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価格だけでサプライヤーを選ぶ顧客の限界

目次
はじめに:価格競争の先に見えるもの
製造業の現場に長く身を置いていると、「コストダウンこそ正義」「値段の安い会社が勝つ」といった考えが、根強く存在していることを実感します。
昭和の高度成長期から続くこの価格重視の姿勢は、多くの工場やバイヤー、経営層にとって“常識”になっています。
しかし、現場を知る立場からは「価格だけでサプライヤーを選ぶ危うさ」を痛感する場面が次々と表れてきました。
この常識が、現在のDX化やグローバル競争の激化、品質要求の高度化といった業界動向の中で、もはや“時代遅れ”となりかけている事実に気づくことも重要です。
今回は、調達購買の現場目線で、なぜ「価格だけでサプライヤーを選ぶ顧客」が限界に陥るのか、その構造と“脱・価格主義”の道筋、日本の製造業の発展のためにできることを深掘りし、具体的にお伝えします。
価格最優先の調達がもたらす3つの落とし穴
1. 品質低下と保証コストの増大
製造業では「品質不良=コスト増大」という構図がつきまといます。
例えば、価格が極端に安いサプライヤーを採用した直後は、一見コストダウンに成功したように見えるでしょう。
しかし、実際に流れてくる部材や加工品の品質にバラツキが増えて、組み立て時や最終製品チェックで手戻りや再検査が頻発します。
現場としては「リードタイムの遅れ」「現場にかかるストレスの増加」「検査トラブル」など、目に見えない“隠れたコスト”が膨らんでいきます。
最初は調達金額が下がったとしても、クレーム対応や保証対応などの事後コストが跳ね上がり、結果として“トータルコスト”ではむしろ増加する。
このような「目先の価格」だけを見てサプライヤー選定を行う落とし穴は、今なお工場現場で散見される事例です。
2. サプライチェーンの脆弱化
価格だけを基準に、常に最安サプライヤーへと流動的に切り替えていくやり方は、一見合理的にも映ります。
ですが、サプライヤーとの信頼関係や、安定したリードタイム、突発トラブル時の柔軟な連携体制などは築かれづらくなり、サプライチェーン全体が弱体化します。
例えば、昨今の半導体不足や材料高騰、自然災害対応のような“突発事態”発生時にも、価格だけで選び続けてきたバイヤーは「本当に必要な時に融通が効かない」「納期を守ってくれない」などのリスクに直面します。
現場対応も間に合わず、結果的に大口顧客(エンドユーザー)への納期遅延や社会的損失につながるのです。
3. 技術継承やイノベーションの喪失
価格だけでサプライヤーを手当たり次第に入れ替えるやり方では、「困ったときに技術支援をしてくれる協力会社」「新しい工程や材質に提案をしてくれるパートナー」との関係まで切り捨てられる恐れがあります。
特に、日本の地場中小企業には“独自ノウハウ”や“小回りの利いた対応力”といった財産が眠っています。
価格主義があまりに蔓延すると、これらの価値が正当に評価されず、サプライヤー側のモチベーションやイノベーション意欲も削がれてしまいます。
結果的に、業界全体が「安かろう悪かろう」の悪循環に陥る危険も否定できません。
サプライヤーから見た顧客の「価格主義」問題
サプライヤーの立場から見たとき、「価格だけ見て選定する顧客」にはこんな悩みや不満が増えています。
・手間がかかる図面確認や細やかな対応も無料奉仕扱い
・要求レベルが高いのに、価格交渉は厳しい
・長期的な付き合いができないため、先行投資や工程改善に踏み切れない
結果として、「価格だけのお客さんは、忙しいときにはキャンセルする」「新しい技術や提案は別の顧客に出す」というマインドが広がります。
バイヤー側が本当に欲しかったはずの“薄利多売を超える付加価値”を逆に失っていくのです。
なぜ製造業現場では「価格主義」が根強いのか?
昭和から令和に至っても、なぜここまで業界に価格至上主義が定着しているのでしょうか。
その背景には、
・原価低減が経営数値でわかりやすく評価される
・日本企業特有の減点主義文化で、価格以外のリスクは避けたい
・購買部門へのKPI(コストダウン額)が厳しく求められる
といった、組織の“評価の構造”そのものが影響しています。
また、現場の生産管理・エンジニア・経営層といったプレイヤー間で、価格以外の指標の“見える化”や“合意形成”が弱く、「コストだけしか見ない方が楽」「経営会議で説明しやすい」といった根深い意識がいまだに残っています。
脱・価格主義のために現場が実践できるアプローチ
価格だけでサプライヤーを選ぶ限界に気づいた時、製造業現場やバイヤーが実際にできることは何でしょうか。
段階的に実践できるポイントを挙げてみます。
1. QCDの「C」だけでなく、「Q」「D」も数値化して評価する
品質(Quality)、コスト(Cost)、納期(Delivery)をトータルで評価する「QCD法」が、ここ数十年叫ばれていますが、現場や購買部門で「C(コスト)」のみ突出して管理されがちです。
自社基準となる「不良発生率」「緊急トラブル時の対応速度」「新製品立ち上げの実績」「納期遵守率」などを、客観的に記録・点数化して、価格以外の価値を“可視化”することが大切です。
定量化された現場情報があることで、「多少値段が高くても、この会社は安心して任せられる」という選択肢を、根拠をもって作れるようになります。
2. サプライヤーとのオープンなコミュニケーションを強化する
製造業現場の中には、「サプライヤーは下請け」「注文書を出すだけで十分」という距離感が残りがちです。
ですが、時代は“共創”やパートナーシップに大きく傾いています。
・年に数回、定期的にサプライヤーミーティングを行う
・現場見学や工程の見直し提案を受け入れる
・コストアップ要因(材料高騰や、技術案件)の背景も共有する
こうした姿勢を見せることで、サプライヤー側も「この顧客のためなら頑張って付加価値をつけよう」という意欲が出てきます。
長期的な信頼関係の構築が、結果的に真のコストダウンやイノベーションを生み出します。
3. 部署横断で“総合力”を重視する全体最適化
製造業では、購買、設計、生産、品質管理など部署ごとに評価指標がバラバラな“縦割り”組織になりがちです。
だからこそ、
・購買だけにとらわれず、「現場の困りごと」や「顧客満足度」まで視野を広げる
・部門横断でサプライヤー評価会を設置する
・“部分最適”のコスト削減が本当に全体最適なのか検証する
こうした全体最適視点を持つことで、価格だけでは測れない現場価値を発掘しやすくなります。
価格競争に頼らないバイヤーになるには
これからの製造業において、「安いものを集めれば成果」という時代は終焉を迎えつつあります。
本当に価値を生み出すバイヤーとは、“必要な価値基準”を見極め、「価格≠価値」の部分を最大限引き出せる存在です。
例えば、
・高品質が必要な工程では“技術力や保証体制”も含めた総合評価
・新規開発品には“試作や技術フォロー”ができる会社を選ぶ
・サステナビリティ(環境対応)の意欲が高い会社と組む
こうした視点を持ち、「信頼できるサプライヤーと長く育て合う」ことが、結果的に自社の競争力を底上げします。
まとめ:「今こそ価値基準のアップデートを」
「価格だけでサプライヤーを選ぶ顧客」の限界は、調達購買の現場や工場運営、生産管理の課題、さらには日本全体の製造業競争力の弱体化に直結しています。
これからの時代、単なるコスト削減から、“現場目線のQCD”やサプライチェーンの総合力、イノベーション力をバイヤー自身が引き出せるようになることが、何より重要です。
サプライヤー側も、顧客がこうした価値観にシフトしていることを敏感にとらえ、「価格以上の成果」「顧客ニーズの先読み提案」ができれば、共に成長できる環境が生まれます。
製造業現場で働く方、調達購買を志す方、そしてサプライヤーの皆さまに向けて、「価格主義から価値主義への転換」という新たな地平線を、共に切り開いていきたいと願っています。
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