投稿日:2025年11月3日

ニットとカットソーの違いを製造面から理解するための構造知識

はじめに:ニットとカットソー、その違いをなぜ知る必要があるのか

製造業に携わる方々、特にアパレル業界の調達・購買担当、品質管理担当、そしてサプライヤーにとって、「ニット」と「カットソー」の違いを構造的に理解することは非常に重要です。

この二つを単純に「服の種類」として捉えるだけでは、本質的な原材料選定、生産プロセスの最適化、品質コントロール、省力化、自動化導入の判断まで正確性を欠いてしまいます。

現場で起こりがちな誤解や、業界に根深く残る「なんとなく」の使い分けを、製造工程とそれに紐づく管理観点からクリアに紐解きます。

ニットとカットソー - 言葉の定義と業界動向

用語の混乱はどこから始まったのか

ニットとカットソー、そして「布帛(ふはく)」。
これらの用語には、日本の繊維・アパレル業界特有の曖昧さが長らく存在しています。

「ニット」は編み物全般を指しますが、日本では「カットソー」とほぼ同義語のように使われることも珍しくありません。

一方「カットソー」は「Cut(切る)」「Sew(縫う)」から来ており、編地(=ニット生地)を裁断・縫製して作る衣類全般を意味します。

しかし、実際の資材調達や生産指示の現場では、この認識のズレが混乱やトラブルの元凶となっているケースが多いです。

昭和時代から続くアナログな商慣習とその壁

多くの工場や商社では、かつての習慣が色濃く残っており、材料マスタや部品表(BOM)登録時にも「なんとなく」で分類されることがあります。

取引先が変われば呼び方も変わる。
標準化された品目コード運用になっていない企業では「伝承ベースの知識」が現場で流布し続けます。

今、製造業に求められているのは曖昧さからの脱却です。

素材・構造・工程ごとのロジックで違いを明確にする発信が、業界発展には不可欠といえます。

製造面から見ると違いはここにある

素材と構造:ニットの正しい理解

ニットとは、糸やヤーンをループ状(輪)に組む編み構造による生地の総称です。

大きく分けて丸編み(経編・横編み)や、機械編み、手編みに分かれます。

生地の伸縮性が高く、ドレープ感や肌当たり、着心地の柔らかさを作りやすいのが特長です。

また、ループ構造のため切りっぱなしでもほつれにくいメリットがあり、特殊なデザインやパターン作りにも適しています。

カットソーはアイテムの呼称

一方で「カットソー」は、ニット生地(編み物生地)を使った衣類アイテムのジャンルを指す場合がほとんどです。

つまり、カットソーとは「ニット生地をパーツ分割し、縫い合わせて作るウエア」という位置付けになります。

ジャンパーやTシャツなど、カジュアル衣料の多くはこの製法です。

ニット生地を「裁断」して「縫製」するので、手間やコスト、工程管理も通常の布帛製品とは異なります。

布帛(ふはく)との違いを意識する

布帛とは、縦糸と横糸を交差させて織った生地、すなわち織物です。

糸同士のクロスによるため、伸縮性は低く、形状保持性や仕立て映えする衣類(スーツ、ドレスシャツ等)に適します。

これらに比べて、ニット生地は圧倒的な伸縮と柔軟さを備え、Tシャツやカジュアルウエア全般に不可欠な存在となっています。

工程管理と設備:ニット・カットソーでここまで変わる

製造プロセスの違いを押さえる

編み機(丸編み機、横編み機など)のコントロールがキモとなる「ニット生地製造」は、品質管理や設備保守の負荷も高くなります。

編目の密度・テンション・糸切れ・編みムラ制御は高度な職人技や熟練管理も必要です。

一方、布帛は織機(シャトル織機など)で一定幅に長尺生地を織るため、不良の出方や修正基準、後工程での「裁断」や「縫製」でのチョコ停やロスの発生点が異なります。

カットソー製品は、編地の伸縮特性を活かす設計と、裁断・縫製工程双方への注意が必須です。
とくにテンション管理・アイロン・二次加工(プリントや刺繍など)も含めたQCD(品質・コスト・納期)バランスが求められます。

自動化・省力化導入の壁

近年では自動裁断機、全自動縫製ロボットの導入も進んでいますが、ニットやカットソーに特有の伸縮・型崩れリスクが自動化の大きな障壁となっています。

布帛に比べ、カットソー・ニットの量産現場は「人手(熟練工)」依存が依然として強く残る領域です。
工程改善や自動化コンサルを狙う方は、この現場特性を押さえた提案が欠かせません。

現場で使える!調達・バイヤー目線の注意点

バイヤーが重視すべき勘所(かんどころ)

バイヤー(調達担当)は、品種決定段階で「生地が織物か編物か」を明確にすり合わせておくべきです。

生地サンプルの依頼時には「品番・編み組織・素材混紡率・仕上げ方法」まで細かく確認しましょう。

“なんとなく”カットソー、“なんとなくニット”で商談を進めると、仕様相違や品質トラブルの温床になります。
できれば基本スペック表(テンプレート)も独自に用意し、各サプライヤーの製造基準もリストアップしておくと効果的です。

バイヤーとサプライヤーの意識齟齬をなくすには

サプライヤーはバイヤーからの依頼内容を「専門用語」と「現場実態」とで二重に確認することが大事です。

打ち合わせやメールで交わされた「カットソー生地」とは、どの種類の編みか?混率は?厚み規格は?などをすぐに“モノ”に落としてチェックしてみる。

現場で発展してきた暗黙知こそがトラブル予防のカギとなります。

品質視点:なぜ「違い」を見極める必要があるのか

不具合・トラブルの温床を解消する

布帛生地を「カットソー用」で発注してしまい、量産後に「想定伸び率が足りない」「ピリング(毛玉)が生じやすい」「風合いがターゲットと合わない」といったクレームは、典型的な現場トラブル例です。

品番だけで判断せず“構造”で識別し、試験データや検証サンプルも活用してリスクヘッジすることで、不良コスト・ムダな再発注を回避できます。

品質管理の自動化・基準書のブラッシュアップ

品質基準が曖昧なまま運用され続けていると、検品や納品トラブルが多発しがちです。

今こそ「生地構造・製法別のチェックリスト」を作り、現場標準書の充実・共有化を進めることが必要です。

繊維・アパレル業界でもDX化やIoT導入が進む中で、現場視点を兼ね備えた“構造知識”こそが次代のQCD管理の軸となるはずです。

製造業の新たな進化に向けて

ニットとカットソーの違い――。

一見すると古臭い話題にも感じるかもしれません。
ですが、業界動向や自動化、省力化といった次代の製造現場に関わるあらゆるステークホルダーにとって、この構造知識の明確化こそが競争力向上の第一歩です。

国内生産から海外OEM・ODM委託体制に至るまで、きちんと「言語」と「モノ」を合わせていく力が問われています。

バイヤーもサプライヤーも、エンジニアもマネジメント層も。
それぞれの立場から、「違い」を構造的に認識し、現場に根付く“曖昧さ”をアップデートしていく姿勢が、これからの製造業発展をリードしていきます。

ニットとカットソーの違いを、もう一度、貴社・貴工場の現場から見直していく。
これこそが“失われた30年”から“次世代製造業”へのブレイクスルーになり得るのです。

You cannot copy content of this page