投稿日:2025年12月11日

データ分析で不良原因が特定できない“魔の工程”の存在

はじめに:製造業の現場で直面する“魔の工程”とは

製造業の現場では、生産性向上や品質安定化のために、あらゆるデータ分析や現場改善が日々取り組まれています。

しかし、それでもなお、不良が繰り返し発生し、その根本原因が特定できない工程が存在します。

このような工程は、一般的に“魔の工程”と呼ばれ、現場担当者・管理職にとって長年の課題となっています。

今回は、不良の原因がデータ分析では見つからない“魔の工程”について、現場視点から掘り下げ、なぜこのような事象が生じるのか、解決の糸口はどこにあるのかを探ります。

製造業で働く方、特にバイヤーやサプライヤーの方々にも役立つ視点を交え、リアルな現場の声やアナログ文化の壁についても深く考察します。

データ分析が万能ではない理由

期待されるデータ分析の役割

近年、IoTやビッグデータの技術が工場の現場に導入され、工程ごとのデータ計測や品質記録が飛躍的に進みました。

プロセスデータや検査値、設備の稼働状況など、あらゆる情報が収集できるようになり、AIを活用した異常検知も一般化しつつあります。

データに基づいて原因を特定することは、本来ならば再現性のある論理的手法によって不良減少へと直結します。

それでも解決できない“不明原因・魔の工程”

一方で、多くの現場ではこうしたデータ分析を何年続けても「決定打が見つからない」「理由が分からないまま不良が散発する」という事例が後を絶ちません。

要因を洗い出せば洗い出すほど迷路に入り込み、関連データに目を通しても有意な傾向が見いだせません。

いわゆる“魔の工程”と称される状況です。

これは工程の問題だけでなく、サプライヤーとの関係や生産チェーン全体の構造的弱点とも密接につながっています。

なぜ“魔の工程”が生まれるのか:5つの本質的原因

1. データの粒度や質の課題

現場で取得されるデータには、粒度や精度のばらつきがあります。

たとえば、検査タイミングが適切でなかったり、温度や湿度など設備以外の環境変数が十分記録されていなかったり、人的作業(手作業)のバラツキが数値化できていなかったりします。

こういった“見えない変動”が原因の場合、どれだけデータを多重に解析しても、肝心な要因を検知できないのです。

2. “アナログな暗黙知”に依存した現場文化

日本の製造現場では、昭和時代から続く“職人のカンと経験”に頼る文化が強く残っています。

優れた作業者のノウハウは紙の日報や口頭伝承でのみ共有され、デジタル化されていないため、技術伝承ミスや非定量的な要因が生じやすいのです。

また、作業ごとの差異も「なぜ」ではなく「なんとなくそうしている」で済まされることが多く、こうした“暗黙知”がデータ分析の盲点となっています。

3. 不完全な設計変更・プロセス変更履歴

打ち合わせや現場判断による設計改修、材料変更、小型化・省力化のための小改良が頻繁に生じると、正式な図面や標準書は後追いになりがちです。

履歴が更新されないままの現場では、データの比較軸があいまいになり、“現場で何が変わったか”を誰も正確に把握できません。

そのため、「過去にはなかった不良」が発生しても、設計や材料の変更点と直接結びつけることが難しいです。

4. サプライヤーや外注先の工程・品質の“ブラックボックス化”

バイヤーや調達担当者の視点でみても、サプライヤーの現場で実際に何が起きているのか、外部工程のデータや作業内容を把握しきれない場合が多くあります。

管理図や検査成績だけでやり取りする商習慣は根強く、現地現物でデータを突き合わせる機会は意外と限られています。

この“見えない部分”が、魔の工程の大きな要因になるのです。

5. ヒューマンファクターとタイミング要素

人の動きやその日の体調、感覚の違いによる微妙な作業の差異が、不良発生のトリガーとなる場合も少なくありません。

属人的な作業が多い場合、「たまたま」や「偶然」発生する異常は、データ化も予測も極めて困難です。

アナログからの脱却と“魔の工程”解明への道筋

アナログ文化の強みと弱みを再認識する

古き良き現場力やアナログなノウハウにも“合理的で根拠ある技術”が隠れています。

一概にアナログを悪と捉えるのではなく、“なぜ長年続いてきたのか”を構造的に理解することも、魔の工程を解明するヒントとなります。

ベテラン作業者の経験談やトラブル対応メモ、改善活動の振り返りノートなど“データ化されない情報”の活用も大きな鍵です。

見えない部分を“可視化”するラテラルな視点

“魔の工程”を可視化するためには、既存データに縛られず、他業界の知恵や視覚化ツール、現場観察を積極的に取り入れる “ラテラルシンキング”が重要です。

例えば、サプライヤーと共同でFMEA(故障モード影響分析)や工程FMEAを実施し、“リスクが見えにくいゾーン”を事前に洗い出すこと。

また、映像記録やロギングによる「時間軸での全体動向の把握」や「異常時の微妙な環境変動把握」も効果的です。

データと現場の“往復運動”で仮説検証を回す

現場巡回で作業者の「実感」をインタビューし、その内容をヒントにデータを再分析する。

一度立ち止まって、データから仮説を立てて現場で裏付けを取り、結果を共有し合う。

この“往復運動”を根気よく続けることで、データ分析とアナログ感覚のギャップを埋め、一歩ずつ真の課題を明らかにできる可能性が高まります。

バイヤー・調達担当者に求められる現場視点

サプライヤー任せにしない“工程見える化”への巻き込み力

バイヤーや調達担当者が品種変更や価格交渉だけでなく、サプライヤーの“魔の工程”把握に深くコミットすることが求められる時代です。

現場見学や工程監査を単なる形式的行事にせず、「問題が曖昧なままになっていないか」「現場と設計者が納得できているか」を本気で突き詰める必要があります。

また、サプライヤー側からも「自社の魔の工程」についてバイヤーと知恵を共有することで、モノづくり全体の最適化が進みます。

共創型の“原因究明文化”を社内外に根付かせる

不良品解析や品質トラブルはサプライヤーだけの責任ではありません。

ユーザー・バイヤー・現場担当者が一体となり、データと現物を突き合わせて改善の輪を広げる“共創型文化”の構築が不可欠です。

「なぜ起こったか」「なぜ見逃したか」「どこに再発防止のギャップがあったか」を身近な現場レベルから真剣に問い直しましょう。

まとめ:“魔の工程”に挑む知恵と覚悟

どれだけAIやIoTが進化しようとも、魔の工程は簡単には消えません。

なぜなら、“見えにくいリスク”や“アナログ的な知見”は、デジタルデータだけでは定量化できないからです。

しかし、現場力を活かし、見落としがちなサインや変化を多角的に捉える工夫を積み重ねれば、必ず突破口は見つかります。

バイヤー・サプライヤー・現場担当者が立場を超えて“一つの現場問題”として連携し、データと現物、そして経験知を結集させること。

その積み重ねこそが、魔の工程から脱却し、強い工場・強いサプライチェーンを築く原動力となります。

皆さんもぜひ、自社現場やパートナー企業との協働を通じて、魔の工程に挑む一歩を踏み出してください。

現場の知恵と最新技術を融合し、製造業の新たな価値創造に一緒に取り組みましょう。

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