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原価低減要請に対して合理的根拠を出さない仕入先

目次
はじめに:現場目線から考える「原価低減要請」のリアル
製造業に携わる方、特に調達購買部門やサプライヤーの皆さまにとって、「原価低減」は年中行事のようなキーワードです。
バイヤーから降りてくる原価低減要請。
これに対してサプライヤーは、「これ以上のコストダウンは難しい」「根拠がない値下げ要請には応じられない」と悩みます。
一方でバイヤー側も、「合理的な根拠を示してくれないなら納得できない」「数字を使った対話が成立しない」とフラストレーションが溜まることに。
本記事では、昭和的な慣習が根強く残る製造業の現場で頻発する、この“根拠なき原価低減の押し問答”について、20年以上管理職として現場に身を置いた立場から、業界の構造的問題や心理、現場で使える打開策について掘り下げます。
バイヤー志望の方、自社がサプライヤーでバイヤー動向を知りたい方にとっても、今後の交渉や信頼関係構築のヒントとなるでしょう。
原価低減要請の実情:なぜ根拠を出せないのか
アナログな見積構造の壁
製造業の多くは長年続く取引関係や積み上げ型の見積構造が色濃く残っています。
例えば、材料費、加工費、仕掛け工賃、間接経費…と、細かく積算する姿勢は昭和から続く業界文化の一部です。
この伝統的手法には、“経験則”や“感覚値”、さらに「社内の人件費や減価償却はざっくりこのくらい」という暗黙知が多分に含まれています。
昨今、IT化やデジタルツール導入が叫ばれていても、「昔からこのルール」「過去の実績ベース」という変化を嫌う社風が合理的説明を妨げる要因となります。
「情報の非対称性」と下請けいじめの境界線
上流(バイヤー)と下流(サプライヤー)は、製品設計や量産時のコスト構造に関して持つ情報が大きく異なります。
バイヤーは、市場価格や他社サンプル情報は持っていても、個々のサプライヤーが背負う固有コスト(例:立ち上げ設備の減価償却、ライン維持コスト、人員配置の柔軟性)までは見通せません。
結果、「コスト競争力を高めてほしい」と表現が曖昧になりがちです。
その値下げ要請が“下請けいじめ”ではなく、合理的根拠に則った要求なのか。
サプライヤーからは「なんとなく値下げしてほしいだけでは?」という疑念も生まれやすく、両者に認識のズレと不信感が蓄積します。
「無理な要求を飲んだ方が楽」という長年の慣習
特に取引先からの仕事量や関係維持を最優先にせざるを得ないサプライヤーの多くは、「今年分だけは…」と現場や経営者の腹を切り、無理な値下げに応じてきました。
「値下げ根拠にはこれといった説明ができないが、納入金額を下げて取引継続を選ぶ」。
これが長期的に慢性的な赤字体質・労働環境悪化・品質低下へと繋がる悪循環を生みます。
こんな背景が“根拠を出さない”体質を根深く温存しているのです。
バイヤー・サプライヤーそれぞれの本音と心理
バイヤーの本音
・調達コストを減らして会社の利益に貢献したい
・「通年で何%ダウン」というKPIが降りてきている
・できれば合理的な説明の上で納得したい
・サプライヤーの努力不足やサボりがないか気になる
・価格交渉で他社比較や相見積もりを有効に使いたい
サプライヤーの本音
・これ以上削ると自社の採算が合わない
・値引き分は利益から削られるだけで、バイヤー側が原価構造まで配慮してくれていない
・努力して効率化した分も「当然」としてすぐ値下げ要請になる
・わかってくれるバイヤーとは本音で相談できる
・でも条件が合わなければ断る選択肢も持ちたい
リアルな現場では、バイヤーが“どうせサプライヤーはギリギリまでコストを曖昧にしている”と思い、サプライヤーは“うちの苦労の中身を全然理解してもらえない”と感じています。
この「水面下の損得勘定」と「建前の交渉」が価格協議の停滞を生んでいると言えるでしょう。
根拠ある原価低減のために:業界の新しい地平へ
工程・原価の「見える化」を進める
アナログの壁を超えるためには、工程や原価構造を両者が“見える化”する姿勢が不可欠です。
例えば、シミュレーションツールやIoT、MES(製造実行システム)を使った工数管理。
棚卸資産や設備稼働率などデータに基づくプロセスの可視化が、「原価の重し」と「改善余地」を明確にしてくれます。
これにより、闇雲な値下げ要請ではなく、「具体的な改善によって実現できる合理的な低減額」を提示しやすくなります。
なぜこのコストが発生するのか?ラテラルシンキングの活用例
単なる「見直し」でなく、業界の慣習や当たり前を疑い、コストの発生源を多角的に捉え直すことが重要です。
・従来ラインに縛られず工程自体を組み替えられないか?
・設計段階で材料や工程をシンプルにできないか?
・製品標準化・部品共通化の徹底で量産スケールメリットを出せないか?
・外部委託や他業界のノウハウ導入で回転効率を上げられないか?
このような発想のジャンプ(ラテラルシンキング)が、“根拠なき原価低減”を“合理的な原価低減”に変える鍵です。
信頼構築型のコミュニケーション
価格交渉の席で最も求められるのは、「短期の利害」より「長期の相互利益」を志向する姿勢です。
どんな設備投資や工数改善をどう進めてきたか、今後どこまでならできるか。
赤裸々に課題や現状を共有できれば、バイヤーの納得度も高まり、「ならば中長期的な設備投資で巻き返そう」という話につなげやすくなります。
情報開示は勇気と覚悟を要しますが、合理的な根拠を共有すれば下請けいじめからも自社を守れます。
双方の“気づき”がプロフェッショナルな製造業を作る
昭和型アナログ商習慣が根強い製造業界ですが、これから求められるのは、「経験則」や「空気」に頼った場当たり的な交渉ではありません。
バイヤー側には、「なぜ安くなるのか」「なぜ下がらないのか」を構造的・定量的に引き出す質問力と、コスト以外の信頼資産(技術品質、納期遵守力など)も評価軸に加えたコミュニケーション力が必要です。
サプライヤー側にも、「値下げは難しい」の一点張りや“ノーレスポンス”から脱却し、なぜ自社価格に合理性があるのか、データ・改善努力・社内外の事例を使って説得力を持った伝え方のスキルが求められます。
まとめ:現場目線で信頼されるバイヤー/サプライヤーを目指して
原価低減要請にまともな根拠が出てこない―。
そんな交渉の場面こそ、現場目線の知恵と、双方向の理解、ラテラルシンキングによる“従来の外”の発想が威力を発揮します。
バイヤーもサプライヤーも、数字や根拠を共有し合いながら、ときには社内慣習に風穴をあける覚悟も必要です。
互いに一歩踏み込んで腹を割って話すことで、値下げ要請=「難題」から、「共に成長するための対話」へ変えることができます。
その積み重ねが、変化が激しいこの時代にも生き残れる強い製造業をつくる土台になると確信しています。
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