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ファッションのデザインと製造をつなぐための技術的コミュニケーション

目次
はじめに:ファッション業界におけるデザインと製造の溝
ファッション業界は、デザイナーのクリエイティブな発想と現場のモノづくりが車の両輪となって発展してきました。
その一方で、「どうしてこの指示が伝わっていないんだろう」「サンプルと出来上がりが全然違う」といった、デザインと製造部門間の意思疎通における摩擦は今も多くの現場で見受けられます。
この課題は、30年以上前の昭和時代から令和のデジタルシフトが進んだ今でも、本質的には変わっていません。
特に日本のものづくり現場は、熟練した職人の経験や暗黙知に頼る風土が色濃く、その「阿吽の呼吸」が逆にコミュニケーションの壁になることも珍しくありません。
この記事では、現場目線で「ファッションのデザインと製造を本当につなぐ技術的コミュニケーション」とは何かについて掘り下げていきます。
コミュニケーションギャップの背景と現状
1. デザインと製造の「言語」の違い
ファッションデザインは、感性や美的センスを重視します。
一方、製造現場は工程管理や品質基準などロジカルな思考が求められます。
双方が「言葉は通じている」のに「真意が伝わらない」というのは、この価値観や優先度の違いが根底にあります。
また、一枚のパターン図や、流行色名ばかりの仕様書だけでは、「なぜこの形にしたいのか」「どこがポイントなのか」という本質が現場に伝わりません。
このような背景が、現場での手戻りや納期遅延、サンプルのやり直しにつながっています。
2. 昭和的アナログ手法から抜け出せない業界の実態
近年は3D CADやPLM(Product Lifecycle Management)等のデジタルツールも普及しつつありますが、多くの工場やOEMベンダーでは、FAX・電話・対面での打ち合わせが「最後の砦」となっています。
一枚の布地サンプルや刺繍の写真に赤字で手書きの指示、ヒアリングベースの微調整。
これが現場のリアルです。
日本の製造業には、「現場力」「ものづくりへの誇り」という強みがある一方で、情報共有の遅れが意思疎通の阻害要因になっているのです。
デザイン-製造間で起こりやすいトラブルの具体例
1. サンプルとの差異
デザイン意図の未共有、素材特性の未説明、パターン指示の曖昧さが重なると、仕上がったサンプルが「イメージと違う」状態になりやすくなります。
現場でよく起きるのは、袖口や襟周りの微妙な形状違い、色味のずれ、プリントの配置ミスなどです。
2. 品質トラブル
デザイナーは「薄さ・軽さ・動きやすさ」を求めますが、現場は強度や耐久性、コストバランスを考えます。
結果としてデザイン重視で仕様を優先しすぎると、縫製不良や洗濯への不適合など品質問題が発生しやすくなります。
3. お互いの「言い分」のミスマッチ
バイヤーやサプライヤーの会話で多いのは、「これならできると思った」「言われた通りやった」など、責任転嫁になりがちなやりとりです。
両者が「自分の立場からの正しさ」を強調しすぎると、信頼関係の崩壊に直結します。
現場目線で見る技術的なコミュニケーションのポイント
1. 明確な仕様書・図面の作成
仕様書や図面は、伝えたいことを100%具体化する最大のツールです。
「パターン番号だけ書いて後は口頭で指示」「色見本の番号だけ伝えて現物なし」では、伝わりません。
「どこが一番重要なのか」「寸法公差の許容はどこまでなのか」「希望と絶対NGポイントは?」を、コメント欄などで必ず明記するべきです。
また、現場が本当に困るのは「図面の矛盾や未記入」です。
仕様書整備の段階で、工程ごとの関係者とクロスチェックを行い、分かりにくい点は必ず事前に質問しましょう。
2. 試作品・サンプル作りのプロセス共有
サンプルチェックでは、「ただ見て終わり」ではなく、現物を手に取り「なぜこう仕上がったか」を互いに確認する場が極めて重要です。
裁断や縫製での技術的な制約点、加工方法の限界、それぞれの職人の声を聞くことで、デザイナーも現場も納得できる落とし所を見つけやすくなります。
リモート時代にはビデオ会議やデジタル写真の活用、各工程の動画記録などを併用し、距離と時間の壁を超えてコミュニケーションを密にする工夫が必要です。
3. 品質フィードバックとナレッジの蓄積
出来上がった製品に対するフィードバックは、「NG理由の明確化」と「ノウハウの蓄積」が大切です。
問題があった場合は「なぜこのような問題が起きたのか」「事前に何を共有すれば良かったか」を書面やデータベースで記録し、次回以降の資料作成や会話例に反映させていきましょう。
「カイゼン提案」を積極的に行う文化をつくり、現場からも改善案を受け付ける仕組みを設けると、結果的に関係者全体のスキルアップにつながります。
昭和的な現場力とデジタル活用のハイブリッド戦略
1. 「現場の肌感覚」も大事にする
すべてをデジタル化・マニュアル化できる時代ですが、「この感触、この柔らかさ」「縫うときのコツや勘所」といった暗黙知も製造業には不可欠です。
昭和型のベテラン職人の経験をうまく言語化し、次世代にも伝承する努力が今こそ必要です。
現場全体で「どこをデジタルで」「どこをアナログで」伝えるべきかを明確にし、両者をブリッジする役割を担う人材(ブリッジエンジニアや現場リーダー)の育成も重要です。
2. PLM・デジタル連携ツールの本質的活用
3D CAD、PLM、チャットツール、クラウドの図面管理などは、単なる「連絡ツール」ではなくプロジェクト進行や現場理解促進のための「共通言語ツール」として活用すべきです。
たとえば、バージョン管理を徹底し「誰がどの時点でどう判断したか」を可視化することで、トラブル時の原因究明も容易になります。
また、デジタル会議の中に「現場担当者からの5分間ミニ報告」などを設け、日々の小さな声を共有する工夫も効果的です。
バイヤー・サプライヤー双方が知るべき相互理解のコツ
バイヤーが押さえるべき「現場の実情」
バイヤーは、納期やコストの視点で「無理のある要求」をしがちです。
しかし本当に品質を守りつつトラブルを避けるには、現場の作業負荷や技術的な限界を理解し、対話姿勢を持つことが最重要ポイントとなります。
可能であれば現場見学やワーキングショップを開催し、リアルな作業風景を体感することをお勧めします。
サプライヤー・製造現場が理解すべきバイヤーの視点
現場は「この仕様は難しい」と思うと、つい尻込みした説明や曖昧な返答になりがちです。
しかし、バイヤーの求める「なぜその仕様が必要か」「市場での立ち位置は何か」という情報を積極的にヒアリングすれば、本質的な提案ができるようになります。
例として「この部分のコストダウンは工程簡素化で可能です」「この部分の強度にはうちの独自技術が使えますよ」といった、技術面でのプラス提案ができる関係を目指しましょう。
ラテラルシンキングで築く、これからの技術的コミュニケーション
コミュニケーションとは「相手の立場に立つこと」「自分の考えを相手に届く形で伝えること」が基本です。
これからのファッションと製造をつなぐには、単なるモノづくりの伝言ゲームを超え、「なぜそのデザインがこの布で実現できるのか」「新しい素材や加工の技術がどんな価値を生み出すのか」を、デザイナー・現場・バイヤー・サプライヤーの全員が”共に探索”する姿勢が重要です。
AIやデジタル技術が進んでも、「人と人の熱量」が本当のイノベーションを生みます。
現場の肌感覚とデジタルツールのベストミックスによる新しい「業界標準」を共につくり、その知見をオープンに共有していく。
それこそが、これからのファッションと製造現場をつなぐ「技術的コミュニケーション」の新しい地平線なのです。
まとめ:現場とデザインが一体となる未来へ
ファッション業界の持続的な成長には、デザインと製造、それをつなぐ全工程のコミュニケーション改善が不可欠です。
バイヤーを目指す方、サプライヤーの立場の方、製造現場で働く方、それぞれがこの歩み寄りの重要性を自覚し、「伝え合う」「学び合う」姿勢を持てるかどうかが、これからの日本のものづくり全体を左右する時代です。
現場視点のラテラルシンキングを駆使し、誰もが「自分ゴト」として課題解決を進めましょう。
未来を担う人材として、現場のコミュニケーション変革にあなたもぜひ力を貸してください。
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