません。
これがサプライチェーン全体の納期遅延や生産停止に直結し、現場担当者やバイヤーに強いプレッシャーがかかります。

追加税・ペナルティによるコスト増加

申告ミスが国税当局に把握された場合、過去数年分さかのぼった関税・消費税追徴、過少申告加算税、さらには信頼性低下によるペナルティ(例:今後の輸入時の検査強化)など予期せぬコスト増を招きます。
特にOEMサプライヤーに多いですが、「発行したインボイスのHSコードが違った」といったケースで、商流の上下問わず責任追及されるリスクがあります。

リコール・輸出禁止リスク

近年では経済安全保障や輸出管理強化のトレンドがあり、軍事転用が懸念される製品カテゴリやデュアルユース(民生・軍事双方に利用可能な技術)製品の誤申告は、重大なリコールや輸出停止措置につながりかねません。
法令順守の観点でも、注意が必要です。

業界動向:昭和から令和へ、今求められるHSコード運用の変革

グローバル・サプライチェーン時代の要請

近年、日系製造業のグローバル化が進み、盟主的立場から多層構造サプライチェーンの一部としての“共存型バイヤー”に役割がシフトしています。
中国・東南アジア各国では通関システムの電子化、AI審査、HSコード自動マッチングといった新潮流も現れつつあります。
今後は、国内独自ルールの意識から脱却し、国際標準や現地法規制への意識転換が不可欠です。

電子管理体制とシステム連携強化

最先端企業では、設計BOMやERPシステムとHSコードデータベースを自動連携し、部材ごとの属性情報も含めリアルタイムでコード管理が行える仕組みづくりに着手しています。
これにより、「現場の誰か」が誤った番号を当て込んだまま進んでしまう“事後的痛恨ミス”が減り、コンプライアンス・品質管理が全社的に底上げされます。

教育・ガバナンスの重要性

現場理解者・管理職による定期的な監査・見直しも重要です。
また、海外サプライヤーとのコミュニケーションにおいて「なぜそのHSコードなのか」の根拠を説明できる仕組み化(例:分類根拠シート作成、定期教育実施など)が今後求められます。
サプライチェーン全体の透明性(トレーサビリティ)こそ、グローバル競争時代の生命線です。

現場バイヤー・サプライヤー必見:HSコード運用改善5つの実践ポイント

1. 調達時点でのHSコード確認と根拠記録

購買契約や発注書作成時に、各部材・製品のHSコード根拠(国際機関や日本税関の分類事例、メーカー提供技術資料など)を明記するクセをつけましょう。
これが後工程での混乱回避につながります。

2. 設計・購買・物流部門のクロス部門連携

設計変更、材料変更、サブ部品化のたびにHSコードの再確認プロセス(例:設計変更通知フロー内のHSコード見直しチェック)をルール化しましょう。

3. ITシステムによる一元管理

Excelや紙から脱却し、BOMシステム・ERP・エクセルマクロ連携など、自社規模に合ったIT一元管理体制の導入を検討します。
これにより、法改正時の一括更新や部門間の情報断絶を防げます。

4. サプライヤーへの教育・指摘強化

海外サプライヤーに対し、求めるHSコード情報の提示基準・分類根拠提示を明確化します。
必要に応じて共同勉強会・教育会開催も有効です。
特に“間違ったHSコードで見積書を出される”といった課題の撲滅には、継続的な啓発活動が欠かせません。

5. 定期的な監査とフィードバック

社内監査・内部監査でHSコード適正運用状況を見直し、現場ヒアリング・フィードバックを循環させましょう。
属人化したノウハウの形式知化・共有も肝になります。

まとめ:現場から変える、HSコード申告の新たな地平線

HSコードは、ただの数字の羅列ではありません。
それは“製造業のグローバル競争力”を担保し、現場・バックオフィス・経営層にまで波及する重要な“リスクコントロールパネル”です。
昭和のアナログ管理から令和のデジタル統合時代へ、現場目線で一つひとつの工夫・改革を積み重ねることが、バイヤーとして、あるいはサプライヤーとしての責任と価値を高めます。

通関遅延を回避し、グローバルSCMの最適化を図るためにも、今日から身近なプロセスを見直してみてください。
業界の旧習にとらわれず、新しい地平線をともに切り拓いていきましょう。

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