投稿日:2025年8月17日

溶接構造へ置換し一体加工の工数を削るアセンブリ設計の発想転換

はじめに:溶接構造化と一体加工への発想転換が求められる理由

かつて日本の製造業は、綿密な分業体制や職人技の集積によって世界トップレベルの品質と生産性を実現してきました。

しかし、現代社会はグローバル化やデジタル技術の進展、コストダウン要求の激化など、従来のやり方だけでは競争力を保てなくなってきています。

その中にあっても、いまだに「昭和」的なアナログ思考で、部品点数が多く複雑なアセンブリ、従来図面の繰り返し流用、非効率な工程設定など、「現場のしきたり」を変えられず苦しんでいる企業も少なくありません。

この記事では、20年以上にわたる現場経験と管理職の目線から「溶接構造への置換」「一体加工化による工数削減」というキーワードにスポットを当て、製造業のアセンブリ設計に新しい視点をもたらすラテラルシンキングを展開します。

バイヤー(購買担当者)、サプライヤー、これから現場を担う若手技術者の皆様に、現実的かつ実践的なヒントをお届けします。

なぜ今、“溶接化”と“一体加工化”が注目されるのか

従来構造の「当たり前」が、なぜ非効率か

日本の工場では今でも「手間はかかっても従来の構造を踏襲する」「多品種少量生産には分解・組立型が向いている」という思い込みが根強く残っています。

しかし、組立工程や部品点数が多いほど、製造コスト・品質リスクは跳ね上がります。

工程ごとの段取りや検査、保管・搬送、外注管理や工程内不良――あらゆるロスが発生するのです。

この“自縄自縛”から抜け出し、工程を大胆に統合するアプローチとして、「溶接構造」や「一体加工」は非常に有効なのです。

グローバル競争時代に求められる設計思想

中国・東南アジア勢の低コストメカニズムや、欧米メーカーのモジュール設計、一体化志向(エンジニアリング・インテグレーション)など、世界標準を俯瞰すれば、溶接化・一体化設計は既に当たり前になっています。

日本の製造業も、組立工程によるコスト増・納期遅延・品質トラブルのリスクを減らし、「早く」「安く」「ミスなく」作り上げる体質に転換する必要があるのです。

溶接構造への置換で得られる5つのメリット

1. 部品点数の削減によるコスト低減

溶接化の最大のメリットは、複数部品の接続を溶接一体化することで「そもそも部品が要らなくなる」ことです。

たとえば、従来はボルト・ナット締結で20個の部品が接続されていたのを、4パーツ溶接に集約すれば部品点数は劇的に減り、調達・在庫・組立・管理の全ての工数が削減されます。

2. 組立工程の短縮とミス撲滅

溶接による一体化で、ねじ締結や組立位置決めなどの作業が大幅に減ります。

これにより作業者の手間や管理工数が削減され、ヒューマンエラーや組立バラツキリスクも同時に低減できるのです。

3. 品質安定と一元的な検査体制

分解式の構造だと部品ごと・工程ごとにばらつきが生じやすいのですが、溶接一体化すれば完成体の寸法や強度検査がしやすくなります。

検査点数も減り、結果的に品質管理がシンプルになります。

4. スペース・物流・人員リソースの最適化

点数削減は在庫保管スペースや部品待ちの物流リードタイム、持ち運びや仮置き管理など、あらゆる間接コストに波及します。

一体溶接化構造により、現場スペース・物流資源・人員配置も最適化しやすくなります。

5. バイヤー(調達購買担当者)の負担軽減

発注先や仕入先の種類・点数が減り、調達リードタイム短縮や購買事務の簡略化にもつながります。

「どこのサプライヤーで何を何個買うか」といった調整の煩雑さが緩和されます。

業界横断で根強いアナログ設計の壁

日本のものづくり現場にはベテラン技術者の経験・知見が根付いている一方、「前例踏襲」や「伝統工法への固執」がブレーキになりやすい実情があります。

例えば、建設機械や産業機械、量産家電、農機・運搬車両など、さまざまな業界でやはり「これまでもこうだったから…」が設計思想の出発点になりがちです。

また、サプライヤーの立場としても、溶接や一体化といった構造変革を提案するには、「既存受注品が減るのでは」「工場設備の投資が必要なのでは」という懸念から消極的になりやすい側面もあります。

ラテラルシンキングでアセンブリ設計を見直すポイント

発想転換1:設計段階から“組立レス”を意識する

機械・装置設計の段階で、最小枚数・最小接合箇所で機能を満たせないかを“ゼロベース”で検討しましょう。

初期構想で「どこが一体化できるか」「どこが溶接で集約できるか」を洗い出すことで、のちの購買・生産・品質・メンテナンスすべてに好循環をもたらします。

発想転換2:仮想組立シミュレーションとDFMA手法の導入

IT活用もポイントです。

3DCADやCAEによる仮想組立シミュレーション、工程シナリオの検証、DFMA(設計と製造の同時考慮)プロセスの活用で、リアルタイムにコストと工数を見積り、最適解を導きます。

「図面を描いてから現場で考える」のではなく、設計時点で“最少工程・最少部品・ミスゼロ”をシミュレートするのです。

発想転換3:サプライヤーを巻き込んだ協働設計

作り手と買い手、あるいはバイヤーとサプライヤーが、お互いの得意な加工技術やコスト構造をオープンにし合い、最初から“いいとこ取り”の一体設計を進めることが不可欠です。

逆に設計図が完成してから調達先を探すのでは、せっかくの現場ノウハウやコスト競争力を活かせません。

現場経験から見た溶接化・一体加工化の注意点

溶接特有の歪み・ねじれ管理

一体構造は組立ミスが減る反面、溶接時の熱歪みや残留応力が寸法精度を狂わせるリスクがあります。

部品の形状・板厚・溶接順序・冶具設計・前後工程での熱処理など、現場ノウハウの蓄積がカギです。

メンテナンス性への配慮

一体化しすぎると、将来的な分解修理や一部交換時の作業性が低下することがあります。

「どの機能まで一体化すべきか」「消耗部の交換パーツは分割構造で残すか」など、設計意図と運用現場の両方に目配りが必要です。

導入時の社内調整と変革マネジメント

新しい設計思想を推進するには社内各所(設計・現場・品質・購買・営業)との連携が不可欠です。

従来工法による「生産勢力」や「現場慣習への抵抗感」を乗り越えるためには、経営層の強いリーダーシップや現場目線のトライアル導入が成功のポイントになります。

バイヤー、サプライヤー、現場技術者それぞれの“見るべきポイント”

バイヤー(購買担当者)視点

– 図面や設計仕様の段階から「構造簡素化」「工程短縮」提案余地を積極的に探索しましょう。
– サプライヤーの技術力や最新設備について情報収集を強化し、「溶接化可能な部品の置換」リスト作成を推進しましょう。
– 社内・設計部門とのコミュニケーション強化により、「発注効率」と「コスト低減」の双方最大化を目指します。

サプライヤー(加工業者・部品メーカー)視点

– 顧客(バイヤー)が求める本質的価値(スピード・コスト・品質)を理解し、自社加工の工夫や一体化技術を積極的に提案しましょう。
– 受注型から「課題解決型」サプライヤーにシフトすることで、信頼関係と継続ビジネスを構築できます。
– 設備投資や人材育成にも目を向け、溶接自動化ロボットや高精度一体加工設備の導入を提案材料に変えましょう。

現場技術者・設計者視点

– 古い設計を漫然と流用せず、“ゼロベース”で最小部品・最小工程を追求するマインドを持ちましょう。
– 溶接歪みや精度管理など現場知見を設計段階からフィードバックし、ものづくり全体の最適化に参加しましょう。
– 異業種・業界の事例研究やITシミュレーションにも積極的に取り組みます。

まとめ:工数削減と競争力強化の鍵は、発想転換と現場連携

溶接構造化や一体加工化によるアセンブリ設計の発想転換は、単なるコスト削減策ではありません。

市場競争が激化する今こそ、従来の“分業思考”から“統合思考”へ現場全体を巻き込んだイノベーションが求められています。

バイヤー・サプライヤー・設計技術者――すべてのものづくり現場の皆さんが、互いの知恵とノウハウを持ち寄り、より早く、より確実に、より低コストで価値ある製品を供給する。

そんな“日本再興ものづくり”への新しい地平線を、共に切り拓いていきましょう。

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