投稿日:2025年6月25日

問題プロジェクトを未然防止し早期復旧するシステム開発リスク管理ノウハウ

はじめに:なぜシステム開発リスク管理が製造業にとって重要か

製造業におけるシステム開発、とくに自動化や生産管理、調達購買のシステム刷新は、会社の命運を分ける一大プロジェクトです。

しかし、現場では問題プロジェクトが頻発し、納期遅延やコスト超過、最悪の場合はプロジェクトの中断・失敗に至ることも珍しくありません。

日本の製造業には昭和から続くアナログな業務文化が色濃く残り、DXやIT化を阻む要因となっています。

本記事では、大手製造業メーカーで20年以上の現場経験を持つ筆者が、問題プロジェクトを未然に防ぎ、万一トラブルが発生しても早期復旧できるリスク管理ノウハウを、現場目線で徹底解説します。

現場の「昭和的リスク」から脱却する思考法

なぜ未然防止できないのか?業界の慢性的課題

多くの製造業現場では「前例踏襲」や「慣習重視」によって、新しいシステム導入に際し根本的なリスク検証が甘くなりがちです。

また、「現場任せ」「部門任せ」の体質も強く、全体最適の視点が不足しています。

このような状況下では、問題が顕在化しないと動かない「問題後対応」になりやすく、取り返しのつかない事態になってしまうことが多いです。

ラテラルシンキングでリスクの“構造”を掴む

システム開発リスクは決して表層的なものではありません。

「プロジェクト遅延」「バグ多発」「業務不適合」といった症状は、あくまで氷山の一角です。

たとえば、組織の縦割り文化、現場の声を吸い上げない経営、属人化した業務プロセス、サプライヤーとのコミュニケーション断絶…それらの構造が根本要因となっています。

このようなバックグラウンドに着目し、リスクを表面的な“技術上の課題”ではなく、組織・カルチャー・意思決定・コミュニケーションの連鎖として捉えることが、問題プロジェクト未然防止の第一歩です。

リスクマネジメントフレームワーク:現場で効く実践手法

1. 上流での「課題洗い出し」こそ最大のポイント

要件定義フェーズでのリスク抽出が、プロジェクト成否を大きく左右します。

現場が「要件が伝わっていない」「こんなはずじゃなかった」と感じるトラブルは、ほとんどがこのフェーズでのヒアリング漏れ・認識ずれが原因です。

具体的には、
– 調達購買なら、サプライヤー目線での調達ルール、承認プロセス、緊急時対応フロー
– 生産管理なら、現場オペレーターの業務実態とシステム上のフローのギャップ
– 品質管理なら、現品管理の現物運用とシステム化の論理のすれ違い

これらを「本音ベース」で棚卸しし、現場の声を徹底収集することが大切です。

2. リアルな業務フローを「可視化」する意味

「理想フロー」ではなく、「現実のフロー」を実物ベースで書き出す、というアプローチが有効です。

現場で使っている帳票、非公式なExcel、口頭指示や“裏ルール”も全部洗いざらい出すこと。

この過程では、現場ヒアリングと同時に、実際の作業現場での「体験ワークショップ」や「オブザベーション(現場観察)」も有効です。

サプライヤー側も現地現物を理解することで予見されるリスクを早期に共有できます。

3. “小さなリスク”の積み上げ管理

システム開発は、一発で大きなトラブルにはなりません。

ささいな仕様の食い違い、抜け漏れ、担当者の異動、曖昧な運用決定など、“小さなリスク”が積み上がっていきます。

これらを「課題管理表」で見える化し、都度方向修正する地道なPDCAが肝となります。

一例として、ToDoベースの管理だけでなく、リスクの重大度や発生確率を“数値化”して優先順位付けすることで、大きな問題に発展しそうな芽を早期に摘み取れます。

問題が起きた時、早期復旧できる組織とプロセス設計

1. 現場主導の“即時対応チーム”設置のすすめ

問題発生時、経営層―PM―現場オペレーター間で「時間差」や「温度差」が発生すると、初動が遅れてしまいます。

あらかじめ、現場主導の「緊急対処チーム」を作っておき、発生した問題を“誰が責任を持って、どのような手順で”解決するかを、手順化しておくことが重要です。

このチームは、現場担当者・IT担当者・調達部門・品質管理・経営層(意思決定者)が横断的に混在した顔ぶれにすることで、属人化や“伝言ゲーム”による遅延を防げます。

2. 根本要因分析と「再発防止策」をセットにする

問題が解消したからそこで終わり、ではありません。

「なぜこの問題が起きたのか」という根本要因(バックグラウンド)を現場ヒアリングやデータ分析で必ず特定します。

そして再発防止策として、現場フローの見直し、システム仕様再設計、場合によっては人事・体制の変更まで踏み込みます。

3. サプライヤーとの共創型“振り返り”文化が強みになる

問題が起きた時、SIerや外注ベンダーに“責任追及”ばかりではなく、共に振り返り、次に生かす姿勢が現場には求められます。

「顧客対サプライヤー」の対立構造を乗り越え、現場×SIer×ユーザー部門の“三者での定期振り返り”(プロジェクトレビュー)を設けることで、次のプロジェクトや保守運用に継続的な改善サイクルを根付かせることができます。

未然防止力を高める「仕組み化」アプローチ

1. ダブルチェック&クロスレビュー体制の構築

「ヒューマンエラー」によるリスクを徹底的に抑えるには、開発だけでなく業務要件や運用面においても第三者・他部署によるダブルチェック、クロスレビューを仕組みとして導入することが有効です。

これにより“自部署の常識”が“他者の非常識”でないかを早期発見できます。

2. 外部ベンチマークと横串モニタリング

自社だけの判断基準・プロジェクト文化に閉じすぎると、独自の失敗パターンから抜け出せません。

他社事例から学ぶ「ベンチマーク活動」、異なる事業部や工場間での“横横串モニタリング”を定例で行うことで、新たな気付きとリスク低減が生まれます。

3. 内製化・外注化の適材適所判断

自前主義と丸投げ主義の両極端は、どちらも大きなリスクを孕みます。

コア技術・重要ノウハウは内製化し、部分的・非中核システムは外注とする、“ハイブリッド型”での開発体制を都度検討します。

この判断には、バイヤー視点で「要求とコスト」「リードタイム」「品質コントロール可能性」を多面で評価する技量が必要です。

バイヤー・サプライヤー双方がリスク管理で持つべき視座

バイヤー(調達購買部門)が意識すべきこと

バイヤーは「安く、早く、発注する」だけが仕事ではありません。

サプライヤー選定時の技術ヒアリング力、納入後のアフターフォロー体制、万一のリスク対応能力まで見極め、社内事業部や工場への“リスク情報提供者”として振舞うことで、一段上の購買パフォーマンスが発揮できます。

サプライヤーが知っておきたいバイヤーの本音

バイヤーは「コストや納期」だけを見ているのではありません。

「現場で実際に動くか、将来の拡張やトラブル対応まで見越して付き合えるか」が本音です。

サプライヤー側もリスク情報や開発進捗をこまめに開示し、現場課題を“自分ごと”として提案・提起する「攻めのパートナーシップ」が今の時代では特に求められます。

まとめ:現場発のリスクマネジメントが未来をつくる

システム開発リスクは、単に発生後に対処するものではなく、現場に根差した“予防型・早期復旧型”アプローチがこれからの製造業に必須です。

本記事で示したノウハウは、昭和の時代から大きく文化が変わりつつある現場における、現実的な施策として効果があります。

自社の強みや現場の知恵を最大限生かし、サプライヤー、購買部門、現場オペレーター、IT部門一丸でリスクマネジメント文化を根付かせましょう。

それが、製造業の競争力と日本のものづくりの未来を拓くカギとなるはずです。

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