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日本企業が苦戦する“英語でのトラブル説明”の型

目次
はじめに:製造業における「英語でのトラブル説明」の壁
日本の製造業は、長年にわたり世界トップクラスの品質と信頼を築いてきました。
しかし、グローバル市場の広がりとともに、さまざまな国の取引先やサプライヤーとやり取りする場面が増えています。
その中で、特に悩みの種として多くの現場担当者やバイヤーが直面しているのが、「英語でのトラブル説明」です。
トラブルは予期せぬタイミングで起こり、迅速かつ的確な説明が要求されます。
しかし、その大部分は日本語で積み重ねてきたノウハウや暗黙知が土台にあり、一朝一夕に「英語で説明する力」を身につけるのは容易ではありません。
「単語が出てこない」「ニュアンスが伝わらない」「相手のリアクションが読めない」など、多くの日本人が苦戦しています。
この記事では、実際に20年以上現場で調達・購買、生産管理、品質管理を経験した立場から、“昭和のアナログ的慣習”が今なお色濃く残る日本製造業が、どのように英語でのトラブル説明を克服できるか、その型と実践術をお伝えします。
なぜ日本企業は英語でのトラブル説明が苦手なのか
言語だけの壁ではない「説明力」
日本人が英語のトラブル説明に苦手意識を持つ理由は、英語力の不足だけではありません。
日本のものづくり現場は「空気を読む」「忖度する」「阿吽の呼吸」といった非言語的コミュニケーションに長けてきました。
加えて、正確性や網羅性ばかりに意識が向きやすく、英語で「簡潔」「率直」「論理的」に伝える訓練が十分でなかった時代背景もあります。
また、“ミスやトラブルを極力隠す”風土も依然として強く、情報開示そのものに抵抗を持つ人も少なくありません。
そのため、トラブル説明となると、どうしても「言い訳がましい」「事実が曖昧」「状況説明が長すぎる」といった現象が発生しやすいのです。
昭和的な社内プロセスの影響
日本の製造業では今も「稟議書」「回覧」「社内決裁」といった重厚な手続きが色濃く残っています。
トラブル発生時に自分の判断で即答できる範囲が狭く、英語で即応するには“上司の顔色”が気になりがちです。
結果、「本音」として語りたいことがあっても、どこまで伝えるべきか逡巡し、踏み込んだ説明が遅れる傾向もあります。
“型”を身につけることがトラブル説明の第一歩
ここからは、現場でも即座に使える「トラブル説明の鉄板フォーマット=型」をご紹介します。
英語という言語の壁を超えて、相手に「誠意」や「信頼感」を伝えるには、“自分の言葉”を入れつつも「業界の共通ルール=型」に載せることが最も効率的です。
1. 結論ファースト(First, State the Main Point)
英語圏では、何よりもまず結論が求められます。
「We have an issue with ~」や「A problem occurred in ~」と『何が起きたか』を最初に端的に述べましょう。
例:
We have just discovered a problem with the painting process on shipment No.1234.
2. ファクトの整理(Explain the Facts, Not Opinions)
「いつ」「どこで」「何が」起きたのか、客観的事実を順序立てて説明します。
現場の生データや検査記録、写真添付も効果的です。
例:
The problem was identified during our final inspection on June 1st, 2024, at our Nagoya factory. We noted paint peeling off on 3 out of 100 units.
3. 原因調査(Cause Investigation:Root Cause)
客先が最も知りたいのは、「なぜ起きたのか?再発しないのか?」です。
調査途中でも、「現時点で分かっていること」「仮説」まで開示できる範囲で述べ、「継続中」を明確に伝えることが信頼構築に繋がります。
例:
We are currently investigating the root cause. So far, we suspect that humidity levels in the painting booth were abnormally high due to a failure in our air conditioning system.
4. 対応策・再発防止策(Immediate Actions and Preventive Actions)
問題の封じ込め措置や今後の対策を具体的に伝えます。
未完了の場合は、「今後の予定」と「確定次第連絡する姿勢」をセットで伝えます。
例:
We have stopped the shipment of all related products and have started a 100% inspection of inventory. Preventive measures, including stricter monitoring of booth humidity, are being implemented.
5. 責任の所在と誠意(Responsibility and Apology)
日本語的な「ご迷惑をおかけしました」は、英語圏でも大切なフレーズです。
ただし、「曖昧な責任回避」「曖昧な謝罪」は信頼を損ないます。
主語(We, I)を明示し、“当事者意識”を伝えましょう。
例:
We sincerely apologize for any inconvenience this has caused and appreciate your understanding.
トラブル説明が上達するための現場視点トレーニング
現場の「あるある」事例でロープレする
英語のニュース記事や教科書的な文章ばかり模倣しても、実務の現場とは乖離しがちです。
もっとも身につく練習法は、実際に現場で過去に起きた「よくあるトラブル」を題材に、ロールプレイング(模擬やり取り)を繰り返すことです。
例えば、
・納期遅延
・出荷時の数量不足
・品質不良製品の混入
・相手先工場での工程停止
など、自部署・自分史上で“リアル”に直面した場面を再現しましょう。
「型」と「バリエーション」のストックを持つ
型に沿った定型文をいくつか暗記してしまえば、応用力も高まります。
たとえば以下のような表現を「自分の言葉」にカスタマイズしてノートにまとめておくと、いざという時に慌てません。
・We have faced an unexpected delay due to ~.
・We detected some quality issues in ~.
・The cause of the issue is now under investigation.
・We will take full responsibility and keep you updated.
日英対訳マニュアルの自作
現場ごとに頻出するキーワードや注意点、過去のトラブル説明書を「日英対訳マニュアル」として蓄積しましょう。
アナログ的ですが、“昭和的な現場”こそ、こうした「地道な自作ノウハウ」が武器になります。
伝言ゲームでの情報ロス対策
特にバイヤーやサプライヤー間で多く見られるのが、現場→購買→海外営業→現地法人…と情報が伝達される過程で、本当の問題・温度感が薄れてしまうことです。
「本音」や「現場感」をいかに正しく翻訳し届けるか、そのための情報整理シートの作成や、写真・動画などの活用が効果を発揮します。
グローバル標準に学ぶ:トラブル説明の新潮流
デジタル時代のコミュニケーションツール活用
欧米アジア各国では「Teams」「Slack」「Zoom」「メール」などを使い分け、リアルタイムに情報共有が進化しています。
ビデオ会議であれば、現物や資料を画面で示しながら「視覚と言葉の両輪」で説明できます。
単なるテキストだけでなく、状態写真・動画添付・図解フローなど、マルチメディアで“伝える力”を高めましょう。
クイックレスポンス文化の導入
「社内決裁が終わるまで報告しない」では通用しません。
80%正確であれば、まずは英語で速報を一報入れる。
途中経過(update)→確定(final report)→再発防止策(action plan)という「段階報告」を習慣にすることが信頼醸成に繋がります。
サプライヤー/バイヤーの立場別:押さえておきたいポイント
サプライヤー視点
・「不具合を報告すると評価や取引に響く」と考えがちですが、隠蔽は最も信頼を失います。
・むしろ速やかな開示・改善提案をセットですることで“問題解決型パートナー”として評価されます。
・現場担当者から直接説明できる訓練をしておくと、営業部門への情報伝達ロスも防げます。
バイヤー視点
・本国・海外顧客と日本サプライヤーの板挟みになりがちです。
・現場の生情報(写真・現品)と社内報告用の「フォーマット英文」を両建てで用意し、二重管理の手間を減らしましょう。
・「原因究明に時間がかかることが当たり前」という文化を持つ海外もあります。途中経過の報告を根気強く続けることが重要です。
まとめ:製造業DXの本質は「伝える力」の進化にあり
製造業の現場が、ただデジタル化・自動化するだけでは「真の競争力」は生まれません。
一人ひとりが「論理的・簡潔に英語で説明する力」を身につけることが、これからのグローバルビジネスで生き残る条件となります。
古き良き昭和の現場文化の良さと、新しいグローバル標準との「折衷路線」を自分なりに取り入れつつ、日々の現場トラブルを“世界で共有できる言語”で説明する訓練を続けましょう。
“型”を味方にすれば、アナログな工場現場でも必ず壁は乗り越えられます。
それが「日本製造業の底力」となる時代は、もう目前に来ています。
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